TRIP 腐的妄想

某5人組アイドルの腐的(BL)妄想小説です。成人女性限定でお願いします。

風雲 下 - つなぐside story -

つなぐ


「お前、動けるのか!?」

猫又が叫んだと同時に、猫又の後ろから、鋭い手刀が飛んでくる。

身軽な猫又が、空に飛び上がる。

手刀は櫻井の鼻先三寸の空を切り裂く。

「なんだ、結構早いな?」

猫又が飛び上がったすぐ後ろに、手刀を飛ばした智がニヤッと笑って立っている。

もう娘の姿ではない。

いつもの直垂(ひたたれ)姿の智に、櫻井が口を尖らせる。

「遅いではありませんか。」

「そうか?お前が式を飛ばすのが遅いのだろう。」

智は前屈みになると、軽くつま先を立て、猫又を追って飛び上がる。

「うそおっしゃい。私の様子を見ていたくせに。」

櫻井は自由になった体を確認するように肩と首を動かしながら空に向かって叫ぶ。

「お前がわしを呼ぶところが見たかったんだが……。」

猫又と同じ高さまで飛び上がり、猫又に向かって拳を突き出す。

「わしの我慢がならなかった!」

手の平を開くと、勢いよく圧が放たれる。

一瞬早く右に逃げる猫又。

それを追って、智も右に移動する。

「ふん、なかなかいい動きだ。」

智は笑いながら猫又を追う。

「だが、わしほどではないな。」

「白狐!なぜ、人の味方をする!お前も妖ではないか!」

猫又が今度は近くの樹の上に飛び移る。

「お前は人の言いなりになるのか!」

猫又は姿を隠すように枝の影に入って行く。

「ちっ。」

樹々の間に入られてはやっかいだ。

姿を見失っては追いきれない。

智が舌打ちすると、ヒラヒラと式が飛んで来る。

10間(けん)ほどの間隔で広がると、猫又と智を中に、四角い結界を作る。

「しまった!」

猫又の叫びが櫻井にまで届く。

智の体が猫又の前で止まる。

「これで逃げられぬな?」

智の手の平が広がる。

「やめろっ!」

空を切り裂く波動が猫又を捉える。

「ううっ!」

圧は猫又を地面に向かって吹き飛ばす。

「う、うあ~~~っ!」

猫又の体は、地に穴が開くほど打ち付けられる。

「うっ!」

すかさず櫻井の指刀が猫又の額を押さえる。

「ノウマクサンマンダ……。」

猫又の体が、シューッと音を立てる。

「や、やめろ!やめてくれ~っ!」

猫又の後を追って、地に下りて来た智が、櫻井の隣に並ぶ。

「なぜ人の味方をするのかと聞いたな?」

智は、空気が抜けるように、小さくなっていく猫又を見つめる。

「人の味方をしているのではない。

 わしはこいつの味方なだけだ。」

見る見る小さくなっていく猫又が、最後の声を上げる。

「あ、妖が妖を退治するのか~っ!」

智はふぅと息をつく。

「退治ではない。本当の姿に戻すだけだ。」

猫又の体が小さな山猫になると、櫻井の指が離れる。

「行くがよい。もう、人里に出てきてはいけないよ?」

櫻井がそう言うと、山猫は飛ぶように山の中に帰って行く。

「ニャ~ッ!」

山猫の姿が藪に消えると、櫻井の元にヒラヒラと人型の紙が飛んでくる。

櫻井の目の前で人型が揺れる。

「……なんと。早く帰らなければ。雅紀さん達が妖に……。」

櫻井が心配そうな顔を智に向ける。

「そう心配することもなかろう?鬼っ子はそんなにヤワではないぞ?」

「そうですが、はるさんも一緒です。はるさんを庇いながらでは……。」

櫻井の手が智の袖を掴む。

「仕方ないな。……乗れ。」

智は櫻井を掴んで背中に背負う。

「え?まさか……。」

「しっかり掴まっていろ!」

智は背に向かってそう言うと、膝を思いっきり曲げる。

「ま、待ってください。心の準備が!」

「うるさい!目をつぶっておけ!」

智は、首にしがみ付く櫻井の顔を確認し、ニヤッと笑う。

「飛ぶぞ!」

飛び際、ぎゅっと目をつぶる櫻井に、軽く唇を当てる。

「き、狐殿!」

智は曲げた足を一気に伸ばす。

空に向かって飛び立つ二人の体が、風を切る。

櫻井の腕がさらに強く智の首を締め付ける。

「く、苦しいだろうが!」

櫻井の腕を引き離し、さらに上に飛び上がる。

「急ぐぞ!」

「は、はいっ。」

櫻井はぎゅっと目をつぶり、智の背に顔を押し付ける。

「はっはっは。いつもそうしておけ!」

怖がる櫻井に満足し、智が高らかに笑う。

「え?なんですか!?何か言いました?」

智の声は、風の音に掻き消され、櫻井には聞こえない。

「可愛いと言ったのだ!」

「な、何も聞こえませんっ!」

二人の体が、山の上に飛び上がる。

雲を蹴散らし、空を駆ける。

月に照らされたその姿を、子狸が見つめる。

遠く西の、地と空の境に輝く星が、一際大きく光ると、二人の影が消えていく。

山の麓、鬼の子雅紀と、二人の血を分けた、はるの元へ。










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風雲 中 - つなぐside story -

つなぐ



しばらく行くと、上等な笠を被った女とすれ違う。

女は急いでいるようで、櫻井に目もくれず、道を進んで行く。

こんな時分に女が一人歩きなど、危険極まりない。

「もし。」

櫻井が声を掛けると、女がハッとして振り返る。

「はい……。」

笠で顔は良く見えないが、二十五、六だろうか。

どこぞの奥方といった風情だ。

上流の奥方が、供も連れずに一人で出歩くなど、到底考えられない。

「こんな時間に一人歩きは危のうございましょう。」

櫻井が言うと、女が困ったように顔を歪める。

「ご心配、ありがとうございます。

 ですが、子供の具合が悪いのでございます。

 山の麓に腕のいい薬師がいると聞きまして、そこへ向かっております。

 家の者は足を悪くしておりますもので、わたくしが……。

 子供に少しでも早く薬を飲ませてあげたく、急いでいるのでございます。」

「それはお気の毒に。」

櫻井は女の肩に手を掛ける。

「私が持っている薬でよければ、お使いください。」

印籠から薬の包みを二つ取り出し、女の手に握らせる。

「痛み止めでございます。子供でしたら、包みの半量を朝と晩に飲ませてあげてください。

できるだけ白湯もたくさん飲ませるようにして。」

「ああ、かたじけのうございます。」

女は深々と頭を下げる。

「もしよろしければ……、一緒に我が家に来てはいただけませんか。

 今は手持ちがありませんが、ぜひ、お礼をさせてくださいませ。」

「いいえ、そのようなお気遣いは無用でございます。

 私も急いでおりますので、これで失礼……。」

櫻井がそう言うと、女の手が櫻井の手を握り締める。

「そんなことをおっしゃらずに……。」

柔らかい女の手が櫻井の手を自分の胸に押し当てる。

「ぜひお礼を……させてくださいませ……。」

女が淫靡な顔で笑う。

櫻井の背筋がゾクッとし、女の手を払おうとして、動きが止まる。

「クックック。もう動けまい?」

笑う女の口が、見る見る耳まで裂けて行く。

「な、なにを……。」

櫻井の手を引き、抱き寄せると、女がクンと匂いを嗅ぐ。

「ほんに、美味しそうな匂い……。

 あやつが離れるのを待っていた甲斐があったわ。」

動けない櫻井の頬を、女の舌がペロッと舐める。

「あやつ……?」

「狐に決まっておろう。

 できれば疲れとうないからな。」

女の手が徐々に丸くなっていく。

「そなた……猫又か……。」

「ふふふ。気づくのが遅すぎたねぇ。

 今頃気付いても……もう、何もできまい?」

すっかり猫の顔に戻った猫又が、クスクスと笑う。

「さて、どうやって頂こうか?

 こんなに美味しそうな獲物は久しぶりだ。

 ゆっくり味わって……。」

猫又の舌が、櫻井の胸の合わせの間を這って行く。

「うっ……。」

櫻井が呻く。

「ああ、思った通り、いい味だ。

 精気もいいが、人の皮って言うのがこれまた美味でな。

 お前のは特にいい味だ。

 この皮は綺麗に剥がして取っておこうか。

 そうすれば、いつでも舐められる……。

 攫って来た人間に被せて、楽しむのもいいのう。

 お前とそっくりな人間が出来上がるぞ。」

猫又がジュルッと舌なめずりする。

「何を馬鹿げたことを……。」

「そう思うか?」

猫又の目が細く光る。

手の平を櫻井の前に広げると、鋭く曲がった爪がにょきにょきと伸びていく。

「私の爪はよく切れるんだよ。皮と肉の間を綺麗に割いてあげようね。」

猫又が、爪の先を舐め、櫻井の顔に顔を近づける。

「まずは……傷つけないよう、精気をいただくとするか?」

邪魔な笠を投げ飛ばし、櫻井の胸元を開く。

「この皮を味わいながら……。」

猫又の手の平が櫻井の胸を撫でる。

大きく裂けた口が、櫻井を飲み込まんと近づいていく。

「うっ、くっ……。」

「いい顔だねぇ。恐怖に歪む顔がまたそそる……。」

「それはそれは……。すみませんねぇ。

 歪んだ顔が地顔なんですよ。」

櫻井がニッと笑うと、猫又の動きが止まる。










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風雲 上 - つなぐside story -

つなぐ



「この辺か?」

「この辺りですな……。」

旅装束の櫻井が周りを見回す。

夕刻の薄暗くなり始めた時分である。

山深い一本道には、人っ子一人いない。

シンと静まり返り、鳥ですら飛び立つ様子がない。

櫻井は、怪訝な表情で藪に視線を送る。

妖しい影が動こうものなら、すぐにわかりそうなものだ。

「本当にこの辺でいいんだろうな?」

「そのはずなんですけどねぇ。

 ここに出る妖は、あの和也殿ですら質が悪いと言っておりましたから、

 狐殿も気を緩めますな。」

「ふん、誰に物を言っている?

 わしは1000年を生きる白狐ぞ?」

「狐殿、先ほどから、言葉遣いが男になっておりますよ。

 それでは妖でなくてもバレてしまいます。」

櫻井は隣に並ぶ美しい娘に笑いかける。

娘の笠に手を掛け、頬に掛かる髪を指で掬い、満足そうにうなずく。

「ふん、言われなくともわかっておるわ。

 ここにはわしら二人しかおらんだろうが。」

「いつ現れるかわからないのですから、用心してくださらないと。」

娘の頬を、悪戯に指先で弄ぶ櫻井に、智が目を剥く。

「く、くすぐったいわ!」

その手を跳ね除け、頬を膨らませると、大股で櫻井の前を歩いていく。

着物の裾避けが開き、白く細い足が櫻井を心配にさせるほど、完璧な変化だ。

「狐殿、お気を付けて。」

「わかっておるわ。いちいち、うるさいのう。

 何度も言わすな。わしは1000年を生きる白狐だ。」

「狐殿が強いのはわかっております。

 ですが……もう精気を吸っておりません。」

櫻井が厳しい表情で智を見つめる。

「それがどうした?精気など吸わなくとも、その辺の妖にわしが殺られると思うか?」

「そうではありませんが……。猿も木から落ちると申しますから。」

「わしを猿だと申すか?」

櫻井は、ふぅと息を吐き、智の肩に手を掛ける。

「いいえ、強く気高く美しい……私の伴侶だと思っておりますよ?」

智の頬が仄かに染まる。

「う、うるさい!お前はそう言うことをさらっと言う!」

「素直に答えただけなんですがねぇ。

 美しいものを美しいと言うのは、至極自然なことではございませんか。」

櫻井が涼し気に笑う。

「ええい、もういい!黙れ。」

怒りながらも、智の顔が赤くなる。

それを隠すように、スタスタと歩いて行く後ろ姿を見て、櫻井がクスッと笑う。

「待ってください。」

「黙って着いて来い!」

櫻井は苦笑いして智の後に続いた。



しばらく歩いたが、西の空に星が輝き出しても、妖が現れる様子がない。

櫻井は首を捻って智を見下す。

「私が一緒にいるのがいけないのでしょうかねぇ?」

智の肩に止まった虫を払い、にこりと笑う。

智は櫻井の視線を避け、笠を目深に被る。

「そうかもしれんな。」

何を怒っているのか、振り返らず答える。

櫻井は、ふむ、と首を傾げ、智の背に向かって小さな声で言う。

「では、少し離れることにしましょうか。

 私はこちらの道を行きます。

 何かありましたら、式を送りますから。」

懐から人型の紙を取り出すと、フッと息を吹きかける。

人型は、ヒラヒラと飛んで、智の背に貼りつく。

「狐殿に何かありましたら、それを使わせてくださいな。」

智は背の人型を見ようと、目いっぱい振り返るが、見える位置にない。

人型を追って、クルクル回る智を見つめ、櫻井が微笑む。

「狐殿は本当に可愛らしいですな。」

「う、うるさいぞ。お前、今日はいつもと違うな。」

「そうでしょうかねぇ?狐殿はいつにも増して可愛らしいですよ。」

「わしの変化が気に入ったか?」

智が、強がって鼻を上げる。

「さて、それはどうでしょう?私はどんな狐殿も気に入っておりますよ?」

櫻井がクスクス笑うと、智は腕を組んで、ふんっと鼻を鳴らす。

「では、後ほど。」

横道に逸れて行く櫻井を見て、智が顔をしかめる。

「わしよりお前の方が危ないだろうが。」

美しい娘の眉間に皺が寄ったことに、気づくこともなく、

櫻井は一人、山の中に入って行く。










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15th moon ⑪

15th moon(やま)



三人に与えられた試練は、あっという間に人々に知れ渡ります。

「あの声だもんねぇ、それくらいの宝物貢がないと!」

「いやいや、あれは体(てい)よく断られたんだろ?」

「でも、探し回ってるらしいよ?」

「見つけたら、本当にあの声が……。」

みんなは想像します。

絶世の美女が、自分の腕の中で身もだえ、アノ声を上げる姿……。

ゴクッと唾を飲みます。

逆に、口の中がカラカラに乾く者もいます。

腰を曲げ、こそこそする者、手あたり次第に女を口説く者、

それはそれは千差万別です。

智と翔は、三人の土産の品で手ごろな家を建てました。

前の小さな家とは違い、今度の家は庭が広かった為、智の声はうっすらとしか聞こえません。

智の声が聞こえないので、集まる男達が減っていきます。

「金持ちになったら、声も聞かせないのか。」

「本当はわざと聞かせていたんじゃないの?」

智の声が聞こえなくなった腹いせに、男達は好き勝手なことを言います。

外のそんな状態を知る術もない智は、わずかではありますが、外に届く声を響かせます。

智のその声は、翔の成長と共に、さらに磨きがかかり、

透き通るような透明さに、得も言われぬ深みが増しています。

全部聞こえていれば、そのバリエーションの多様性に、

想像力をさらに高めてくれたことでしょう。

「あぁ……そんな…とこぉっ!」

「ダメ…ダ…メ……や…ぁ……もっ、もっとぉっ!」

「ぃやぁ……、見ちゃ……。」

「……突いてぇ、おく……奥、突いてぇ!」

「ぁあっ……いぃ……きも…ち……い……。」

三人に与えられた試練を聞いて、諦める者もいましたが、

それでも、微かな声を聞こうと、聴衆がいなくなることはありませんでした。

翔が止めることもありません。

手紙を送ってくる者もまだおりましたが、三人のような熱心な求婚者はいませんでした。



数日が経ち、右大臣安倍和也が智の家にやってきました。

「姫!火鼠の裘(かわごろも)、見つけました!!

 姫は私のものです!」

急いで翔を着替えさせます。

「突然おいでになるなんてひどい人だと姫が言っておられます。」

智はそう言いながら、和也を玄関で待たせます。

「ああ、早く姫にこれを……!」

翔が素早く用意を整えると、扇子で顔を隠し、和也の前に現れます。

和也の差し出す裘を見て、翔の眉間に皺がよります。

智の眉も下がります。

「これをどこで?」

智が聞くと、和也は得意満面に答えます。

「唐の商人から譲り受けました。

 いやぁ、大変でした。さすがのお宝!そう簡単には見つかりませんな?」

和也の高笑いが響きます。

翔は扇子の影から智に耳打ちします。

「燃やしてみて。」

「え?いいの?」

「きっと偽物だよ。」

「偽物?」

「そんなもの、あるわけないじゃん。」

翔がにっこり笑います。

そこで、智は台所から火を取って来ると、和也の前でその火に裘を翳します。

「ま、待ってください!せっかく見つけてきたものを燃やしてしまうのですか!?

 見つけるのが、どれほど大変だったか!」

「本物なら燃えることはありません。それとも、この裘は燃えてしまうと?」

智が怪訝そうに和也を見ます。

和也はしぶしぶ諦め、智の手の中の裘を見つめます。

智の手から放たれた裘が火の中へ落ちて行きます。

一瞬隠された火が、あっという間に裘に移って行きます。

「あ、あぁ……裘が……。」

燃えていく裘を見て、和也は肩を落として帰って行きました。

すぐに雅紀皇子もやってきました。

「これが蓬莱の珠の枝でございます。」

雅紀が差し出したのは、金銀に光る、見事な物でした。

真珠の実が白く大きな光を放っています。

「これで姫は私のものでございます。」

智と翔は顔を見合わせ言葉を無くします。

まさか、こんなものがこの世にあるなど、思いもしなかったのです。

すると、智の家の戸を叩く者があります。

行ってみますと、職人風の男が、雅紀に会いたいとせがみます。

「どうしたの~?」

智が気さくに聞くと、職人風の男も気さくに答えます。

「いやぁね、うちの母ちゃんが、あれだけじゃ、報酬として足りないって怒るんだよ。

 俺は十分じゃねぇかって言ったんだけどね?」

「報酬?何の報酬~?」

智がにっこり笑って聞きます。

「ああ、後で見せてもらえや。いいできだぞ。枝に真珠を付けるのが難しくってな。」

職人の声は雅紀と翔のいる部屋まで届くほど、大きな声でした。

最後に残った大納言大伴潤はなかなかやってきません。

どうしているのか心配になった智が、村の者に聞いてみますと、

龍の首の珠を探す為、潤の乗った船が遭難したと噂になっていると言うのです。

自分達の為に潤が遭難したと聞いて、智は走って家に戻ります。

「どうしたの?息せき切って。」

翔が優しく智を抱きしめます。

「大納言様が遭難されたって……。」

智が悲しそうにそう言うと、翔はにっこり笑います。

「大丈夫。きっと漂流した先の島で楽しくやってるよ。」

「楽しく?」

「そうそう、理想の女と二人っきりになったりして。」

翔が智の髪を撫でます。

「本当~?」

疑い深そうに翔の顔を見上げます。

「ほんと、ほんと。」

「本当にそうならいいけど……。」

智が心配そうに眉を八の字にすると、翔は智の首筋に手を這わせます。

「大丈夫……。智が心配することじゃない……。」

智の唇に唇を重ね、智の腰を抱きます。

「あ……ん……。」

智はすっかり抵抗しなくなりました。

いつでも翔を受け入れます。

何回でも、どんな体位でも……。

ですから、一日中、智のいい声が響き渡ります。

でも、一番驚くのは、翔の精力が天井知らずだと言うことです。










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15th moon ⑩

15th moon(やま)


次の日、智は手紙をしたためます。

あの熱心な求婚者三人宛です。



貴方様の熱い想い、大変うれしく思います。

でも、人の心は秋の空のように移ろいやすいもの。

貴方様のお気持ちが、本物であることを確かめさせていただきたいのです。

近い内にお会いできませんか?



と言った内容です。

露草色の紙を使い、やんごとなき姫を装います。

それを、都に傘を売りに行くというおじいさんに持って行ってもらいました。

翔はにっこり笑います。

「細工は流々、後は仕上げをごろうじろってね?」

「言うほど細工もしてないくせに~。」

「これで十分でしょ?」

「そんなに上手くいくかぁ?」

「いかせないと、俺達の夜の楽しみ半分になっちゃうでしょ?」

「半分?」

「そうだよ。智が声とか、回数とか、我慢しちゃう。」

翔がニヤッと笑います。

回数は聞かれてるのが原因じゃないんだけど、と智は思いましたが、

言ってもごまかされてしまうのがわかっていたので、口には出しませんでした。

もうすでに、翔の方が賢くなっていることはわかっていましたから。

そして、数日後、三人はそろってやってきました。

姫へのたくさんのお土産と期待を胸に抱いて……。



「おおー、初めまして、姫!」

「ああ、会いたかった!私の女神!」

「貴方の鼓動を感じながら、手紙を書いたかいがありました!」

三人は扇子で顔を隠す、恥ずかしがり屋の姫に、

これでもかと、愛の言葉とお土産を差し出します。

お土産は、今まで智が見たこともないような宝物ばかりです。

これだけで、大きな家が建てられそうです。

「お、お三方の愛に嘘偽りはありませんか?」

緊張しながら智が言います。

智はこんな風に、話を進める立場がとても苦手でしたが、

姫を翔にやらせてしまったので、仕方ありません。

なんとか翔の描いた台本通りに話を進めていきます。

三人は交互にうなずきます。

「もちろんでございます。」

「女神に嘘などつくはずがない!」

「私の愛は、きっとこの距離でも感じてもらえるでしょう!」

翔は三人からできるだけ離れて座っています。

智の家では、狭い上に御簾などないので、できるだけ体を小さくし、

顔を扇子で覆うのが精一杯です。

赤い打掛の袖をサラサラと揺らし、翔が扇子の影から智を呼びます。

智は扇子の影で耳を傾けます。

三人は静かに耳をそばだてます。

あの声の主を目の当たりにしているのです。

当然、声が聞きたい。

三人の目が、じっと智と翔に集中します。

二人はボソボソと何か話しているようですが、三人には何を言っているのかわかりません。

姫の声も、聞き取れるほどではありませんが、

夜聞いた、あの透き通るような声とはかけ離れているような……?

三人の膝が姫の方へじわりと近づきます。

少しでも姫の声が聞きたいのです。

智は耳を傾けたまま、大きくうなずき、三人の方を見ます。

「え~、右大臣安倍和也様。」

「はい。私でございます。」

和也は、ずいっと膝を前に出します。

「あなたの愛を確かめさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「せひとも確かめて頂きたい。」

和也の色の薄い瞳がキラキラと輝きます。

「では、火鼠の裘(かわごろも)をここに持って来てください。」

「火鼠の裘?」

「そうです。」

「あの、焼いても燃えないという布ですか?」

「そうです。ぜひ見つけてきて欲しいのです。

 それを見つけられるくらい、愛が大きければ、貴方と結婚しようと言っています。」

「なんと!ではすぐに調べさせなければ!」

和也が立ち上がります。

こうなれば一刻の猶予もなりません。

見つければ、姫の声は和也のものです。

和也の腕の中であの声を聞かせてくれるのです。

少しでも早く姫を腕に抱きたいと、和也は供と一緒に智の家を出て行きました。

「次に、雅紀皇子。」

「は、これに。」

雅紀が一歩前でかしずきます。

長い足が、細く折れそうです。

「雅紀皇子には蓬莱の玉の枝を持って来て欲しいとのことです。」

「蓬莱の玉の枝……ですか?」

「そうです。根は銀、茎は金、実は真珠でできているという木の枝です。」

「幻の宝物ですね……。」

「雅紀皇子の愛が深ければ、きっと見つけられるはずです。」

雅紀はじっと姫を見つめ、大きくうなずきます。

「大納言大伴潤様には龍の首の珠(たま)を……。」

智が言うと、潤はその場で顔を上げます。

高い鼻に皺がより、大きな瞳が不安そうに揺れます。

姫をじっと見つめますが、扇子は動く様子がありません。

「噂でしか聞いたことがありませんが……。」

「貴方様の熱い想いで、見つけ出してください。」

潤は自分の胸に手を当て、すっくと立ち上がります。

「私のこの姫を慕う想いに、できないことはございません。」

雅紀も立ち上がります。

「むろん、私だとて!」

二人は供を率いて家を出て行きます。

人が全ていなくなると、ほぅと息をついて、翔が扇子を下します。

「これで上手くいくの~?」

智は半信半疑です。

「上手くいくって。全部、話でしか聞いたことのない伝説の宝物だもん。」

翔は智の頬に手を添えます。

「絶対見つかりっこないって。」

智の唇に唇を当て、ニコッと笑います。

「本当に……?」

「本当に。」

もう一度唇を当て、智の首に腕を回します。

赤い打掛の翔は、美しく艶めかしい笑顔で智を誘います。

「なんか……翔ちゃん、色っぽい……襲われたくなる~。」

翔は本当に綺麗でした。

色白の肌に赤い着物が映え、女には少ない、強気な視線がゾクゾクさせます。

赤い唇は、ぽってりと濡れ、まるで誘っているようで、

珍しく智の方から唇を重ねます。

「翔ちゃん……。」

「智……。」

翔の手が、智の後頭部を撫でます。

「脱がせてくれる……?」

翔が妖艶に笑います。

智は、ぼぉーとその顔に見入ると、翔の帯に手をかけました。










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嵐の大野君が大好きで、山LOVEです♪
腐っているので、ご理解のある方、
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 Step and Go
    ↓
  果てない空

の順で続いています。
それぞれでも楽しめるようになっていますが、順番に読むと5人の成長がよりわかるのではないかと思います。

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何かありましたら、
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