「短編」
短編(いろいろ)

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         「翔君?」
         「ん……ああ、ごめん。兄やんは……どうして俺を呼び止めた?」


                                                それは……。
                                  もう、こんなの無理だと思うじゃん?
                         こんな苦しいの、耐えられないと思ったから……。
                              だから、意を決して呼び止めたのに……。


          「あ……大丈夫。大したことじゃないから……。」
          「大したこと、ないの?」


                                              大したことだよ。
                                       どんだけ勇気がいったか!
                                                 でも玉砕。
                                 もう昔みたいに、なんて無理なんだ。
       翔君に迷惑がられるくらいなら、おいら、カメラの前だけの笑顔で我慢するよ。
                                      それでもないよりずっとマシ。


          「だから……なんでそんな顔するの。」
          「……さっきから……そんな顔ってどんな顔だよ!」


珍しく、兄やんが声を上げる。
いつもは穏やかすぎるほど穏やかで、
怒ることなんかほとんどない人なのに。
俺は兄やんの両肩を掴んで鏡の前に連れていく。
グッと前に押し出して鏡を見せる。


                    「こんな顔だよ。」


                                 鏡に映ったおいらを見てびっくりした。
                           今にも泣きそうなほど、切なげに翔君を見てる。
                                        こんなのダダ漏れじゃん。
                                           翔君は気づいてる?
                                          おいらの気持ち……。


         「こんな顔されて、『じゃ……』なんて言われても無理だよ。」


俺は両肩に置いた手に力を込める。
あんな顔されて帰られたら、
もう二度と兄やんの笑顔なんか見られないって思うじゃない?
今すぐにでも抱きしめたくなる感情を、俺はどうすればいい?
すぐ近くで、兄やんの匂いがチラついてるのに。
俺にはどうすることもできないの?


                 「翔君……おいら……。」


                                                 もうダメだ。
                                        きっと翔君は気づいてる。
                             気付いてるのに、何も言ってくれない……。
                                   ここから消えてしまいたいよ……。
     おいらが鏡の前から逃げ出そうとすると、咄嗟に、翔君がおいらの体を抱きしめた。


                 「翔…君……!」
                 「……ごめん…………。」


思うより先に体が動いた。
体は心より正直で、
嫌がられてるのがわかっていても、
抱きしめた温もりは本物で……。
兄やんの匂いに包まれて、兄やんの体温を感じて、
さらに締め付けられる俺の胸。
それと同時に体にも力が入る。
締め付けられた胸と同じように、ぎゅっと抱きしめて、
勝手に溢れてくる俺の感情を、俺は……。


               「嫌がられてるのはわかってる。」
               「嫌がってなんか……。」
               「いいよ。無理しないで。」
               「無理なんかしてない!」


                                          翔君は何を言ってる?
                            おいらが嫌がってるなんて、どうして思った?
                                      嫌がってるのは翔君でしょ?
                      後ろから抱きしめられて、ぎゅっと胸が締め付けられる。
                                    翔君のコロンの香りが懐かしい。
                                 翔君の体温がおいらの動きを止める。
                                    翔君の息遣いがすぐそこにある。
                          たとえ嫌がられてても、生で感じる温もりは……。


              「嫌がってるのは……翔君だろ?」
              「……俺がいつ嫌がった?」
              「ずっと……おいらのこと避けて……。」
              「避けてなんか……。」


避けてたわけじゃない。
でも、普通に接していられなくなって……。
……もしかして、兄やんも?


            「じゃ、なんで、おいらの隣に来なくなった?」
            「それは……。」
            「なんで、おいらを見なくなった?」


見なくなったんじゃない。
見れなくなったんだよ!


              「智君だって……俺を……。」
              「翔君……。」


                                       懐かしいその呼び方……。
                        耳元で言われたら、それだけでキュンとするだろ?
                                  一瞬だけど、昔に戻ったみたいで。
                                                ……待って。
                             翔君はおいらに避けられてると思ってた?
                                              おいらと同じ?


        「おいらは……翔君を避けたりしないよ。」
        「じゃ、なんで目が合わなくなった?話しかけても素っ気なくて……。」
        「それは……。」


                                    翔君がカッコよくなったからだろ!
                                          眩しくて、ドキドキして、
                          まともに見ることも話すこともできなくなって……。


                    「翔君が……。」
                    「……俺が……?」
                    「おいらが……。」
                    「智君が……?」


智君は何を言おうとしてる?
ね?
もしかして、本当に、俺と一緒?
期待してもいいの?
俺の腕の中で、下を向く智君の顔を上げて、前に向ける。
二人の視線が、鏡越しに重なる。


                    「俺達……おんなじ?」


期待半分、不安半分。
俺は恐る恐る声に出してみる。
鏡越しの智君は、何か考えてるよう。


                      「おなじ……。」

                                            ……おんなじなの?
                                                  おいらと?
                                                  翔君が?
                                 ……同じ気持ちで、見れなくなった?
                                             話せなくなった?
                                          ……同じ気持ち……。
                        おいらを抱きしめる翔君の腕に、そっと手を添える。
                                    この腕の温もりも、同じ気持ち?

智君の手が、俺の腕をぎゅっと握る。
俺も全身でぎゅっと、抱きしめ返す。
同じ……。
同じだと、智君の手が教えてくれる。


                       「智君……。」
                       「翔君……。」


                                                   ぅはは。
                                    なんだか笑いがこみ上げてくる。
                          ずっと同じ気持ちで、ずっと二人とも悩んで……。
                                            ずいぶんな遠回り。
                                       でも、この温もりは本物で、
                                今、おいらは翔君に抱きしめられてる。
          おいらは、胸の前で交差されてる翔君の腕を解き、振り返って翔君を見る。


             「っふふふ。おいら達、おんなじだ。」
             「智君……。」


振り返った智君は、あの懐かしい柔らかい笑顔で俺を見つめる。
大好きだった、大好きなあの笑顔。
俺に向かって、俺だけの為に笑いかけてくれてる。
俺も笑って、智君の背に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
ああ、どうしよう。
涙が溢れそうだよ。


                             翔君に抱きしめられて、実感が沸いてくる。
                           もう、この温もりを夢見る必要はないんだって。
                            手を伸ばせば、すぐそこにあった温もり……。
                                                おかしいね。
                  手を伸ばすことに怯えて、こんなに時間がかかっちゃったよ。
                                                ああ、翔君。
                                   おいら、もう手放さないから……。


           おいらは顔をあげて、翔君を見る。

           俺は顔をあげた智君を見下ろす。

           やっとまともに見れるようになったけど、翔君はやっぱり眩しくて。

           見上げる智君に、やっぱり脈拍が上がってくけど、
           でも、もう目を逸らしたりしないから。

           「なんか……照れ臭いね。」
           「時間がかかっちゃったから……。」

           おいら達は、ふっふと笑う。

           俺達は、もう一度抱きしめ合う。

           明日も明後日もその先も。

           やっと一緒に並んで歩ける……。










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