五里霧中(5人)

五里霧中 ジュン - タイムカプセル side story -

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ジュンの受難



隣で寝ているサエコが言った。

「別れよう。」

「……わかった。」

俺が天井を見ながらそう言うと、サエコが起き上がって大声を出した。

「ジュンはいっつもそう!あたしのことなんか、本気で想ってくれたことない!」

そんなことないよ。

「本気だったら、そんなに簡単に『わかった』なんて言わないでしょ!」

だって、別れたいって言われたら仕方ないじゃん。

こういうのは、1人じゃ無理でしょ?

サエコは俺の顔を見て、キーっと顔を歪ませる。

「本気だったんなら、『別れたくない』くらい言ってよ!」



そう言ったら何か変わるの?

「……別れたくない。」

「嘘つき。そんなこと思ってないくせに。」

お前が言えって言ったんじゃん。

それに、気づいてる?

『本気だった』って、お前だってもう過去形になってるよ?

「もういい!さようなら、ジュン。」

サエコは立ち上がると、手早く服を着ていく。

『さよなら』は服着てからの方がよかったんじゃない?

引き留めて欲しいみたいに見えるよ?

俺はぼーっとそんなサエコを見つめる。

くびれたウェストは、俺の腕にフィットしていてよかったよ。

サトシと変わらない重さも心地よかった。

一緒に食べたパンケーキも旨かったな。

サトシを連れて行ってあげようと思って忘れてた。

「ほら、あたし以外のこと考えてるでしょ?」

「……そんなことないよ。」

「うそ。絶対違うこと考えてた。あたしが別れようって言ったばっかりなのに、

 もう、あたしのことなんかどうでもいいんだ……。」

「サエコ……。」

俺はちょっと眉をしかめる。

いったい俺にどうしろって言うんだ?

「本当にさようなら。」

サエコはバッグを抱えると、足早に玄関へと進む。

俺はなんて言ったらいいのかわからない。

ただ、ぼーっと、ベッドに寝そべったまま、そんなサエコを見送る。

サエコは玄関で靴を履くと、俺の方へ振り返る。

「最後まで、何も言ってくれない。」

「いつも言ってたじゃん。」

「……ジュンが言ってくれるのは、可愛いね、趣味が合う、○○なとこ好き、

 そんなことばっかり。ちゃんとあたしを好きって言ってくれたことなんか一度もない。」

あれ?そうだったっけ?

「……好きだよ。」

「思ってもないくせに。」

「思ってるよ。」

「じゃ、あたしのどこが好き?」

腰のくびれ……って言ったら怒るよね?

「ほら、言えない!」

鬼の首を取ったかのように笑う。

ああ、めんどくさいな……。

別れるのに、どうして女はこう、めんどくさくなるんだろ。

付き合う時は簡単なのに。

別れるのも簡単にいこうよ。

俺が黙ったら、サエコは怒ってるのに、悲しそうな顔をする。

「ジュンには……ずっと好きな人がいるんでしょ?」

好きな人……好きな人なんて……。

「だから、誰と付き合っても本気にならない。なれない。」

「…………。」

「この間の電話の人……。」

「電話?」

「そう。携帯にかかってきた……。あの時のジュンの顔……初めて見た。

 本当に愛おしそうに、優しく笑って、幸せそうで……。」

サエコは誰のことを言ってる?

サエコの前で電話なんかに出るかな……。

俺、女からの電話、女の前で出るほど無神経じゃないはずなんだけど……。

俺が首を捻っていると、サエコがクスッと笑う。

「ああ、ごめん。初めてじゃなかったね。前にも一回あった。

 昔の写真を見せてくれた時……高校生の頃の写真。」

高校生の頃の写真?

……野球部の写真……?

「坊主頭のジュンが可愛くて……。

 悔し泣きしてるジュンの頭を友達がポンポン撫でてくれてる写真。

 あの写真を見せてくれた時、同じ顔してた。

 大事な友達なんだろうなって思った……あたしじゃ敵わない……。」

サエコ……。

「それでもいいかなと思ったけど、やっぱりあたし、欲張りみたいで。」

サエコがにこやかに笑う。

「あたしが一番じゃなきゃダメなの。あたしだけじゃなきゃ嫌なの。

 ジュンは、絶対そうならないでしょ?」

そうだね。俺はたぶん、誰と付き合っても、一番でオンリーは……無理かな。

でもそれは、俺の性格のせいなんだから、それを含めて愛してよ。

「だから、あたしの一番にしてあげるのも止めたの。……バイバイ、ジュン。」

サエコは静かにドアを開ける。

「バイバイ。」

俺もサエコの背中に向かって答える。

サエコは一度振り向いて、寂しそうに笑って、静かに出ていった。

女はいつもそう。

最後に寂しそうな顔をする。

なんでだよ?俺が悪いことしたみたいじゃん。

振られたの、俺なのに。

俺は両手を上げて頭の下に入れる。

結構、いい子だったんだけどな……。

ま、仕方ないか。

あ……写真……。

思い出して、鞄から手帳を取り出す。

一番後ろに入れてある古い写真。

高校時代、甲子園に行けなくて泣いた最後の夏。

汚れたユニフォームを着たまま、泣いてる目を手の甲で擦って。

そんな俺をサトシが慰めてくれて。

天使のようなサトシの温かさが、余計悔しかったあの時。

サトシは気づいてたかな?

俺が野球部に入った理由。

受験勉強してた時、なんとなく付いてたテレビを見ながらサトシがポツリと言ったんだ。

「甲子園、行ってみたいな……。」

テレビでは高校野球が流れてて、ボンゴロなのに1塁まで全力疾走してる高校球児。

「行けばいいじゃん。大阪なんて、新幹線ですぐだよ。」

俺が言うと、サトシが笑って、

「違うよ。応援しに行きたいの。きっと楽しいよ!

 高校生の青春って気がしない?」

テレビを見るサトシの目が輝いていて。

「……ん、そうだね。青春って感じするかも。」

「おいら、母ちゃんの漫画読んでね……。」

サトシが漫画の世界の青春の話を楽しそうにしだして、俺はなんとなく思ったんだ。

サトシを甲子園に連れて行ってやろうって。

結局できなかったけど。

……電話……サトシからの電話か……。

カズの初仕事のお祝いしようってかかってきたっけ。

そう言えば。

俺は写真をじっと見る。

俺、そんな顔してたんだ……。

サトシ……。

俺がちょっとセンチになっていると、携帯が鳴る。

画面にスミレと表示されてるのを見て、電話に出る。

電話からは、戸惑うような声が俺に言う。

「ごめん……今大丈夫?」

「ん、平気。」

「あのね……突然に聞こえるかもしれないけど……。」

「……何?」

「私、ジュン君が……。」

俺は携帯を肩で挟んで、写真を手帳にしまった。










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