明日に向かって(やま)

明日に向かって ⑬

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「まだ泣くのか……。」

先生が唇で涙を拭きとっていく。

「ごめん……おいら……。」

おいらは、先生の体を押しのけ、立ち上がると、無我夢中で駆け出した。

ダメだ。

ここにいたら、先生の優しさに甘えちゃう。

おいらは手の甲で目を擦って、涙を拭う。

部屋を出たところで、二宮さんとすれ違ったけど、顔を見られたくなくて、

下を向いたまま走り抜けた。



どこかで涙を乾かさなきゃ……。

きっと目も赤い……。

おいらは、真っ直ぐあの井戸に向かう。

ここにはめったに誰もこない。

周りを見回し、安心して井戸の後ろにしゃがみ込む。

思いっきり泣いてすっきりしようと思ったら、

裏手のずっと向こうの日当たりのいいところで、潤が何か植物を見ているのが目に入った。

顔を上げた潤と目が合う。

潤はちょっと考えるように首を傾げると、おいらの方へ歩いて来た。

やばっ。

泣いた顔見られる……。

顔を隠すように下を向いて黙ってたら、

「昔から変わんないな。」

と、潤がおいらの前でしゃがみ込む。

「泣く時は必ずここに来る。」

おいらは下を向いたまま、膝に当てた両手の人さし指を交差させる。

「泣いてなんか……。」

潤がガシガシと頭を撫でる。

「はいはい。泣いてなんかないよな。」

「あっちいけよ。おいらは一人になりたい。」

「すぐ寂しくなるくせに?」

「うるせぇ。」

おいらは膝の間に顔を押し込んだ。

「また……先生?」

今回は先生のせいじゃない。

おいらのせいだ。

「まぁ、いいよ。好きなだけ泣いたら、仕事に戻っておいで。

 あんまりいないと、女将にどやされるよ。」

「……わかってるよ。」

潤の声が優しい。

「潤は……。」

「ん?」

立ち上がりかけた体をまた沈ませて、潤がおいらを見る。

「潤はさ……。」

おいらは、顔を下に向けたまま話し続ける。

「失恋した時、どうやって忘れる?」

「……なに?智、失恋したの。」

「もし、もしもの話!」

おいらは慌てて、早口で言う。

「35にもなって、初恋もまだのお子様が?」

「じゅ、潤が知らないだけだよ!」

そうだよ。おいらだって付き合ってた女の子の一人や二人……。

「そんなことないでしょ?じゃ、その中で本当に好きになった子、いた?」

……本当に好きかどうかなんてわかんないよ。

その時は本気のつもりなんだから!

おいらの顔を見て、潤が少し眉を寄せる。

「そんな顏すんなよ。」

おいらどんな顔してる?

さっきも先生に似たようなこと言われた……。

先生の顔を思い出したら……グッと何かがこみ上げてくる。

「だから、そんな顏すんなって。」

潤がおいらの頭をまたガシガシ撫でる。

「そ、そんな顔ってどんなだよ。」

あんまり顔、顔って言うから、口を尖らせて、また下を向く。

「だから、いまの顔だよ。」

潤は下を向いたおいらの顔を、両頬を掴んで顔を上げさせる。

「男だろ?」

男だって泣きたい時くらいあるよ。

「本当にお子様だな……。」

「うるせぇ。お前だって寄ってくる女はいても、本気になんかならないじゃん。」

潤は少し首を傾けて困ったように笑う。

「失恋の経験もないだろ?」

「あるよ。」

「うそつけ。」

「本当。」

「じゃ、そん時どうしたんだよ。」

おいらはじっと潤の顔を見つめる。

「……そうだな。」

潤はおいらの顔を見て、ん~と口を尖らせる。

いつも男っぽい潤が可愛く見えて、おいらの表情がちょっと和らぐ。

そんなおいらを見て、潤が少し目を細める。

こういう時、潤は本当に優しく笑う。

だからつい、何でも話しちゃうんだろうな。

「新しい恋をする。」

潤が真面目な顔でそう言った。

「新しい恋?」

「そう。それが一番手っ取り早い。」

そんなこと言ったって……そんな簡単には無理だよ。

「失恋したばっかなのに?」

潤がクスッと笑う。

「傷んだ心を癒してくれる人に恋するって、よくあるパターンじゃん?」

「そうかもしれないけど……。他は?」

「他?」

「うん。」

「いい案だと思うんだけどな……。じゃ、美味しい物をたくさん食べる!」

「なんか……女みたいだな。」

「失恋に男も女もないんじゃない?みんな、どうしようもなく心が痛いんだから。」

潤がさっき言った、失恋したことあるって言うの、本当なのかも。

こんなイケメンでも?

いや……あるわけない。だって、潤に告白されて断る女なんか想像できない。

「美味しいものか……。潤……何か作ってくれる?」

「いいよ。仕事が終わってからなら……。」

潤の視線が遠くを見据える。

「どうした?」

おいらも立ち上がって見ようとすると、潤がおいらの肩を押す。

「新しい恋もいい案だと思うけど……。」

「そう簡単にはできないじゃん。」

「意外と身近にあるかもしれないでしょ。」

「身近?」

おいらが首を捻ると、潤の手がおいらの頬を撫でる。

「ほら、泣いた跡……。」

潤は、さっき先生の唇が涙を拭ってくれた所を撫でる。

おいらはビクッとして体を引く。

失恋してるけど、先生の跡を消したくない……。

「仕方ないな……。」

潤はおいらの後頭部に手を添えると、思いっきりおいらの頭を抱き込んだ。

「えっ……?」

おいらがびっくりしていると、今度はグッとおいらの体を引き寄せる。

「じゅ、潤?」

「泣きたいんだろ?今日は俺の胸貸してあげるから。」

「いいよ、大丈夫だから……。」

「遠慮すんな。」

潤は思ったより強い力でおいらを抱きしめる。

こんな強引な潤は初めてだ。










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