明日に向かって(やま)

明日に向かって ⑤

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昼。

今日のまかないは雅紀の作ったチャーハン。

雅紀のチャーハンはとっても美味しくて、ついつい箸が進む。

一緒に食べていた潤が、おいらを見てクスクス笑う。

「ほんと、智は食べてると、いい顔する。」

「そぉか?」

おいらは口いっぱいにチャーハンを詰め込む。

「うひゃひゃ。ほんとだよ~。智さんは本当に美味しそうに食べてくれるもん。」

雅紀も嬉しそうに笑う。

そんな二人を交互に見ながら、美味しいチャーハンをかっ込む。

ほとんど食べ終え、最後の一口になったところでスプーンが止まる。

「ん?……どうしたの?」

雅紀が口を大きく開けて、スプーンを口に運びながら聞く。

「午後……先生に呼ばれてる。」

おいらが大きな溜め息をつくと、雅紀がまた笑う。

「ずいぶん気に入られてるね~。」

「気に入られてるんじゃねーよ。面白がってんだ。」

おいらは頬を膨らませ、口を尖らせる。

「でも、お客様に呼ばれたら、行かないと?」

雅紀がチャーハンをお代わりして、皿いっぱいによそう。

「そうだよ。お客様だからね!」

おいらは最後の一口をかっ込む。

潤は黙ってチャーハンを食べ続ける。

「例え、何されてもお客様だから!」

おいらは潤に何か言って欲しくて、少し声を大きくする。

「智が嫌なら……行くの、変わってもらえば?」

潤がぼそぼそとそう言って、雅紀の方を見る。

「今日のチャーハン、少ししょっぱい。」

「そうかなぁ?」

雅紀が首を傾げる。

「これじゃ、食べてるうちに飽きる。」

「わ、わかったよぉ。」

雅紀がシュンとして、もう一度、チャーハンを口に入れる。

「俺は全然飽きないけど……。」

「雅紀。」

潤が目力のこもった目で雅紀を見る。

「……わかりましたぁ。」

そんな雅紀が可愛くて、おいらの気持ちもちょっと上向く。

このまま先生の所に行けば、なんとかやり過ごせるんじゃないか?

もちろん、しっかり用心して!

「じゃ、おいら、行ってくる。」

立ち上がると、潤が一瞬心配そうに眉間に皺を寄せる。

「いってらっしゃい!頑張って。」

雅紀が楽しそうに笑いながら、チャーハンを口に頬張る。

その顔がまたまた可愛くて、おいらは手を振って従食を後にした。

「雅紀みたいに明るく前向きに考えればいいんだよな。」

おいらはぶつぶつ言いながら、階段を上っていく。



先生の部屋へ行くと、先生は執筆中で、またおいらを窓際に立たせる。

「その壁に向かって片手を付いて。」

窓の脇の壁を指さしてそう言うと、ニヤリと笑う。

おいらはゆっくり壁に手を掛ける。

「肘は伸ばして、顔は壁に向けて。」

おいらは言われた通りにする。

「ああ、右手じゃなくて、左手にして?こっちから見えない。」

「はぁ……?」

おいらは言われたように左手をついて、顔を壁に向ける。

「うん、いい感じ。もうちょっとキリッとカッコつけて。」

キリッとカッコつける?

おいらが?どうやって?

おいらは頑張ってキリッとした顔を作ってみる。

てか、これって壁ドン?

「それじゃ、怒ってるようにしか見えない……。

 ドラマの主人公みたいに意味深にニヤッと笑ったりできないかな?」

意味深?ニヤッ?

おいらはニヤッと笑ってみる。

すると、先生が笑いだした。

「それじゃ、顧客回りの銀行員だよ。」

先生はそう言いながら立ち上がると、おいらの方へ歩いてくる。

「壁ドンって言うのはね……。」

おいらをクルッと壁に押し付けると、おいらの右側にドンと手を付く。

空いてる手でおいらの顎をすくう。

こ、これはもしかして……噂の……?

「壁ドン……顎クイ?」

先生はニヤッと笑っておいらを見つめる。

黒い瞳においらが映る。

おいらは……先生を見上げ、その瞳に吸い込まれそうになる。

「俺に……惚れるなよ?」

先生の顔が近づいてくる。

うわぁ~!

おいら、先生に吸い込まれる!!

ぎゅっと目をつぶって、観念して吸い込まれるのを待つと、

しばらくして、先生のクスクス笑う声が聞こえてくる。

おいらはそっと片目を開け、先生を見る。

先生はおかしくて仕方ないというように、肩を震わせて笑ってる。

な、なんだよ、どうして笑ってるんだよ!

「ばかだね?前にも言ったでしょ?取って喰いやしないって。」

取って喰われないかもしれないけど、吸い込まれると思ったんだよ!

おいらがムッとして、先生を睨みつけると、先生はクスクス笑いながら、

パソコンの前に戻っていく。

「ああ、もうそれはいいから。」

先生はパソコンの前に座ると、パソコンをカチャカチャと叩く。

「そこ、そこに座って。」

先生は視線でテーブルの前の床を示す。

おいらはしぶしぶテーブルの前に座る。

先生はおいらをちらっと見るると、すぐにパソコンに視線を戻して言う。

「床に手をついて。」

床?

おいらは言われた通り、床に手をついて先生の顔を見る。

先生はおいらを見ることなく、次の指示を出す。

「そこで腕立て伏せ、30回。」

腕立て伏せ?

30回も?

おいらは首を傾げながらも、仕方なく腕立て伏せをする。

壁ドンや顎クイよりはできる!

でも、なまった体に腕立て伏せは辛い。

20回を過ぎると、腕がガタガタしてくる。

なんとか30回をやり終えると、バタッと床に突っ伏す。

「お、終わったよ~。」

「ああ、ありがとう。」

なんだよ。これ、なんの意味があるんだよ!

俺をいじめて楽しんでるのか?

「これ、何の意味が……。」

おいらがそう言うと、言葉を遮るように先生がニヤッと笑う。

おいらはハッとして座り直す。

「……先生、今、何書いてるの?」

先生はパソコンから視線を外さず答える。

「ん?……官能小説……。」

…………。

先生!ラノベだけじゃないのかよ!

ああ……腕立て伏せ……。

想像して、おいらの顔が赤くなる。

「あははははは。」

そんなおいらを見て、先生が楽しそうに笑った。










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