明日に向かって(やま)

明日に向かって ④

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中に入ると、先生は窓枠に腰掛けて、外を眺めていた。

陽の光の中にいる先生は、雑誌のモデルのようにカッコ良くて。

顔に掛かる軒の陰までも、図ったように先生の美形を引き立てる。

思わず、ぽーっと見惚れる。

浴衣なんてさ、みんな一緒のおいらんちの浴衣で、嵐影山って入ってるやつで。

なのに、それさえも理知的な雰囲気に変わってるから不思議。

男でも女でも、美しいものは、やっぱり人の心を奪う。

おいらが、入口で立ち止まって動かなかったから、

先生がおいらの方を向いて不思議そうにする。

おいらはハッと我に返って、

「お花を……。」

持っていた一輪挿しを胸の前にかざす。

「ああ、そう。……今日は椿だね……。」

そう言って、先生はフッと目を細める。

おいらの胸がドキッと音を立てる。

初めて見た……。

先生の優しい笑顔。

椿……好きなのかな?

おいらはおずおずと先生の前を通り抜け、床の間まで来ると、その前に正座する。

床の間に一礼し、脇の柱を見上げる。

位置を確かめて立ち上がると、柱に一輪挿しを掛ける。

真っ直ぐに調節して、花が正面を向くようにすると、赤い、大きな花弁が頭をもたげる。

うん。綺麗に飾れた。

おいらは自分の仕事に満足し、振り返って先生を見る。

先生と視線が重なる。

心臓がまたドキッと跳ねる。

先生……おいらのこと、ずっと見てた?

おいらはなんだか恥ずかしくなって、顔を下げ、足早に先生の前を通り過ぎる。

「ああ、君……。」

声を掛けられて、ビクッとする。

「は、はい!」

おいらがそっと振り向くと、先生はいつもの顔でニヤリと笑う。

「こっちに……。」

先生が右手を軽く上げ、おいらを呼ぶ。

先生の顔は笑顔だけど、ついさっきのことが頭をよぎる。

ど、どうしよう?

ここは行くべき?行かない方がいい?

おいらはない頭で考える。

う~ん、どうしよう!

また、キスとかされそうになったら……。

「早く。」

先生の声が冷たさを含み始める。

おいらは仕方なく、足を進める。

一歩進むごとに、心臓の音が加速していく。

先生の前に立つと、先生はおいらの肩に右手で触れ……。

ビクッと身体が強張る。

その軽い重みに、全神経が集中する。

肩を掴まれて引っ張られたら踏ん張れるよう、腰から下に力を込める。

そんなおいらを見て、先生がクスッと笑う。

「何もとって喰いやしないのに。」

先生はおいらの前で、右手の指の先を見せる。

その、男にしては綺麗な指先に、白い糸くずが摘ままれている。

「ゴミ……?」

おいらが首を傾げると、先生は右手を窓の外に出して、ゆっくり指を広げる。

ゴミが、風に乗って飛んでいく。

「そんなに怯えなくてもいいでしょう?」

先生が腕を組み、片足を窓枠に掛ける。

浴衣の前の合わせから、先生の足の内側があらわになる。

白く細い、でも筋肉質な太ももに、なぜかドキッとする。

「お、怯えてなんて……。」

「ほら、怯えてる。」

先生がクスッと笑う。

そりゃ、怯えもするさ。

あんなことされたばっかりなんだ!

でも、先生がおいらを見てたのは、ゴミがついてたからなのか……。

「どうしたの?」

先生が、あれ?というような顔で、おいらの顔を覗き込む。

「え?何が……。」

「……残念そうな顔してる……。」

先生の大きな瞳が、面白そうにおいらを見つめる。

「何?何かされたいの?」

先生の瞳はクルクルと動いて、唇の端を引き上げて、クスッと笑う。

「そ、そんなこと……。」

突然、先生の腕が、おいらの腕を引っ張る。

おいらは突然のことに、踏ん張ることもできず先生の腕の中に抱え込まれる。

「せ、先生?」

先生はおいらを抱きかかえながら、またクスクス笑う。

「ふふふ。どもらずにしゃべれないの?」

「そ、それは先生が……。」

「ほらまた!」

おいらは先生の胸に抱かれたまま、先生を見上げる。

先生は楽しそうに笑って、おいらの背中から、後頭部に指を滑らせる。

「せ、先生、お戯れを!」

おいらは焦って、また時代劇みたいな言葉が……。

「あはは。ほんとに面白いね。君は。」

後頭部を覆う、大きな手の感触。

「ふふ。ドキドキしてるんだ?君の体から伝わってくる。」

「ド、ドキドキって……。」

おいらはバクバクいう心臓をなんとか押し込めようと、唾を飲み込む。

「そのドキドキは何?好きでもない人に抱かれても、人はドキドキするものなのかな?」

「す、好きって、お、おいら達、お、男同士だし……。」

先生は声に出して笑う。

「そうだよ。だから、恋することはあり得ない。

 なのに君はドキドキしている……。それはどうしてなんだろうね?」

先生の黒い瞳に映るおいらが、どんどん大きくなっていく。

や、やばい!

おいらはやっと我に返って、先生の胸を押しのける。

「先生……あ、遊ばないでください!」

ぎゅっと目をつぶって、両腕を突っ張る。

「遊ぶ?私は一向に遊んでるつもりはないんだが……。」

おいらはつぶった目をゆっくり開け、先生の表情を窺う。

先生はやっぱり……面白そうに笑ってる。

十分遊んでるじゃん!先生!

おいらは急いで先生の上から離れると、一礼して踵を返す。

「ああ、君!」

おいらは立ち止まらず、そのまま歩き続ける。

「午後、食事が終わったら来てくれ。」

先生の声がどんどん遠くなっていく。

午後?

午後もまた、こんな思いするのか?

おいらは、早足で階段を下りると、裏庭に出て、目の前の石ころを思いっきり蹴り上げる。

「くそっ!」

石が、通りの向こうをコロコロと転がっていく。

今、ドキドキしてる心臓は、早足で歩いたから?

身の危険を感じたから?

それとも……

おいらはその場にしゃがみ込んで、ドキドキする心臓を深呼吸して黙らせた。










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