Japonesque(5人)

Japonesque 十七話

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櫻井は、手にした本をぱらぱらと捲っていく。

大店のお嬢さんと歌舞伎役者の恋。

浮気を見られ……え?

櫻井が顏を上げて和を見る。

和は雅紀、潤と言い合いをしていて気づく様子はない。

「その最後、面白いだろ?」

智が櫻井の顏を見上げて、にこっと笑う。

立ち上がり、櫻井の隣に並んで一緒に本を覗き込む。

「最後、お嬢さんに箒で叩かれる歌舞伎役者なんて……。」

智は、くっくと笑う。

「あいつは読み物に向いてる。」

「確かに……滑稽話とか……合っているのかもしれない。」

「世間を斜めに見てるからな。」

櫻井は本を閉じて、和と雅紀を見る。

世間を斜めに見てる和が、真っ直ぐに見てる雅紀。

幸せになって欲しい。

本当にそう思った。

難しいのはわかっている。

体で繋がるのは……無理かもしれないけど……。

「翔さんは、さっさとお嬢さんと結婚して跡継ぎ作っちまいな。」

櫻井の顔が曇ったのを見て、智が明るく言う。

「俺が……女を抱いてもいいのか?」

櫻井は眉を下げ、さらに曇った顔で智を見る。

「……いいさ。抱かれるのはおいらだけなら。」

智が片目をつぶる。

櫻井の顏が一気に赤くなる。

「……なんで、する前とした後の顏だけしか描かなかったかわかるか?」

櫻井は首を振る。

「いく時の……一番いい顔は、おいらだけが味わう。」

智がふにゃりと笑うと、櫻井の顏はこれ以上ないくらいに赤くなる。

「……ならば……智…殿も……俺以外を抱いてくれるな……。」

語尾がだんだん小さくなっていく。

「ふふ。睦言以外じゃ、智と呼んじゃくれないんだな。」

智が意地悪そうに笑う。

「そこは……徐々に……。」

櫻井が下を向いたまま小さな声で言う。

「仕方ねぇ。ま、ゆっくりやるさ。」

智は両手を袖に入れ、腕を組む。

「智~。大好評だって~!」

雅紀が、潤と和の間から声を掛ける。

「おう!」

智が三人の和(わ)に入っていく。

櫻井が、それを遠巻きに見ていると、雅紀が隣にやってくる。

「よかったね……智と。」

雅紀がにっこり笑う。

櫻井は気恥ずかしくて、うなずくのがやっとだ。

「もう、疑わないでよ?」

「む、むろん……。」

櫻井のかしこまった様子に雅紀がくすりと笑う。

「ずっと昔、抱いて欲しいと縋ったこともあったんだ。」

櫻井の目が見開かれ、真っ直ぐ雅紀を見る。

雅紀は優しく笑って、櫻井を見つめる。

「……智は抱いてくれなかったけど……。」

小さな溜め息をつく。

「俺が汚いから智も抱いてくれないんだ……そう思った。」

「雅紀殿……。」

「もう、自分をどうしていいかわかんない時だったんだ。」

雅紀は櫻井を安心させるように、にっこり笑う。 

「でも、智はずっと側にいてくれた。俺の心を癒す為に……絵を描き続けてくれた。

 後で聞いたら、『抱いちまったら、側にいれなくなるだろ?』って。

 本当にいいやつなんだ……。」

櫻井はうなずいたものの、二人の歴史に妬けてくる。

「智の周りにはいろんなやつが寄ってくる。あの見た目だから……。

 でも、櫻井さんは違う気がする……。」

「どうして……。何が違う?」

「ん……。わかんないけど……二度目があったら……。」

「二度目?」

「うん……智は同じ人を二度抱かないから……。」

二人は声を上げて笑っている智を見つめる。

「俺も……和を真っ直ぐ見れるかな……。」

「大丈夫だよ。愛されてるって、俺が見てもわかったよ?」

「ふふふ。ありがとう。」

二人が智達を見つめると、潤が振り返って雅紀の方にやってくる。

「満足のいく出来だった……これは謝礼だ。」

潤は紙に包んだ金を差し出す。

それを開いて、雅紀は目を見張る。

「こんなに……。」

「それだけいい出来ってことだ。」

「でも……。」

雅紀が困ったような顏で潤を見ると、潤は優しく笑って雅紀の手に金を握らせる。

「うちの若いのが世話になってるみたいだな……。

 いろいろ入り用なんだろ?」

陰間茶屋には女形の若い者も、修行の一環としてやってくる……。

きっと雅紀は、逃げ出したくなった若者の話を聞いてあげたりしてるんだろう。

辛い気持ちがわかるから……。

櫻井は改めて潤の顏を見つめる。

さすが天下の成田屋。

顏がいいだけじゃなく、気っ風(きっぷ)もいい……。

「成田屋さん……。」

雅紀が潤に頭を下げる。

「やめてくれ。」

潤が雅紀の顏を上げさせる。

「俺ほどのいい男もいねぇだろ?」

潤が決め顔で二人を見る。

二人が顏を見合わせて笑うと、その声に誘われるように和と智もやってきた。





時は元禄。

将軍綱吉公の時代にして、江戸は図らずも好景気。

近松門左衛門、井原西鶴、松尾芭蕉といった有名どころが台頭し、

娯楽を楽しむ江戸庶民で、そりゃあ賑やか。

だがしかし。

庶民が楽しむ娯楽の中で、発禁を余儀なくされた書物がある。

男と女、あるいは男同士の淫らな行為を詳細に綴った書物……。

所謂、春画。

もちろん、発禁になったからって黙って我慢するわけもなく、

手に入らなければ入らないほど、見たくなるのがこれ人情。

人々はこぞって春画を求めて貸本屋に耳打ちする。

もちろん、当代の有名絵師も黙ってない。

春画は何と言っても金になる。

そして、絵師達に描きたいと思わせる魅力がある。

その中でも一際人気の絵師がいた。

彼の描く絵は、どこまでも色っぽく美しい。

まるで、今さっき、ことを行ったばかりのような艶めかしさ。

彼の陰号は『暁』

彼の素性を知る者はいない。










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