Japonesque(5人)

Japonesque 十六話

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「だったらもう一度聞くよ。あんたが好きなのは……?」

和が雅紀を真っすぐに見つめる。

それでもまだ躊躇する雅紀の背中を、智が優しく叩く。

「ここはちゃんと言わないといけないよなぁ?翔さん。」

「あ、ああ、もちろん。」

櫻井もうなずいて、雅紀を見る。

雅紀はぎゅっと目をつぶる。

言っていいものか、言ったら和を傷つけるのではないか、

そんなことが、頭の中で堂々巡りを繰り返す。

「早く言えよ。私をいつまで待たせるつもりなんだよ?」

雅紀は戸惑いながら智を見る。

智はふにゃりと笑って雅紀を見つめ返す。

次に櫻井を見る。

櫻井も智と同じように、優しく笑って大きくうなずく。

「お、俺は……。」

雅紀は一瞬目を伏せ、きゅっと顏を上げる。

「俺は、和のことが好きだ。」

「え?聞こえないよ。もう一度。」

雅紀は、え?と口を尖らせるが、言われた通りにもう一度言う。

「……俺は、和のことが好きだ!」

「もう一度。」

「和のことが大好きだ!」

「もう一度……。」

「一生、和の側から離れない!」

「私も……私も雅紀の側から離れません!」

和が雅紀に抱き着く。

涙で潤んだ目を必死にごまかすように、雅紀の肩に顏を埋める。

「な、何度も言わすなよ……恥ずかしい……。」

「今まで、何も言ってくれなかった罰です……。これくらいは……いいでしょう?」

和が、涙目のまま雅紀の耳元で囁く。

「でも……本当に俺でいいの?俺は……。」

また雅紀が同じことを繰り返そうとするのを、和が目で遮る。

「……それに、和はお嬢さんが好きなのかと思ってた……。」

「お嬢さん?まさか!」

和は雅紀から離れて、見下したような態度で雅紀を見下ろす。

「あんな我儘で好きもの……私が好きになるわけないでしょう?

 ああ、もちろんいい人ですよ。根は悪くない。でも、恋だ愛だというのはちょっと……。

 これだから雅紀は心配なんです。人を斜めに見ることができない……。

 おっと、これは失礼。櫻井様。お嬢さんにも可愛いところはあるんですよ。」

和は櫻井に向かって、慇懃無礼に頭を下げる。

「今更……。というか……婚約は解消してもらう方向で

 話を進めてもらってるはずなのだが……。」

和は首を傾げ、顎に手を添える。

「いや……そんな話は聞いておりませんが……。

 少なくとも、お嬢さんの方に話は来ていないと思います……。」

「なんと!」

櫻井は口を真一文字に結び、腕を組む。

「きっと母上が……。わかりました。後ほどご挨拶に伺わせていただきます。」

「では、その時に、大旦那様にああだこうだと言われたら、

 『ご禁制の春画を見ているような女は、同心の妻には相応しくない』

 とでも言ってやってくださいな。これでお嬢さんの我儘も少しは減るでしょうよ。

 あ……でも、ここへのお使いが減るのは……残念ですけど……。」

和が片目をつぶって見せる。

智が、ふっふっふと笑う。

櫻井も目を丸くして、すぐに笑顔に変わる。

雅紀は、ただ和の顏だけを見上げて……。

「なんです?今更、私の美貌に気づきました?」

和は優しく笑って雅紀の頬を撫でる。

「あなたは汚くなんかない……。あなた以上に綺麗な魂を、私は見たことがありません。」

「和……。」

雅紀は、頬に添えられた和の手に自分の手を添えて、ぎゅっと握る。

「いいのかな。俺……ほんとに……。」

雅紀がぽつりとつぶやくと、智が答える。

「いいに決まってる。」

「雅紀殿……前を向かなければ、幸せは訪れない。」

櫻井にも、そんなに簡単なことじゃないことはわかっている。

でも、雅紀に幸せを感じて欲しかった。

「私がいいって言ってんですから、いいんです。

 これからは……私も身請けのお手伝いをさせて頂きます。」

「え?」

雅紀がびっくりして和を見上げる。

和は、にっと笑うと、暁の新作を取り出す。

「戯作(げさく)……。みんなが読みたくなるような話を書いて、

 暁に春画だけじゃなく、挿絵も描いてもらって……。

 江戸で一番の戯作者になってやりますよ。」

「んふふふ。確かに、和には合ってるかもしれない。」

智が声を上げて笑う。

「でしょ?私らしいでしょ?」

「筆名も決めたしな。」

「はい。」

和はにっこり笑って智を見る。

櫻井は和から本を取り上げて、表紙を見てみる。

苛斜意馬背。

なんだ、これは?

櫻井は和の顏を見つめる。

「ああ、これは当て字ですよ。漢字は何でもよかったんですけど……。

 『いらっしゃいませ』……丁稚ですからね?皆さんに来て頂ける、読んで頂けるように。」

和がにっこり笑う。

そこで、暖簾をぱさっと跳ね上げる音がする。

みんなが一斉に振り向くと、入口に潤が立っていた。

「なんだい。みんな揃って?」

片方の唇の端を釣り上げて、にこっと笑う。

さすが、二枚目。

「ははは。なんでもありませんよ。ささ、どうぞ。」

雅紀は立ち上がると、目の端に溜まっていた涙を指で拭う。

「なんだい、せっかくの美人が台無しだ。」

潤は店に入ってくると、雅紀の頬に手を当て、顏を覗き込む。

「気安く触らないでくれませんかねぇ?成田屋さん。」

和が腰に手を当て、仁王立ちで出迎えた。










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