Japonesque(5人)

Japonesque 十五話

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「二人は良い仲になったんだ。」

雅紀がにこにこ笑う。

「い、嫌ではないのか?」

「え?」

雅紀が首を傾げる。

智が笑いながら、両袖に腕を入れ、胸の前で組む。

「翔さんは、おいらと雅紀の仲を疑ってんだよ。」

雅紀も笑って櫻井を見る。

「ひゃひゃひゃ。そんなこと……。智は俺を抱いたりしないよ。」

「だ、抱く……など……と……。」

櫻井は、雅紀のあけっぴろげな物言いにびっくりして、言葉が出ない。

「大丈夫。俺と智はそんな関係じゃないから……。」

雅紀はちょっと寂しそうな顏をする。

「でも、雅紀殿は智のことを……。」

「違う違う。」

雅紀は顏の前で両手をぶんぶん振る。

「俺は……人を好きになっちゃいけないから……。」

雅紀はにこっと、太陽のように笑う。

「どうして?」

「俺は……汚れちゃってんだ。」

智は、太陽のように笑い続ける雅紀の肩にそっと手を掛ける。

振り向いた雅紀に向かって大きく首を振る。

「いいんだよ。ちゃんと話した方が。でないとまた勘違いされちゃう。」

「雅紀……。」

「それでも俺は……智にここにいて欲しいんだ。」

いつの間にか、太陽のようだった雅紀の笑顔は消え、泣きそうに切ない顔に変わっている。

「無理せずとも……。」

櫻井も、辛い話を無理に聞く気にはなれない。

「いつかは話さなくちゃならなくなる。だったら最初の方がいい。」

雅紀は肩に置かれた智の手を取って、ぎゅっと握ると肩から払う。

「俺の親は3年前に流行り病で亡くなって……ちょうど、和が丁稚に出た翌年だったかな。

 それからは小さな弟妹をじいちゃんとばあちゃんが面倒みてくれて……。

 でももうじいちゃんもばあちゃんも歳だから。

 働きながらなんて無理で……。で、じいちゃん達がやっていたこの店を

俺がやることになったんだけど、見ての通り、なかなか稼ぎにはならなくて……。」

雅紀は店の中を見回して、天井を見上げる。

櫻井は黙って雅紀の言葉を聞いている。

智は雅紀を、心配そうに見つめ、腕を組む。

「そんな時、声を掛けられたんだ。働かないかって。

 親の薬代の借金もあったから、断ることはできなかった。

 まとまったお金を貰って……10年、働くことになった。」

櫻井にはなんとなく話の意味が理解できた。

雅紀は……。

雅紀は櫻井の顔を見て笑う。

「もう、わかってるよね。俺は……陰間だよ。

 湯島の茶屋で働いてる。櫻井さんが見たのは、店に向かう途中。」

「雅紀……殿……。」

「あはは。そんな顔しないで。わりと性に合ってるんだから。」

雅紀は軽い調子で笑うと、智の隣に並んで座る。

「智も……智のおかげで、智の絵が見れるから、俺はやっていけてるんだよ。」

「雅紀……。」

智の眉が切なそうに八の字に下がっていく。

「だから暁は春画を描き始めた。俺を……身請けするために。」

「……!」

櫻井は智を見つめる。

「本当は絵を売ったりしたくないんだよ。

 自由に、ただ好きな絵を描いていたいんだよ、智は。

 そんな智に俺はずっと無理させてる……。」

「違うって言ってんだろ?俺は春画が好きだから描いてる。

 それ以上の理由はない。何度も言わせるな。」

智の目がきっと睨む。

それでも、その目は優しさに満ち溢れているように見え、櫻井の胸がずきっと痛む。

雅紀はそんな智を見て笑う。

「だから俺は、誰も好きになれないんだ。そして誰からも好かれない。」

「ちげぇだろ?」

智が口を尖らせて腕を組む。

「雅紀は……誰よりも綺麗だよ?人を好きになる心も持ってる。

 ずっと前から好きなやつだっていんだろ?」

雅紀は小さく息を飲むと、下を向く。

「誰だよ。昔から好きなやつって!」

突然入口から声がする。

三人が振り返ると、和が怒った顔で立っている。

「和……。」

雅紀は、はっとして顏を背ける。

和はずかずか入ってくると、雅紀の顎に手を掛け、ぐいっと持ち上げる。

「誰なんだよ。言ってみな。」

雅紀は顎にかかった手を、顏を振って振り払う。

振り払われても、和はまた顎を掴んで持ち上げる。

「私の目を見て、言ってみな。雅紀の好きなのは誰だって?」

観念した雅紀は顏を上に向けられたまま、視線を逸らす。

「私の目を見て!」

和が雅紀の顏を揺する。

雅紀は仕方なく、そっと和の顏を見る。

和は、さっきまでの怒った顏ではなく、泣きそうなほど切ない顏で雅紀を見ている。

「和……。」

「言えよ。私が好きだって。私が好きなのは雅紀だって!」

和の声が震えている。

「か…ず……。」

「汚いって?好きになっちゃいけないって?ふざけるな。

 それじゃぁ、私の気持ちはどうなる?雅紀が好きな私の気持ちは?」

「和……。」

雅紀の目に涙が溜まって潤んでいく。

「あんたがどんなに頑張り屋で兄弟思いか知っている。

 おじちゃん達が次々亡くなって、でもじいちゃんばあちゃんがいるから大丈夫って

 笑ってたから……。私も奉公に出てる身。何かできるわけもない……。

 そうやって自分を甘やかした私が一番悪い。」

「違う。違うよ?和が悪いことなんか、これっぽっちもない。」

雅紀は顎に掛かった和の手を握り締め、和を見上げる










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