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Japonesque(5人)

Japonesque 十四話

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櫻井は無我夢中で走った。

息は上がり、足がもつれる。

でも止まりたくなかった。

ここで止まったら、優柔不断な俺のこと、きっと走れなくなる。

そう思うと、がむしゃらに走るしかなかった。

何度も転びそうになる。

それでも足を止めず走り続ける。

どうして走っているのか。

走ってどこへ行こうとしてるのか。

…………会って何を言うつもりなのか……?

足の力が抜けていく。

……本当はわかっているんじゃないのか?

櫻井は頭を振ると、思い直して走り続ける。

唾を飲むと苦しくて息ができなくなる。

それでも大きく息を吐いて、ゆっくり息を吸っていく。

次の辻を曲がれば東雲はすぐそこだ。

また足から力が抜ける。

引き返したい衝動を抑えて、辻を曲がる。

店の暖簾が見える。

荒い息を整えながら、ゆっくり歩く。

暖簾の前までくると、改めて躊躇する。

どうしようか考えていると、後ろから声がかかる。

「あ、この間のお侍さん。」

振り返ると、雅紀がにっこり笑って小走りでやってくる。

「うちに御用?」

「あ……いや……。」

言葉が続かない。

「ああ、智?」

櫻井が返事をする間もなく、雅紀が暖簾をくぐって中に入る。

「智~。お客さん。」

「いや……その……。」

櫻井がまだ躊躇していると、雅紀はにっこり笑って櫻井を促す、

「ささ、どうぞ。智は奥にいるから。」

背中を押され、中に入れられる。

雅紀の笑顔に、ふと、この間の夜のことを思い出す。

「そう言えば……。」

櫻井が言いかけると、ん?と雅紀が首を傾げる。

「この間、見かけました。夜。」

「夜?」

雅紀の顔色がさっと変わる。

「湯島の方に向かって……。」

その言葉を遮るように智が顔を出す。

「よぉ~、翔さん。」

櫻井はその声に振り返る。

会いたかった智の顔がそこにある。

柔らかい表情で、優しく笑ってる。

通った鼻梁も、赤く薄っすら濡れた唇も、垂れた眉も、あの夜と変わらない智が。

「ちょっと、紙が切れちまったみたいだ。雅紀、買いに行ってもれえねぇか?」

「ああ、わかった。」

雅紀は櫻井に小さく会釈して、智の顔を見ると、そそと出ていく。

…………。

二人きりになると、とたん、櫻井の頭は真っ白になる。

何を話せばいいのか、どういう顔をしたらいいのかわからなくなる。

黙って立ち尽くしている櫻井に、智はくすっと笑って土間に降り立つ。

「どうした?変な顔して。」

そのまま小上がりに腰掛ける。

「いや……その……。」

やっぱり何を言えばいいのかわからない。

春画を見て、勢いで走ってきたはいいが、やっぱり来るべきではなかったのか……。

でも、何も言わないのも変なので、なんとか声を振り絞る。

「絵を……。」

「絵?」

「……春画を……見た。」

智はにっこり笑ってうなずく。

「そうか、見たのか。どうだった?」

智は面白そうに櫻井を見上げる。

「……あれは……俺……?」

「ほほぉ!翔さんにもわかったかい?」

智は楽しそうに笑う。

「そうだよ。あの夜の翔さんだ。」

智は両手を後ろについて、首を後ろに、かくんと曲げて天井を見る。

「俺……あんな顔?」

「んふふ。する前とした後。あんな艶っぺぇ顔してたんだぜ?」

智は思い出しているのか、くすくす笑う。

言われた櫻井は顔から火が出そうな程、恥ずかしくなる。

「思わず描きたくなっちまった。」

智がちろっと櫻井を見る。

その流し目に、櫻井の下腹部が疼く。

ばか。何考えてんだ。

櫻井は自分に言い聞かせ、下を向く。

「で?それを言いに来たの?」

櫻井は答える言葉を失う。

それだけじゃない。

それだけじゃないけど……。

「おいらは……結構、翔さんのこと気に入ってんだよ?」

櫻井は思わず顔を上げる。

「あの顔を……また見たいと思ってる。」

また、かぁーっと顔に血が上る。

「だ、だが、あなたには……雅紀殿が……。」

かねてより気になっていたことを、思い切って聞いてみる。

「ああ、何?雅紀との仲を勘ぐってる?」

智は声を上げて笑い始める。

「雅紀とはなんでもねぇよ。雅紀は……おいらの恩人みたいなもんだ。

 今、こうしていられるのも雅紀のおかげ……。」

「じゃあ……。」

「もちろん、おいらにとって大事な人に変わりはねぇが……そういう仲じゃない。」

櫻井は、ちょっとほっとしている自分に気づいて、その気持ちを打ち消す。

「それを言うなら、翔さんは許嫁がいるんだろう?遊びはほどほどにした方がいい。」

遊び……と言う言葉に、心臓がずきんと痛む。

智の一言一言に、いちいち反応する自分の胸。

櫻井はその胸をぎゅっと握ると、その手を見つめる。

「婚約は……解消して欲しいと……申し出た。」

「は?」

智が首を傾げる。


「婚約は解消した。」

「……なんで?」

「それは……。」

櫻井は言葉が続かない。

それでも首を傾げたまま櫻井を見つめる智に何か言わなくては……。

「気が変わったのだ。」

吐き捨てるようにそう言う。

「気が変わったって……お侍さんは跡継ぎ作らなきゃまずいだろ?」

「わ、わかっている。だが……あのようなことになって……。」

「あのようなこと?……ああ、あの夜のこと?」

智はわざと、とぼけたように言って、櫻井を見上げる。

櫻井は、ええいと腹をくくり、一気に捲し立てる。

「そうだ。あのようなことになって、衆道の道に足を踏み入れた。

 衆道では相手は一人と決められている。この場合、

 念者(年上の者)がどちらになるかはわからないが……。

 念者に浮気は許されない。俺はその証として、婚約を解消することにしたのだ。」

櫻井は言い切って、はっと短く息を吐く。

「……翔さんは真面目だねぇ?」

智は声を上げて笑う。

「わ、笑うな。」

櫻井は智に向かって、一歩踏み込む。

「ああ、笑って悪かった。でも、衆道と結婚はちげぇだろ?」

「それはそうだが……。」

「両方進めりゃいいじゃねぇか。」

「…………。」

櫻井は下を向く。

そんなことはわかっている。

自分の行動に、無理やり言葉をこじつけて納得させようとしただけだ。

「ようは……おいらに本気になったってことだろ?」

本音を言い当てられ、心臓がぐしゃっと掴まれたように痛む。

「おいらを見ろよ。」

そう言われても、顔を上げることができない。

「本気なんだろ?だったら、おいらを見ろ。」

櫻井はそっと視線を上げていく。

智の視線とぶつかる。

智はふにゃりと笑って櫻井を見ている。

その顔を見た瞬間、たまらず智の肩に手を掛ける。

身じろぎもせず櫻井を見つめる智。

まるで、櫻井の行動を待っているようで、櫻井はおもむろに智の顔に顔を近づける。

後少しで唇が重なるという時に、足音が近づいてくる。

「ただいま~。」

雅紀の声に、ぱっと顔を離す。

不自然にきょろきょろする櫻井を見て、雅紀は、あっと口に手を当てる。

「これは……お邪魔でしたね……。」

踵を返して出ていこうとするのを櫻井が呼び止める。

「ま、待て。話は終わったから。」

雅紀は暖簾の間から二人を交互に見ると、にっと笑う。

「本当に?」

「ほ、本当だ。」

櫻井は顔を赤くしながら、雅紀を手招きした。










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