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Japonesque(5人)

Japonesque 九話

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酒を飲んでいる間、櫻井は終始、智の視線から目が離せなかった。

智の瞳は酒が進むにつれ、どんどん潤んで、憂いを帯びてくる。

その目に見つめられ、話しかけられ、櫻井の酒も進むと、不思議な気分になってくる。

まるで智に恋しているような気分……。

このご時世、男色を否定するものはいない。

武家の嗜みとして、作法を教えられたこともある。

だが、それも若い時のこと。

成人した今なら、相手は成人する前の若者でなくてはならない。

智は若く見えるが、自分と大して歳は変わらないはず。

智がお新香を箸で口に運ぶ姿を見て、下腹部が疼く。

疼いた自分にびっくりする。

たかが食事をしているだけなのに……。

そう思いながら、自分も箸でちくわを摘まむ。

摘みながら、智の口元をちらっとみる。

箸を待ち受ける柔らかそうな舌の動き。

鮮やかな赤い舌が、食べ物を捕らえて引っ込めるまで、

櫻井は息をするのも忘れて、全神経を集中させる。

「どうしたい?」

智が舌っ足らずにしゃべる。

「ああ、いや……。」

櫻井が下を向いて赤くなると、智はふふっと笑って立ち上がった。

「じゃ、そろそろ行こうか。」

櫻井は、え?と言うように智を見上げる。

智はそんな櫻井を見て、にこっと笑った。



蕎麦屋を出ると、肌寒さに身震いする。

外は思ったより寒くなっている。

ほんのり酔った体には心地いい。

澄んだ空気の中を、智はずんずん歩いて行く。

遅れまいと櫻井も足早に追いかける。

「月が綺麗だねぇ。」

智が空を見上げて楽しそうに笑う。

櫻井も空を見上げると、満天の星の中心で輝く月は満月。

「本当に……今宵の月はいつにも増して美しい。」

櫻井は腕を組んで月に見入る。

「翔さんは月のように清廉で潔い……。」

「そんなことはない。」

櫻井が智の方を向く。

「間違ったこと、曲がったことなんざぁ、したことねぇだろ?」

智は横目でチラッと櫻井を見る。

「……しないように努めてはいる……。」

「はは。さすがお侍さん。」

「か、からかうな。」

「だが……。」

智は櫻井の方を向き、ぺろっと舌で唇を舐める。

「それじゃぁ、面白くねぇ?」

櫻井はその舌の動きにどきっとし、顔を背けて答える、

「そんなこと……思ったこともない。」

「ほんとか?」

智が櫻井の顔を覗き込む。

「ほ、本当だとも。」

櫻井は智の顔を避けて背を向ける。

「んふふふ。なら、それでいいや。……翔さん、こっち……。」

智は櫻井の袖を引くと、先の道を左にそれる。

「ど、どこへ行くつもり……。」

「……暁の描いてる姿が見たいんだろ?」

「……ああ。」

「だったらおとなしく付いて来な。」

櫻井は黙って後に続いた。

どこに向かっているのかわからない。

櫻井にとって、わからないと言うことは、むずむずするような気持ち悪さに他ならない。

それなのに、智と並んで歩くこの時間の心地よさは、なんだろう?

酔った体に冷たい空気が心地いいからなのか?

月が綺麗だからなのか?

櫻井はまた空を見上げる。

月のようなのは……智じゃないのか?

視線を智に向けると、智は猫背をひょこひょこさせながら、前を歩いて行く。

その背中は思ったより小さくて、そっと手を伸ばしてみたくなる。

伸ばしかけた手を、ぐっと握り込む。

何をばかなことを……この手をどうするつもりだった?

握り込んだ手を胸に当てる。

すると硬い物に当たり、お礼に用意した根付を思い出す。

「智……。」

思い切って、呼び捨てで呼んでみる。

「ん~?」

智が振り返る。

「この間の……手ぬぐいのお礼なのだが……。」

「お礼?」

櫻井は懐から紙に包まれた根付を取り出す。

「これ……。」

智に差し出すと、智は笑って手で押し返す。

「いいよ、いいよ。そんなこたぁしなくて。」

「いや……本当に助かったのだ。……気持ちだから……。」

櫻井は智の手にそれを押し付ける。

「ふぅん。」

智はそれを受け取り、紙を開く。

丸い根付の端に、小さな赤い瑪瑙が埋め込まれている。

「これはいい。綺麗な赤だ。」

智は月にかざして、その色を確かめる。

櫻井は智が受け取ってくれたことにほっとし、にこやかに笑う。

「赤は……翔さんの色だね?」

「え?」

櫻井はびっくりして智を見る。

智はふにゃりと笑って、櫻井を見つめている。

「そんなこと、言われたこともない。」

「翔さんは、穏やかで真面目で……だけど、真っ赤な何かを持ってる。違うかい?」

そんなこと、考えたこともなくてびっくりする。

真っ赤な何か……そんなものが俺の中にあるのだろうか?

「んふふ。ありがとう。大事に使わせてもらうよ。」

智はそれをもう一度月にかざすと懐にしまう。

しばらく歩くと、智が振り返って櫻井を見る。

「ここだ。」

智がにっこり笑って、一軒の店に入っていく。

「ここは……。」

櫻井はびっくりして後退る。

「なんだ、初めてか?」

「初めても何も……。」

櫻井は店構えを確認する。

「暁は……明日、ここで描く。」

智がふにゃりと笑って、櫻井を待つ。

「来ねえのかい?」

「いや……。」

櫻井はごくりと唾を飲み込む。

不忍のほとりの出合茶屋。

出合茶屋と言えば……。

「先に行くよ。」

智が一人、先を行く。

櫻井は一瞬迷い、中に入っていく智の背中を見つめ、ぎゅっと目をつぶる。

「待て。俺も行く。」

智の後を追いかけると、智の隣に並んだ。










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