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Japonesque(5人)

Japonesque 八話

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櫻井のところに突然、智がやってきた。

「翔さん。」

すました顔で、御番所帰りの櫻井を呼び止める。

「暁から頼まれて来た。」

「暁から?」

櫻井が立ち止まる。

「なんて?」

智がふにゃりと笑う。

櫻井がその顔に胸を掴まれていると、智は櫻井の腕を掴んで歩き出す。

「おいら、腹減った。」

「ちょ、ちょっと待て!」

智に掴まれた腕を変に意識して、胸の鼓動が早くなる。

そんなことには全く気付かないのか、智は少し歩くと、櫻井の隣に肩を並べる。

同じ歩幅で歩き始め、すっと櫻井の腕を離す。

掴まれていた腕が熱く、離されたとたんに、風の冷たさを感じる。

素肌を触られたわけでもないのに……。

櫻井は初めての感情に戸惑い、左手で懐をぎゅっと握る。

手ぬぐいのお礼にと買った根付。

なかなか渡す機会に巡り合えず、ここのとこ、ほぼ毎日懐で暖めている。

それだけ、お勤めが忙しい。

今日は渡せそうだ。

そう思い、また懐をぎゅっと握る。

「翔さんは……。」

智が櫻井の顔を覗き込む。

「決まった人はいる?」

「え?……。」

櫻井がどう言ったものか考えていると、智がくすりと笑う。

「その顔は……いるんだね?」

「ん……まぁ。」

櫻井は腕を組んで溜め息をつく。

「許嫁がいる……。結婚は家同士のものだ。それに逆らうつもりはない。」

「ふぅん。」

智はまた、くすりと笑う。

「それにしちゃぁ、納得してない顔だね?」

「そ、そんなことはない。」

櫻井は慌てて、生真面目な顔を作る。

眉を上げ、目を瞬かせ、口を結ぶ……。

その顔が可笑しくて、智は指さして笑う。

「んふふふ。翔さん!その顔!」

「な、……智殿!」

あまりに笑い続けるので、櫻井はどんどん恥ずかしくなってくる。

「やめてくだされ!」

櫻井が智の口を右手で塞ぐと、その指が智の唇を霞める。

生暖かく、しっとりした感触に、思わず手を引っ込める。

「笑うのは……それ位にしてくれないと……。」

引っ込めた右手を左手で包み、智を見つめる。

「すまねぇ、すまねぇ。あんまり翔さんが可愛かったから。」

智はまだ笑みを絶やさず櫻井に横目を送る。

「か、可愛いなんて……男にそのようなこと……。」

「ああ、そのしゃべり方も、おいらの呼び方も……。」

「?」

櫻井が歩みを緩めると、智の方を向く。

「もうちょっと楽にしてくんないかな?おいらの肩が凝るっていうか……。

 背筋がぞわわわっとする。」

櫻井は眉を下げ、困った顔で智を見る。

「そう言われましても……。」

「すぐには変えられねえか?ま、気長に待つさ。」

「そうして頂けると助かります。」

櫻井はほっとして前を向く。

「ああ、でも呼び方は、智で頼む。」

「智?」

「そう。智。」

「智……殿?」

「だから、それがいけねぇ。智。他は何もなし。」

「……さ……さ…さ……とし……?」

「そうそう。」

智がご機嫌な笑顔で顎をしゃくり、櫻井にもう一度と強請る。

「さ……さ…とし。」

「もう一度。」

「……さとし。」

「もう一丁!」

「智!」

「何?」

智がふにゃり笑顔で答える。

「いや……呼べって言うから……。」

「んははは。いいね。その方が気楽でいいや。」

「智殿~!」

櫻井がふて腐れたように口を尖らせると、『殿』を付けたことに、はっと気づく。

「す、すみません……。」

「あはははは。翔さんは本当に真面目だねぇ。」

智はゆったりした足取りで、笑い続けた。



智に連れてこられたのは、神田にほど近い蕎麦屋だった。

「ま、ま、一杯。」

智はさっそく熱燗を頂く。

櫻井にも勧め、櫻井のお猪口にも継いでいく。

「翔さんはさ……どうして暁に興味を持った?」

「興味って……。」

櫻井はお猪口を持つと、ちょっと掲げて智に会釈する。

それを口に当てると、一気にくいっと飲み込んだ。

「いい飲みっぷりだねぇ。ま、ま。」

智が酒を注ぐ。

「あ、ありがとう。……暁の絵は……。」

お猪口を口につけると、今度は一口口に含む。

智は自分のお猪口にも注ぎ、くいっと半分位飲み込む。

「なぜだか人を惹きつける。」

「んくくっ。それは……春画だからだろ?」

智は少し声の調子を落とす。

「それだけじゃない……。見ていた通り、俺は春画に全く興味はない。」

「んふふ。確かに。」

「それどころか、嫌悪まで抱いた。」

「うん……。」

智が残りの酒を口に含む。

「だが、暁は違う。」

「どう違ったんだい?」

「なんというか……生々しいのに……本当にその場にいるようなのに……綺麗だなって。」

「綺麗?」

「ああ……この絵の作者の見ている世界……それはきっと全てのものが愛おしくて、

 どんなに辛いことも苦しいことも、彼には本当にこの世界の全てが

 美しく、潔く見えるんだろうな……と思えて。」

智は黙って聞いている。

「そんな人物に会ってみたいと思ったんだ。」

「……そんな、大それたやつじゃぁねぇよ?」

「ふはは。そうかもしれないけど……。」

櫻井は酒を口にし、ぺろっと唇を舐める。

「そんな人物に会ったら……自分が変わるような気がして……。」

「ふ…ぅん……。」

智は自分のお猪口に酒を注ぐ。

「翔さんは……変わりたいんだ?」

智がチラッと上目遣いで櫻井を見る。

その目に、どきっとしながら、櫻井はお猪口をあける。

「いや……そういうわけではなく……。」

「変えて……やろうか?」

智はにやっと笑って櫻井を見つめる。

「え?」

見つめられてどぎまぎする自分が、まるで初夜の花嫁のような気がして狼狽える。

肘を付き、その手に顎を乗せ、じっと櫻井を見つめ続ける智から目が離せなくて、

櫻井はお猪口に酒を注ぐと、目をつぶって一気に煽った。










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