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Japonesque(5人)

Japonesque 六話

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「み、店の中を改めさせてもらう。」

櫻井の鼓動はどんどん早くなっていく。

自分でもどうしてなのかわからない。

櫻井は大きく息を吸い、棚に置いてある本に手を伸ばす。

「あ、そこは……。」

雅紀が小さくつぶやく。

櫻井が1冊本を抜き取ると、ガタガタと本が崩れ落ちる。

「な、なんだ?」

櫻井は茫然と目の前の本の山を見つめる。

「だから……その……棚が壊れていて……。」

雅紀が申し訳なさそうに頭を掻く。

「これじゃ、客が来ても見れないじゃないか。」

「はぁ……店に来る客はあまりいないもので……。」

雅紀が恥ずかしそうに背中を丸める。

「ではどうやって商いしている?」

「それは……。」

雅紀がチラッと智を見る。

智はにこやかに笑うと、奥から箱型を取り出す。

「これで、行商に行っております。」

櫻井は智の近くまで行くと、箱型を受け取り、小上がりに置いて中を調べる。

「今は本は入ってやしませんよ。その都度、違った本を入れていくんで。」

智は腰を屈めて櫻井に説明する。

櫻井は一通り箱型を確認すると、最後に一番下の、引き出しに気づく。

「ここには何が?」

「特に何も入ってませんよ。」

智はさらりと言ったが、櫻井はその引き出しを引いてみる。

中には何も入っていない。

「ほらね。入っていないって……。」

智がそう言った時、櫻井は引き出しの中に手を突っ込んだ。

雅紀が小さく、あっと叫ぶ。

引き出しの底が二重底になっている。

底を取り外し、その下に手を入れる。

智と雅紀はしまった!とばかりに顔を見合わせる。

櫻井は数枚の紙と本を取り出す。

どれも色鮮やかな春画だ。

櫻井は一枚を目の前で広げ、目を見張る。

男女の交合(まぐあ)う姿が、大仰に描かれている。

着物の柄を見せる為か、あり得ない体勢ながら、局部は繊細に描かれている。

櫻井は初めて見る春画に驚愕した。

これの何がいいんだ?

さらにもう一枚広げてみるが、同じようなもので、今度は合体している図だ。

櫻井はそれらをくしゃくしゃに丸めると、ぽいと投げ捨てる。

「ああっ。」

雅紀はそれを拾い、丁寧に伸ばしていく。

「ご禁制の春画……一緒に来てもらおうか。」

櫻井が雅紀の腕を掴むと、智が櫻井の腕に手を掛ける。

「待てよ。……おめぇ、今、絵を見てどう思った?」

智が鋭い目で櫻井を見る。

「どうって……こんなもの……。」

櫻井は苦々しげに雅紀の手の中の春画を見つめる。

「こんな不埒なもの、世の為にならぬ。」

智は櫻井の手に、一つ残された本をひったくると、ぺらぺらと捲る。

ある頁を開き、櫻井にぐいと押し付ける。

「んっ。」

櫻井は雅紀から手を離し、両手でそれを受け取る。

その頁には若い男女が快楽を楽しむ様子が描かれている。

だが、さっきの物とは違い、無理な体勢は取っておらず、

局部は相変わらず剥き出しではあるものの、さほど大仰でもない。

何より違うのが、その美しさと写実性。

今にも喘ぎ声が聞こえてきそうな、女の憂いを帯びた顔。

女が愛おしくて、すぐにでも交わりたいのをぐっと堪える男の姿。

この頁の絵には、それだけで物語があった。

とても艶めかしい物語が。

櫻井は絵に惹きつけられ、息を飲む。

これは、京都の狩野派にも引けを取らない筆さばきではないのか?

「……この作者は……。」

櫻井は頁の端に雅号を見つける。

「暁……。」

櫻井より早く、智が透き通るような声で口にする。

「暁……。」

これが村上の言っていた暁か。

確かに。

見る者の心をつかむ。

それは春画だからというだけではない。

真に迫る何か……そして、その描写力と表現力。

「どうだい?春画も……悪くねぇだろ?」

「だが……っ!」

櫻井は本を閉じ、顔を上げる。

智の顔を見て、唾を飲み込む。

「あなたには、一度世話になった……。」

「なんだ、覚えてたのかい?すっかり忘れちまったかと思ってたよ。」

智が、ふふっと笑う。

「あの晩は酔っていたしなぁ?」

「だから、今回は見逃そう。」

「ほんとに?」

雅紀の顔がぱっと華やぐ。

「但し……条件がある。」

「条件?」

智と雅紀は同時に櫻井の顔を見る。

「暁の……描いてる姿が見たい。」

櫻井は真剣な表情で智を見つめる。

「描いてる……姿?」

「ああ、そうだ。描いてる姿がみたい。この条件が飲めないのであれば見逃すことはできぬ。」

「それは……。」

言いかけた雅紀を智が手で制する。

「いいだろう。その条件飲もう。」

「え?いいの?」

智は雅紀に向かって優しく微笑む。

それを見ていた櫻井は、なぜか苛立ち、手を握り締める。

「但し、暁が誰なのか……他言無用でお願いしやす。」

智の光る視線に、櫻井は思わずうなずいていた。










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