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Japonesque(5人)

Japonesque 五話

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和は櫻井と別れると、智に声を掛け、一緒に東雲に向かった。

東雲についたのは、お天道様が西に傾いて一刻が過ぎた頃だった。

「雅紀~!」

和が威勢よく暖簾をくぐると、相変わらず暇そうな雅紀が

赤い表紙の本をぺらぺらと捲っている。

雅紀と和は幼馴染だ。

小さい頃から知っているせいか、気心が知れすぎて、口喧嘩が絶えない。

そんな雅紀が貸本屋を始めて少し経った頃、智がひょっこりやってくるようになった。

一晩泊まり、二晩泊まり……。

そうする内に、雅紀の家に居ついた智を、面白く思わなかった時期もあった。

一時期、雅紀と疎遠になったくらいだ。

だが、そうこうしている内に、和も忙しくなり、お兄ちゃんを取られたような子供じみた

気持ちは少しずつ薄らいで、智の人懐こい笑顔にも惹かれ……。

たまに、三人で遊びに行くくらいには回復した。

何より、和は雅紀の笑顔が好きだった。

その雅紀の顔が、智の文句を口にする度に、悲しげに曇るのを見たくはなかった。

雅紀は今日も、からし色の頭巾を首に巻いている。

近所でも評判の洒落男だ。

「おう、和、今日もお嬢さんのお使いかい?」

雅紀が顔を上げると、少し息の荒い和が胸元から数枚の紙を取り出す。

「これ……。」

和は紙を取り出したものの、渡すのを躊躇う。

今になって恥ずかしくなってくる。

「どれ、書いてきたんだろ?見せろや。」

智が背中の箱型を小上がりに置くと、和の手から紙の束を奪い取る。

「あっ……。」

汚い字で書かれている半紙に、つらつらと目を通す智を、神妙な面持ちで待つ和は、

いつもと違って伏し目がちで、そんな和を見て雅紀がくすくす笑う。

「な、なんだよ。」

「いやぁね。いつもと違うから。」

「お前なんか知るか!」

和が、ぷいとそっぽを向くと、雅紀も智の隣に並んで和の話を読み始める。

それを横目に、和は所在なくうろうろする。

最後の紙を捲ったところで、二人が同時に顔を上げる。

お互いの顔を見て、次に和の顔を見る。

「ど、どう……?」

「和……。」

先に口を開いたのは雅紀だ。

「いいねぇ。このお嬢さん、気が強いのに、床では従順なのがいい!」

雅紀の言葉に、ほっとした和は、智に視線を向ける。

「いいじゃねぇか?暁に渡しておくよ。」

「ほんと?」

「ああ、きっと気に入るよ。」

智が小上がりに腰掛けると、柔らかい目で和を見る。

「でも、最後がな……。」

雅紀が口を尖らせる。

「なんだよ。なんか文句あんのかよ。」

「やっぱ、ここは手に手を取って駆け落ち?」

「それじゃ、嘘っぽいだろ?」

「いいんだよ。嘘で。みんな幸せが見たいんだから。」

「私はそういうの好きじゃないですけどね。」

和が腕を組んで鼻を鳴らすと、智が笑って二人の間に入る。

「まぁ、いいよ。最後は好きにして。それまでに筆名を考えといてくれよ。」

「筆名?」

和が首を傾げると、雅紀が智に向かって奥を指さす。

「ああ、本名で書くわけにいかないだろ?」

雅紀が言うのと同時に、智がくるっと後ろを向いて、小上がりに上がっていく。

「う~ん、……それも考えてくるよ。」

和がそう言って雅紀を見ると、少し乱れた頭巾の間から、赤い跡がチラッと見える。

和の目が見開かれ、釘づけになると、雅紀は慌てて襟元を隠す。

「昨日の女がやんちゃでね……。」

雅紀の笑顔はどこか空々しく、和は頭巾の下の赤い跡と、

振袖を落とす智を交互に見つめ、唾を飲んだ。



数日が過ぎ、とうとうお役所は本屋、貸本屋の手入れを敢行すると言い出した。

櫻井も、数人の同僚と共に借り出される。

櫻井の持ち場は十二間……。

十二間と言えば、智の東雲も……。

案の定、智の東雲も手入れの中に入っていた。

なんとか逃がしてやりたい気持ちもあるが、もしかしたら、春画など扱わない、

真摯な本屋かもしれない。

櫻井は大きく頭を振る。

これはお役目だ。

自らに言い聞かせると、仲間と一緒に奉行所を後にした。



十二間に着くと、それぞれ持ち場を回る。

櫻井はそれとなく、東雲の地区の担当になると、地図を元に店を探す。

東雲は小さな貸本屋だったから、手入れに行くのは櫻井一人だ。

古い、小さな店構えの暖簾を確認する。

東雲……流れるような字でそう書いてある。

櫻井は暖簾に手を掛ける。

「ごめんよ。御用改めだ。」

櫻井が暖簾をくぐると、え?とびっくりした顔が振り返る。

櫻井の期待をよそに、振り返ったのは雅紀だ。

「御用改めですかい?」

雅紀は思いの外、大きな声でそう言うと、振り向いたまま後退る。

「誰か……いるのか?」

櫻井が、訝しそうに目を細める。

「いや……。」

雅紀が言いよどむと、奥から智が顔を出す。

「どうした?」

智がにこやかに小上がりから下りてくる。

櫻井は智の顔をまじまじと見る。

「おっ。この間のお侍さん。」

智はふにゃりと笑った。










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