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Japonesque(5人)

Japonesque 四話

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「なぁ、朝の……どうする?」

櫻井が肩を叩かれ振り返ると、同僚の村上が立っている。

「まぁ、仕方あるまい。ご禁制はご禁制。

 庶民の娯楽とはいえ……風紀を乱すものを放ってもおけまい。」

櫻井は村上と並んで歩き出す。

朝のお勤めで、上役が皆を集めて言い渡した。

「このところ、発禁になっている春画が……大手を振って横行しているという。

 風紀を乱す諸悪の根源……心して取り締まるように。」

それを聞いていた同心達は小さく目配せし合う。

皆、少なからずお世話になっている。

かく言う上役も、一度も目にしたことがない……わけはなく、

その取り締まりに対する言葉を、どう受け取ればいいものか、

同心達も周りの様子を伺い合うしかない。

「お前さ……見たことあるか?」

村上が小さな声で言う。

「何を?」

櫻井はぴんと来ず、首を傾げる。

「決まってるだろ……春画……だよ。」

櫻井は、あっと小さく息を飲み、なんと答えるのがいいか考える。

実は櫻井は一度も春画を見たことがない。

正しくは、見る機会がなかったというべきか。

皆が楽しんでいるのは知っている。

だが、父親が元来真面目な男だったせいか、何かの拍子に目にする……ということもなく、

なんとしても見てみたいという意気込みもなく、今日に至る。

だが、男として、一度も目にしたことがないと言うのは……。

「俺さ……。」

櫻井が考えていると、待ちきれないのか、村上が話し出す。

「この間、暁の……見たのよ。」

「暁?」

「うん……すげぇの。」

村上は頬を少し上気させ、声を殺して囁く。

「あんなの初めて見た……艶めかしいって言うか……。

 もう、その時……みたいな?見たらお前でも、うぉ~ってなるから!」

「へぇ~。」

櫻井は腕を組んで感心する。

そんなにすごいなら、ひと目見てみたいが……。

「だからさ、取り締まって、暁があったら……俺にも教えろよな。」

櫻井は、え?とびっくりしたように村上を見る。

「だめだめ。庶民から取り上げた物を横流し……。」

村上が慌てて櫻井の口を手で塞ぐ。

「ばかっ、違うよ。ちょっと見せてもらうだけ……。」

「同じだろ?」

「同じじゃない!」

櫻井は、ふふと笑って村上を横目で見る。

「わかったよ。見つけたら一声掛けるから。」

「おう、頼んだぞ。俺も……見つけたら声掛けるからさ。」

村上が片目をつぶって見せる。

「俺は……。」

いいよと言いかけて村上を見ると、もうすでに他の者に声を掛けている。

「どうしても見たいんだな……。」

村上の逞しさに苦笑いすると、懐に忍ばせてあった手ぬぐいを取り出す。

綺麗に洗ってはみたものの、これを返すのは憚られる。

菓子でも買って持っていこうか。

あの辺りに住んでいるのか……。

櫻井は手ぬぐいの、東雲の文字をじっと見ながら考えた。



和は急いでいた。

暮六つまでには帰らなければならない。

約束のお話を懐に収め、早足で東雲に向かった。

暁の新作……心待ちにしているのはお嬢さんばかりではない。

和も実は、早く見たくてうずうずしている。

話さえあれば、新作に暁が取り掛かってくれる……。

和の書いた話は単純だ。

大店のお嬢さんと歌舞伎役者の密やかな恋模様。

忍ばずの出合茶屋での密会。

それを覗く、茶屋の女将……。

毎晩のように逢瀬を重ねる二人。

だが、お嬢さんの縁談話により引き裂かれる二人。

会えない間に、茶屋の女将と浮気する歌舞伎役者。

その場を目撃し、縁談を受け入れるお嬢さん……。

話はそこで終わっている。

実際、れい子お嬢さんにも縁談の話が持ち上がっている。

下級侍との縁談だが、お嬢さんも適齢期。

早くしないといかず後家になってしまう。

和は懐を叩き、さらに足を早める。

これで何枚か書けるだろう。

そう思って辻を曲がると、人とぶつかりそうになって、びっくりする。

「ああ、すまない!」

和が飛び退いて相手の顔を見ると、

さっき考えていた下級侍が目の前にいてさらにびっくりする。

「これは、櫻井様。」

和は体を立て直し、綺麗にお辞儀の姿勢を取る。

「おお、れい子さんのとこの……。今日はお使いですか?」

和が顔を上げると、男前がにこやかに笑っている。

「はい。ちょいと、そこまで……。」

和も笑って挨拶する。

「ああ、和さんはこの辺に詳しいのかな?」

「そうですね……お使いによく来ますから。」

「では、ご存じないかな。東雲の智という……。」

「ああ、智なら知ってますよ。貸本屋の智でしょう?」

「貸本屋……?」

「ええ、派手な様相で町を歩いてるから、結構知ってる人、多いんじゃないかな?」

派手な様相?

確かに男前ではあったが……。

櫻井が首を捻っていると、和がにっこり笑う。

「はは。そんな話をしていたら、ほら、智だ。」

和がすっと前を指さす。

櫻井が振り返って、その指の先を見ると、振袖を羽織り、背には箱型、

人に呼び止められて立ち止まる智の姿が目に入る。

「あ……。」

確かにあの夜、会った顔だ。

だが、赤の強い振袖を着ているせいだろうか?

匂い立つ色気と、凛とした佇まいが、智の美しさを一層際立たせている。

あの夜とは違う智に、どきりとする。

「智に何か用ですか?」

櫻井は智の姿に見惚れている自分にハッとする。

「いや……。」

そんな櫻井の様子を見て、和がくすっと笑う。

「あの恰好……女だけでなく、男まで引き付けますよね?

 この間、潤様~も見惚れてましたよ。」

「え、あ、いや、見惚れていたわけでは……。え?潤様?」

「はい。あの成田屋ですよ。」

和がニヤリと笑う。

「あの二枚目も見惚れるくらいですから。

 櫻井様、大丈夫です。お嬢さんに話したりしませんから。」

「いや、ば……そういうわけでは……。」

「ところで智に用事では?」

言われて櫻井は考える。

今日はお礼の品を用意していない……。

「……今日はよしておこう。」

櫻井はまた智に目をやると、今度は腕を組んで考え込んだ。

そんな櫻井を見て、和は不思議そうに首を傾げた。










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