Japonesque(5人)

Japonesque 三話

 ←Japonesque 二話 →Japonesque 四話

雅紀と和は顔を見合わせる。

「そ、そりゃ、今を時めく二枚目が雛形になってくれるってんじゃ……。」

「断るわけないですよねぇ?」

和がへっへっへといやらしく笑い、親指と人差し指で丸を作る。

「ばか言うんじゃないよ。そんなこと……あるけど。」

雅紀も小さくひっひっひと笑う。

「喜んでるとこ恐縮なんだが……それを刷るのは一枚きりで……。」

二人は、ん?と顔を見合わせる。

「一枚?」

「そう。俺だけが楽しむ。……ああ、もちろん礼はするよ?

 暁が描いてくれるってぇ言うんなら、相場の倍出す。」

「いやいや、描いて欲しいって来んのは花魁や遊女ばっかりですし、どうかな……。」

「いいよ。絵師に聞いといてやるよ。」

突然入り口から声がして、皆が振り返る。

入り口には、華やかな赤い振袖を身に纏った智が、にこやかに立っている。

歌舞伎の赤姫のような振袖は、青地に赤い牡丹に御所車。

ゆるく腰で結んだ三尺を垂らし、背には重そうな木の箱型を背負っている。

潤がその艶やかさに呆気にとられて見惚れていると、雅紀が心配そうに尋ねる。

「智……いいのかい?」

「ああ、聞くだけ聞いてやるさ。

 なんてったって、あの成田屋が惚れてるとまで言ってくれてんだ。」

ふにゃりと笑うと、智はつつっと中に入り、背の箱型を雅紀の隣におろした。

「でも、暁は……一人の為には描かねぇ。そこはたぶん、無理だ。」

智が柔らかい目で潤を見る。

「……わかった。いいだろう。但し、名を出すわけにはいかない。

 俺に似てる、誰か別人だ……いいね?」

潤は不遜な顔で智を見る。

そんな潤の態度に、智はくすくす笑いながら続ける。

「それと……暁はやってるとこを見ながら描く。見られても大丈夫かい?」

智は下した箱型から数冊の本を取り出し、小上がりに並べていく。

「それは……。」

潤が言いよどむと、和もくすくす笑いながら潤の顔を覗き込む。

「あ~、成田屋ともあろうお人が裸に自信がない?それともあっちに自信がない?」

雅紀も面白そうに、ちらちら潤を見る。

「そんなことないわ!」

潤が和に向かって、きっと睨む。

「じゃあ、話は決まった。後は暁の気分次第だな。」

智は本を並べ終えると、雅紀に銭袋を渡す。

「そう言えば、暁の新作って出てるのかい?」

和が雅紀と智の顔を交互に見る。

「いや……まだだ。いい話が見つからないらしくって。」

雅紀が言い訳がましく説明する。

「話の筋に関係ない春画もいっぱいあるけど、暁は違う。

 話にそった絵を描くから、描きたい話がないと描かないんだよ。」

雅紀は、智から受け取った銭袋の中身を手の平に広げると、一枚二枚と数え始める。

「じゃ、俺が書いてやろうか?」

和は先ほど雅紀から受け取った本を一冊、ぺらぺら捲りながらそう言うと、

顔を上げて雅紀を見る。

「和が?書けんのかよ。」

「読み書きそろばんはできるよ?」

「それだけじゃ……。」

雅紀が言いかけると、智が割って入る。

「どんな話を書くんだい?」

智がじっと和を見ると、和はふっと潤を横目で見る。

「そうだな……大店のお嬢さんと歌舞伎役者の秘め事……なんてどうだろ?」

智は、和を暫くじっと見て、ふにゃりと笑う。

「……暁も喜びそうな話だ。」

「智!」

「いいだろ?言ってみるだけ言ってみれば。

暁が嫌だと言ったら、それで終わりなのは二人とも百も承知。やるだけやってみれば?」

雅紀は片頬を膨らませ、しぶしぶという体で承諾する。

「ま……暁次第だからね……。」

そう言って、ぷいっと小上がりに上がっていく。

「いつまでにできる?」

智が和に聞く。

「そうだな……なんせ、こき使われてるから……。

 できるだけ早めに書いてもってくるよ。」

奥から雅紀が戻ってくる。

一冊の本を持って、ぱんぱんと埃を払いながら、その埃を吸って咳き込む。

「こほん、ごほごほっ。……ああ、これ、参考に持っていくといいよ。

 暁の昔のやつだけど、参考にはなるだろ?ついでにお嬢さんも喜ぶ。」

雅紀が本を差し出すと、和はそれを受け取って、体から離したところで、ぱんぱん叩く。

「ありがとう。暁の新作がないって言ったら、

 お嬢さん、がっかりするからね?これは助かる。」

「成田屋さんも、そういうことでいいかな?」

「ああ、もちろん。……しかし、なんだね?」

「何?」

「俺のことを成田屋と呼ぶのは……。」

潤が渋い顔をすると、三人は顔を見合わせる。

「じゃ、なんて読んだらいい?」

雅紀が聞くと、潤は少し顔を赤くして言う。

「潤で……。」

「潤様?」

和は潤の顔を見ながらそう言うと、乙女のように小首を傾げる。

「なんで疑問形?」

潤の言葉に、和がくすりと笑う。

「世間じゃ、そう呼んでるからね?きゃ~!潤様~~~って。」

潤は、面白くなさそうにあからさまに顔を背ける。

「女に言われるならいいけどね……お前に言われたら、気持ち悪いわ。」

三人は、あははと声に出して笑う。

釣られて潤も笑うと、じゃ、そういうことでと、和と潤は笑いながら店を後にした。

その二人の背を見送って、雅紀が言う。

「本当にいいのかい?」

「ああ、いいさ。成田屋が描いて欲しいって言うんだ。

 どんなものか拝ませてもらわないと。」

智は小上がりに上がっていくと、着物を脱ぎ始めた。










関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【Japonesque 二話】へ  【Japonesque 四話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【Japonesque 二話】へ
  • 【Japonesque 四話】へ