Japonesque(5人)

Japonesque 二話

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十二間までやってきた和はふぅと息をついて、『東雲』の看板を探す。

「たしかこの辺……。」

細い路地を入ったところに看板を見つける。

今にも壊れそうな看板には、読めるのが不思議なくらい掠れた文字で『東雲』と書いてある。

「おっと、ここだ。」

和は、そろりと暖簾をくぐっていく。

「ごめんよ。誰か、いないのかい?」

奥の方から、がさごそと音がする。

「はいはい。ちょっと待ってね……。」

紺の小袖に茶の頭巾を首に巻いた、背の高い男が奥から出てくる。

「あれ?和じゃない。どうしたの?」

男は気安く、和の前にやってくる。

「いやね、お嬢さんのお使いで……。」

和は困ったもんだと言うように、ふっと笑って見せる。

「ああ~。大店のお嬢さんも好きだねぇ?」

男は、人好きのする顔をくしゃっと歪ませて、手前の棚から幾つかの本を取り出す。

「智が回ってると思うんだけど、行かなかった?」

数冊の本に目を通すと、その下からさらに2冊の本を取り出す。

「いや、来てないねぇ。雅紀は一人で店番かい?」

「そうだよ。全然客が来やしなくて嫌になる。」

本をとんとんと重ねると、和に差し出す。

「お前さんも外、出ればいいじゃないか。」

「ごめんだね。あんなの着て外歩くなんて嫌なこった。」

雅紀は本当に嫌そうに目を細める。

「ははは。そんなこと言ったら智はどうするんだい?

 あれだから、女客が寄ってくるんだろ?」

「そりゃそうだけど……。」

雅紀がつと、顔を上げ、入り口に目を向ける。

釣られて和も入り口を見やる。

「すまない。こちらに暁の絵師さんがいらっしゃると伺って来たんだけど……。」

暖簾をくぐって入ってきたのは、目のきりっとした、彫りの深い若者だ。

「これはこれは、今を時めく成田屋さんのおいでとは。」

雅紀がそそと草履に足を入れ、土間に降り立つ。

「成田屋さんて、あの……。」

和は、口を開けて若者に見入る。

太い眉にすっとした鼻梁。

にこやかに笑う姿は間違いなく、成田屋の二枚目、潤だ。

「ほえ~。さすが、本物は輝きが違うってもんだ!」

潤がくすりと笑い、決め顔を作って流し目を送る。

「はあぁぁ~!私でもくらくらしちゃいそうですよ。」

和は大げさに頭を振って見せる。

「兄さんも、なかなかの男前じゃないか。」

「いえ、私はそれほどでも……。」

和は腰を屈めて、へへへと笑う。

「ところで、成田屋さんがこちとらに何ようで?」

雅紀が揉み手をしながら、和と潤の間に入っていく。

「ああ、そうだった。ここに暁の絵師がいるって聞いて来たんだけど、いる?」

雅紀は首を傾げ、にやりと笑う。

「どこでお聞きになったか存じませんが、暁はこちらには居りませんし、

 どこにいるかもわかりゃしません。」

「どこにいるかもわからないの?」

和が聞き返す。

「わかっているよ。ご禁制の春画……表だってはいられないってことくらい。」

潤がしたり顔で笑う。

「そうじゃなくて……。」

雅紀は困った顔で潤を見る。

「でも、新作が出ると、ここが一番に出すんだろう?」

和が腕組みして雅紀を見る。

「そうなんだけどね……。」

「それは、絵師が持って来んの?」

潤が身を乗り出して聞いてくる。

「まさか!絵師が現れたことなんて、一度もない。」

「なんだ。そうなんだ。私も……絵師にはちょっと興味あります。」

和はにやりと笑う。

「あんな絵を描くんだ。よっぽどの……。」

くっくっくと声を殺して笑う。

「そりゃあ、そうだろ?あんな艶めかしい絵、他で見たことない!」

潤もくっくと笑う。

「あそこなんて、今まさにって感じで濡れて……。」

「女の顔の、こう、とろんとした目とか……。」

二人が顔を見合わせて、いやらしく笑う。

そんな二人を見て、雅紀が溜め息をつく。

「その絵師に、どんなご用件で?」

潤はゆっくり笑うのを止めると、こほんと小さく咳払いする。

「そうは言っても、俺はね?師宣、北斎に引けをとらない、

 当代随一の絵師だと思っているんだよ。」

「まぁ、そりゃ、そうでしょう。」

雅紀が、うんうんとうなずく。

「そこで、俺の看板をお願いしたくてね。」

「看板?……って、歌舞伎の?」

「そうそう。小屋の前に掲げてある看板。あれをぜひ暁の絵師さんにお願いしたい。」

潤が、羽織の袖に両手を入れてうなずく。

「それは……困ったね……。絵師は春画しか描かないし。」

「春画しか描かないの?」

和も首を傾げる。

「ああ、絵師は春画だけ。それ以外には興味がないらしい。」

「これまた、変わってらっしゃる!」

和は徐々に興味が増したのか、目を輝かせて雅紀に見入る。

「じゃ、春画だけで食ってるのかい?」

「さぁ……絵師の素性は俺にもさっぱりだから。」

雅紀がごまかすように笑う。

「ふうん。あんた何か知ってんだろ?」

「え?知らないよ。なんにも。」

雅紀が身を引いて和を避ける。

和は、ずいっと体を寄せて雅紀ににじり寄る。

「ほんとか?」

「ほんとだよ!」

「まぁ、いいさ。絵師が春画しか描かないのなら……

 俺を春画で描いて欲しい。」

きりっとした鋭い目を雅紀に真っ直ぐ向け、潤が言う。

「え?春画って、潤さん……。」

和が目を丸くして潤を見る。

「……やってるとこを……描いて欲しいってこと……ですよね?」

潤は腕を組み直してにやりと笑う。

「おう。……それくらい、俺は絵師に惚れてるってことだ。」










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