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Japonesque(5人)

Japonesque 一話

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満月が明るく夜道を照らす。

蕎麦屋の帰り、櫻井は袂に腕を入れ、川のほとりをほろ酔い気分で歩いて行く。

「今日は月が綺麗だねぇ。」

鼻歌混じりでよろよろしていると、急に吐き気が催してきた。

いかんな……飲みすぎたか?

すぐ傍の柳の木に手を付き、しゃがみ込む。

暫く、げぇげぇしてみるが、吐き気はすれども出てくる様子がない。

「お侍さん……どうしなすった?」

男の声に、振り返りながら答える。

「いや、大したことはない……少々気分が……。」

町人風の男が、心配そうに腰をかがめて櫻井を見ている。

少しくたびれた縞の小袖に、草履を素足で履き、陰のある横顔は、なかなかの男前だ。

女のように線の細い顔立ちに、下がった眉と形の良い唇。

その男は、崩れた髪が頬を撫でるのも気にせず、櫻井に手ぬぐいを差し出す。

櫻井はそれを手で制して断ると、立ち上がりかけてまたしゃがみ込む。

「だ、大丈夫かい?なんだったら、少し家で休んでいくかい?」

「いやいや、大丈夫。ちょっと酔っただけだから。」

こんなことで人様に迷惑など掛けられぬと、半ば強引に立ち上がり、よたよたと歩き始める。

「そうかい。なら……。」

男が帰りかけると、突然立ち上がったのがいけなかったのか、

櫻井が道端で大っぴらに吐き出した。

「ほらほら、だから言わんこっちゃない……。」

男はまた手ぬぐいを差し出し、櫻井の背中を撫でる。

今度は櫻井もその手ぬぐいを受け取り、口の周りを拭いていく。

「す、すまぬ……。これは必ず……。」

「返すなんて言わなでくれよ?」

櫻井は手ぬぐいを見て考える。

これは返していいものか……。

「そいつはあんたにやるから、思う存分吐き出して、すっきりしてけぇるんだな。」

男は幾分しゃっきりした櫻井の顔を見て、ふにゃりと笑う。

どきっ。

櫻井の心拍数が上がる。

さっきまでの男前とはだいぶ違うその顔は、元服前の子供のようだ。

男は、じゃ、と言って立ち上がる。

「あ、名前は……。」

「おいら?」

男はにっこり笑って腕を組む。

櫻井はゆっくりうなずく。

「智……。」

智はふにゃりと笑って聞き返す。

「あんたは?」

「私は櫻井……翔。」

「翔さんかい。いい名だね?」

智は一度、月を仰いで踵を返す。

背中を丸め、ひょこひょこと帰っていくその後ろ姿を、櫻井はぼんやりと見つめる。

時折、風が智の髪や着物を弄ぶ。

その後ろ姿に、行かないでと囁くように柳の枝がなびく。

「まるで画の中みたいだな……。」

櫻井は小さな声でつぶやく。

月と風と柳の枝と……智。



「あ~、和?」

薬問屋のれい子お嬢さんが、丁稚(でっち)の和に向かって、おいでおいでをする。

「へぇい、なんでしょう?」

和は腰を落としながら、お嬢さんについていく。

「お前、両国までお使いに出るんだって?」

「はい。大旦那様のお言いつけで……。」

「だったら、ちょいと十二間まで行って、暁の新作があるかどうか見てきておくれよ。」

「へぇい、かしこまりました……。

ですが、どうも私はあそこに寄るのが恥ずかしくって……。」

和は頭を掻いて、お嬢さんを見上げる。

「何が恥ずかしいんだい?」

「そりゃあ、恥ずかしいでしょ?私はこう見えて、まだまだ若造。」

「って、和。どう見ても、まだまだ若造だよ、あんたは。」

「はぁ。その若造が、春画……。」

お嬢さんが、慌てたように和の口を押える。

「しっ!声が大きい。」

「しかも、お嬢さんだって嫁入り前の小娘……。」

「小娘とはなんだい!いいからさっさと行っといで!

 巷じゃ、みんな暁の新作はまだかいって、首を長くして待ってるんだ。

 早くしないとなくなっちゃうかもしれないよ。」

「新作が出てるかどうかもわからないのに……。」

和がボソッとつぶやく。

それを聞き逃さないお嬢さんが、下目使いで和を見る。

「和?あんた、顔はいいけど、一言も二言も余計だね。」

「へぇい。顔だけじゃなく、頭も切れるって付け加えておくんなさい。」

「ほんとに口数の多い……。ほら、残りは駄賃にあげるから……。」

紙に包まれた小銭を渡すと、和の手にぎゅっと握りこませる。

「そんなに見たいですかねぇ?春画……。」

「だから、声が大きい!母様に聞かれたら、先に取られてしまうだろ?」

お嬢さんはこそこそと辺りを伺う。

「いいじゃないですか?先に見られたって減るもんじゃなし……。」

「ばかね。誰よりも先に見たいってのが人情じゃないか……。

 本当に、和は女心がわからない……。」

お嬢さんは残念そうに和を見つめる。

「へぇい、なんせ私、まだまだ若造ですから……。」

「減らず口、叩いてないで、さっさと行っといで。」

お嬢さんは指で玄関を指し示す。

「わかりましたぁ。」

和はいそいそと玄関に向かって駆けていく。

「あ、知ってると思うけど、『東雲(しののめ)』って看板出てるから、

間違えないでおくれよ。」

「へぇい。」

和の背中が見えなくなると、お嬢さんは大きな溜め息をつく。

「はぁ~~。暁の新作……そろそろきっと出てるはず……。」

頬をさっと赤らめて、少女の顔になって部屋へ戻っていく。

その後ろ姿を、女将さんが、ん?と首を傾げて見止めると、玄関先に目を向けた。










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