愛と勇気とチェリーパイ ＃7 中

あたしは窓際の席に座って、コーヒーを待つ。

今日はいつもよりお客さんが多い。

隣の席にも女子高生が４人、ショウ君達を隠し撮りしてる。

わかるよ、わかる！

あんなにカッコいいんだもんね。

写真だって欲しくなっちゃう。

でも、隠し撮りはよくないんじゃない？

言えばちゃんと撮らせてもらえるんだから。

「キャー！！今の見た？アイバちゃんのニノちゃんを見る目♪」

「キュンキュンしちゃう～！！」

「今のポーズ！超カッコいい！！」

「やばっ！ショウちゃんのマント、なびいてるよ、なびいてる！」

４人が店員４人を見て、こそこそ話してる。

あはっ。この子達！

わかるよ～。わかる！

しばらく3人にキャーキャー言っていた女子高生が、ちょっと落ち着いたのか、

ジュースを飲みながら話し始めた。

「なんかね、ウチのクラスの男子が言ってたのぉ。」

「何？」

「攻めの反対はぁ？」

「受け。」

「受け。」

「……守り？」

「うわぁ～！しぃちゃんだけ、まとも～！！」

「え？あれ？そう？」

しぃちゃんと呼ばれた子は周りをきょろきょろ見回し、ちょっと困った顔をする。

「そうだよぉ。ウチのクラス、ほぼ全員『受け』って答えたから。」

「ほぼ全員ってすごくない？」

「すごいでしょ？男子がクスクス笑ってんの。」

「『受け』って答えたってことは、ほぼ全員腐女子ってことでしょ？」

「うん。腐女子。」

女子高生は、顔を見合わせて笑い合う。

「だから、しぃちゃんだけ普通。」

「しぃちゃん、真面目だもんね。」

「はは。そっかな？」

しぃちゃんと呼ばれた子は恥ずかしそうにジュースを飲む。

……ふふん。

私は知ってる。

『しぃちゃん』、あなたとはあたし、お友達になれそうな気がする。

この４人の中で真の腐女子は『しぃちゃん』、あなただけよ。

『しぃちゃん』は腐女子の危なさもちゃんと知ってる。

だから、まともな答えも用意しておく。

……あたしの高校時代とおんなじ！

あたしがクスクス笑いながら手帳を開いていると、

アイバ君がコーヒーを持ってきてくれる。

「お待たせ。」

あたしの前にコーヒーを置くと、銀の瞳でニヤニヤ笑う。

「どうしたの？何か楽しいことあった？」

だから、その銀の目！

犯罪じゃない？

お巡りさ～ん！ここに、見つめただけで心臓止めちゃうイケメンがいますよ～！！

心の声はさておいて、あたしは内緒話するように、ちょっとアイバ君に顔を寄せる。

アイバ君もちょっと耳を近づけてくれる。

「ふふふ。隣の女子高生、可愛いなと思って。」

「今日はハロウィンだからかな？ＪＫ多いよね？」

「あ、アイバ君、ＪＫ好き？」

「んははは。ＪＫだけじゃなく、女の子はみんな好き♪」

なんでしょ？そのアイドルみたいな返答は。

「じゃ、男子は好きじゃないの？」

「男子も好きだよ～って、ちょっとこのコメント、変じゃない？」

アイバ君が笑いながらトレイを抱きかかえる。

いやん♪そんなイケメンな顔で可愛い仕草とか……ずるい！

ほら、隣のＪＫもアイバ君来たら黙っちゃってるよ？

「変じゃないよ。ニノちゃんも店長も大好きだもんね。」

「うん♪」

アイバ君はお日様の笑顔を残して帰っていく。

はぁ～、癒されるんだなぁ。その笑顔。

その笑顔を一番向けてるのは誰なの？

アイバ君が帰っていくと、隣からこそこそ話が聞こえる。

「……店長って誰？」

「ショウちゃん？」

「ＭＪじゃない？」

「どっちかって言ったらショウちゃんぽい？」

うふふ～♪この子達、店長知らないんだ。

あたしはちょっと優越感。

あんな可愛い店長知らないなんて！くふふふふ。

「でも、アイバちゃん～！最近のビジュ、やばくない？」

「やばいやばい！」

「あの顔で見つめられたら、落ちるよね？」

「落ちる落ちる！」

もう落ちちゃってるかもよ？

とは、口に出しては言わない。

あたしはアイバ君の淹れたてコーヒーを口へ運ぶ。

う～ん、いい香り。

「いいなぁ。思い切って告白してみようかな？」

「え？誰？」

「……アイバちゃん。」

「あたし、ニノちゃん。」

「何？あんた達、腐女子かと思ったら！」

「だって、カッコいいんだもん！」

「ニノちゃんもさ、あんな可愛いのに、すっげぇイケメンな顔したりするの～！」

そうそう、みんなそんな夢見るよね？

でも、アイバ君は……もう決まった人がいそうよ？

あたしが手帳を閉じて携帯を取り出すと、

ＭＪがケーキを持ってやってきた。

「お待たせ。今日はこれ。」

キャ～っ！

隣のＪＫの歓声！