「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the action (5人)
テ・アゲロ the action ⑥ -10-
2015.11.12 *Edit
「すみません。」
ドンドン。
ドアを叩く音に、隆子はビクッとする。
誰?
不安になりながら、恐る恐る玄関に行ってみる。
「すみません。磯貝さ~ん。」
ドアの覗き穴から見てみると、作業着を着た男が玄関を叩いている。
「すみません!火災報知器の定期点検です~。」
隆子はどうしようか迷った。
託也が入れば、任せるのに……。
「おかしいなぁ。電気は付いてるのに。」
男は玄関脇の電気メーターも確認している。
隆子はこのままやり過ごそうと思った。
すると、今までより一際大きくドアを叩く音がする。
ドンドンドンドン!
隆子はビクッとして、思わず声を上げる。
「きゃっ……。」
しまった……もう居留守も使えない……。
「……磯貝さん?」
仕方なく、隆子は鍵を開ける。
点検したらすぐに帰ってもらおう。
すぐに終わるはず……。
隆子がドアを開けると、人懐こそうな笑みを浮かべた男が、帽子に手を掛け挨拶する。
「こんにちは。火災報知器の定期点検です。」
「ど、どうぞ……。」
隆子が招き入れると、男は大きな長い器具を持ったまま靴を脱ぐ。
「すぐすみますので……。まずはキッチンから……。」
男は隆子を見て、にっこり笑う。
大丈夫そう?
隆子もその笑顔にホッとして、男をキッチンまで案内する。
キッチンまで来ると、猫背のその男は天井の火災報知器にゆっくり器具を合わせた。
「ただいま。」
託也の声に、ウトウトしていた隆子がビクッと起きる。
「あ……お帰りなさい……。」
目を擦りながら立ち上がると、託也が笑って手で制する。
「いいよ、寝てて。疲れちゃったんでしょ?」
託也は買い物袋をテーブルの上に置くと、隆子がうたた寝していたソファーにやってくる。
隆子の隣に座り、隆子の顔をじっと見る。
寝起きの顔を見られて恥ずかしくなった隆子は顔を背ける。
「会ってきた……。」
「そう。無事会えてよかった。」
隆子がはにかみながら笑う。
「何か変わったことあった?」
託也は、隆子の足元に落ちていたスケッチブックを拾い上げる。
「あ……大丈夫だと……。」
隆子は昼間のことを言いかけて、ハッとする。
託也の顔のスケッチ……。
隆子は託也から奪い取ると、胸元に抱え込む。
「俺?」
託也は意外だと言わんばかりに目をパチクリする。
「う、うん……真実さんに会いに行く時……とっても優しい顔だったから……。」
「ちゃんと見せてよ。」
「は、恥ずかしいから……。」
隆子が嫌がると、託也は無理強いすることなく、
クスッと笑ってソファーの背もたれに体を預ける。
「本当にシャイなんだね、隆子さん。」
託也の笑顔に、隆子はドキッとする。
これから数日、この笑顔と二人で過ごすのかと思うと、隆子の心拍数が上がる。
「ま、真実さん、元気だった?」
「……心配してた。」
託也は困ったように笑う。
「そうよね……。私が相手だったとしても心配になっちゃうよね……。」
「そんなことないよ。隆子さんは魅力的だよ。もっと自信持てばいいのに。」
「自信なんて……。」
隆子は父、龍之介を思い出す。
小さい頃からずっと、できないできないと言われ続けた。
自信なんて、持てるはずもない。
その父が、唯一褒めてくれたのが、小学校の時に描いた母の絵だった。
絵画コンクールで金賞を取り、学校に飾られた絵を見た龍之介は、
「俺には絵の良しあしはわからん。でも、このマリアは楽しそうだな。」
そう言って隆子の頭を撫でた。
その頃、元々体の弱かったマリアは、入退院を繰り返していた。
そんなマリアを元気付けたくて、元気だった頃の母を思い出しながら描いたのがその絵だ。
マリアもとても喜んで、一時ではあったものの、
隆子に元気だった頃の笑顔を見せてくれた。
それ以来、隆子にとって絵は、なくてはならない存在となった。
「どうしたの?黙り込んで。」
託也は隆子の手を握る。
「うん……母のことを思い出して……。」
隆子が見上げると、託也は優しく肩を抱いた。
「優しいお母さんだったんでしょ?」
「うん……。母が生きている頃は、父もここまで強引じゃなかった……。」
隆子は託也の肩に頭を乗せる。
その頭を託也はそっと撫でる。
「大丈夫。わかってくれるよ。」
託也の手が優しくて、隆子は目をつぶって考える。
この手は私のものじゃない……。
グッと堪えて、託也から頭を離す。
「……何か、父たちは言ってきた?」
「いやまだ……そろそろ党の方でも騒ぎになる頃なんだけど……。」
託也は時計を見つめる。
時刻は午後7時。
隆子も時計を見て立ち上がる。
「お夕飯、作らないと……。」
「俺も手伝うよ。」
「大丈夫。買い物してきてもらったんだもの。座ってて。」
「あ、俺の腕、信用してないんでしょ?」
託也がわざと大げさにふくれて見せる。
「そんなことないけど……。」
隆子もクスッと笑う。
二人は並んでキッチンに向かった。
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