「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

Deepな冒険 智ver. ⑦

 ←Deepな冒険 智ver. ⑥ →Deepな冒険 智ver. ⑧


ラーメンは見た目よりは美味しく、二人で満腹になると、2本目のビールを開けた。

「う~ん、美味しかった!」

智が両手でお腹をポンポン叩く。

「ほら、ちゃんと指冷やさないと……。」

俺は智の右手を取ると、保冷材を巻いたタオルで冷やす。

「大丈夫だよ~。おおげさだな。」

智がクスクス笑う。

「跡が残ったらどうするの。」

「平気だよ。女じゃないんだから。」

女よりも傷つけちゃいけない体でしょ?

あなた一人で、何万人もの人が動くんでしょ?

経済効果……いくらだかちゃんと自覚してる?

「翔君……。」

「ん?」

俺は智の指を、いろんな角度から確認しながら、また冷やす。

「この部屋……ホッとする……。」

智は俺に指を預けたまま、テーブルの上に顔を突っ伏す。

「そうか?……狭いから?」

俺は笑いながら、智の指と保冷材を両手で包む。

「狭くないよ~。一人なら十分。」

「すぐ物が溢れかえるけど?」

「それは……翔君が片付けないから~。」

智のクスクス笑い。

耳に心地いい声。

タオル越しに動く智の細い指。

…………。

部屋に……二人っきり。

そう考えたら、急に心拍数が上がってくる。

どうしていいかわかんなくて、テレビのリモコンを押す。

スーツを着た男性が画面に映る。

今日起こったニュースが、男性の横に文字で現れる。

「テレビ……消して。」

智が、ボーっと画面を見ながらつぶやく。

あ、そうか、自分が映ったら……まして、騒ぎになってたら……。

俺はすぐにテレビを消す。

沈黙が……居心地の悪い沈黙が俺らの間に流れる。

「いつ……気づいた?」

俺はびっくりして智の顔を見る。

智はさっきのまま、テーブルに頭を預けたまま、画面に視線を合わせてる。

「気づいたから……心配して家に連れて来てくれたんでしょ?」

俺は言葉が出ない。

「あ~、残念だったな……並んで…ラーメン食べたかった……。」

「ごめん……インスタントなんかで……。」

智の頭がムクリと起きる。

「違う、違うよ?……翔君のラーメンはめちゃくちゃ美味しかった!」

俺に気を使う智に申し訳なくて、俺は視線を逸らす。

「おいら……普通に並んで普通にラーメン食べたかったんだ。

 特別に用意してもらったラーメンじゃなく……。」

智はまたテーブルに顎を乗せる。

「智……。」

「今日は……たくさんいろんなことできた。

 のんびり釣りしたり……歩いて大きな橋渡ったり……カキフライ食べたり……

 地下鉄乗ったり……友達の家に遊びに来たり……ありがとう。翔君。」

智がにっこり笑う。

いいよ、そんなこと。そんなの、全然たいしたことじゃない。

でも、智にはそれが一番難しい……。

「俺も……楽しかったから……気にしな……え?」

にっこり笑いながら、智が目をつぶってた。

「智……?」

そっと顔を近づけてみる。

微かにスースー寝息が聞こえる。

「うそ……だろ?まだ5時!」

俺の言葉なんか、丸で聞こえないようで、智は僅かにも動かない。

「マジか……。」

俺は夢の中の智をじっと見つめ、吸い込まれそうになって、ブルッと体を震わす。

ダメだ。これ以上近づいたら、俺、何するかわかんない。

俺は立ち上がって、ベッドから毛布を引っ張り出す。

それを、智をくるむように掛けてあげる。

智の口がムニャムニャと動く。

「起きた?」

少し口を開けたまま、また智が動かなくなる。

……疲れてるんだな……。

俺は智を見ながら、ビールを飲む。

そうやって小一時間……。

智の寝顔を肴にビールを2本。

自分の気持ちを整理し、今後の対応を考えてみる。

俺の気持ちは……疑いようもない……。

そして、どうすることもできない……。

相手はスーパーアイドルで、しかも男で。

前途は……ない。

今、ここに一緒にいるのが奇跡みたいなもんなんだから。

智はすぐに戻っていく。

俺の気持ちにも気づかずに。

そうして、テレビの中で笑って手を振るんだ。

みんなに向かって。

みんなのこと、愛してるよ!とか、僕の可愛い子猫ちゃん♪とか言うんだ。

それがアイドルってもんだよね?

俺だけの物になんか決してならない……。

せめて俺が女だったら……。

智が女だったら……。

俺は深い溜め息をつく。

3本目の缶を取りに行こうかどうしようか迷っていると、智の体がビクッと動く。

「智、起きた?」

「……ん……ん~……。」

智は眉間に皺を寄せ、苦しそうに呻く。

「智?」

すぐに皺は取れ、呻き声は寝息に変わる。

このままじゃ、体、痛くなるよな……。

「智……布団行こ?」

顔を近づけ、耳の近くで言ってみる。

……全然反応はない。

しかたなく、毛布ごと智を持ち上げてみる。

普段、運動を全くしていない俺には、軽そうに見えた智もかなり重い。

いや、寝てると人間は重たくなるから……。

ヨロヨロしながら、なんとかベッドまで連れて行く。

しまった。

布団、巻くってから連れてくればよかった。

そう思っても、今、智を下ろしたら、もう一度持ち上げる自信がない。

仕方なく、そのまま智をベッドに下ろす。

ゆっくり下ろすことができなくて、ドシンと二人一緒にベッドに倒れこむ。

「うわっ。ごめん。」

思わず言ってみたけど、智は全く起きる素振りがない。

「なんだよ……一緒にいられる時間……少ないんだぞ。」

疲れてる智に、そんなことを言ったって無駄なことはわかってる。

起きてないし。

俺は智の下敷きになっている腕を抜き、智をくるんでる毛布を少し広げる。

これで、手足も伸ばせるはず。

子供みたいな智の寝顔……。

この顔に、何万人もの人が魅了される……。

俺はそっと智の隣に寄り添ってみる。

あったかさが全身に伝わる。

心地いいあったかさ。

すると、智の腕が動いて、俺の体を引き寄せた。

智の顔が近づいて、後5センチほどになる。

俺は思いっきり目をつぶる。

そのまま見てたら……何するかわからない!

そうして、気づいたら、俺も一緒に眠っていた。

テーブルの上に置きっぱなしの保冷材とタオルのことを、頭の片隅で思い出しながら。










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【Deepな冒険 智ver. ⑥】へ  【Deepな冒険 智ver. ⑧】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【Deepな冒険 智ver. ⑥】へ
  • 【Deepな冒険 智ver. ⑧】へ