「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

Deepな冒険 智ver. ④

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「王子様って……翔君……。」

智はクスクス笑う。

「何かしたくって……逃げてるんでしょ?」

俺と智は並んで歩く。

「…………。」

「いいよ。付き合うって決めたから。もう、会社もサボっちゃったし。」

そうだよ。こんなの初めてだよ。

俺が仮病使って会社休むなんて。

親が聞いたら、腰抜かすかも?

なんせ、真面目にコツコツが俺のウリだから。

川にかかる大きな橋に差しかかる。

橋の上に立つと、ビルの谷間から東京タワーが見える。

智は東京タワーを見つめながら、小さくつぶやく。

「おいら……ゆっくり釣りしたり……さっきみたいにご飯食べたり……

 普通のことがしたかっただけなんだ。」

普通のこと……やっぱり智は特別なんだ。

そんな特別な王子様は、いったい何がしたい?

「でも、もしいいなら……おいら、ラーメン食べたい。」

「ラーメン?」

「うん。行列のできるラーメン。」

智が俺の顔を下から見上げる。

俺よりちょっと低い智の背。

その高さから見上げられると……。

俺は生唾を飲み込んで、視線を逸らす。

「今、食べたばっかりなのに?」

「並んでたら、お腹も空くだろ?」

「並んでまで食べたいかね……。」

「並んで食べてみたいんだよ!」

智が子供のように口を尖らせる。

俺は電源を切った携帯を取り出す。

「で、なんてラーメン屋なの?」

智の顔が明るくなって、俺の携帯を覗き込む。

「なんだ、携帯も持ってないの?」

「持ってるけど……置いてきた。」

置いてきた?どこに?

「竿も置きっぱなしだったし……王子は忘れ物が多いね。」

俺は携帯の電源を入れ、智の行きたいラーメン屋を検索する。

「湯島か……ここからだと……。」

橋を、大きなトラックが渡ってガタガタ揺れる。

俺はびっくりして、智の腕にしがみつく。

「はは。びっくり~。」

笑いながら、そっと智から腕を離す。

智はてんで平気な様子で、ニコニコしてる。

「びっくり……するだろ?こんなに橋が揺れたら。」

大の大人がこんな揺れでビビルなんて……恥ずかしくて、言い訳がましくなる。

「橋なんて、普通、こんなに揺れないもんでしょ?

 この橋は……跳開橋……可動橋だから、大きなトラックが通ると繋ぎ目が

 揺れる、珍しい橋だから……。」

「え?この橋、開くの?」

「昔はね……今は古くなっちゃったから無理だけど……。」

智がじっと俺を見つめる。

「な、なんだよ。」

俺は恥ずかしくなって、頭を掻く。

「いや……翔君、物知りだなと思って。」

そう言って笑う智は確かに可愛い性分の人で……。

余計に俺の顔が赤くなる。



橋を渡り切ると、人通りが少し増える。

智は誰かとすれ違うたびに顔を隠すように、帽子に触れる。

俺はそっと、智を隠すように道の端に寄る。

それに気づいた智が顔を上げて笑う。

智の笑顔は……男の俺すら魅了する。

これが本当に王子だったら……世界中のセレブが求婚するよ。



俺らは地下鉄の駅に向かった。

地下鉄に乗って、上野で降りるだろ?

上野からは歩けば……。

そう考えて、智に切符を渡し、改札を通ろうとすると、智が躊躇する。

「あ……もしかして……通ったことない?」

「う、うん……。」

智は不安そうな顔で俺を見上げる。

「大丈夫。俺の真似して。」

俺は改札に切符を通して、通り過ぎる。

「わかった?」

改札の内側から振り向いて、智に笑いかける。

「うん。」

智はおずおずと改札に切符を入れる。

切符はスッと入って、出口で智を待つ。

智はそれを受け取って、俺の所に小走りでやってくる。

「っふふ。できた。」

楽しい乗り物にでも乗ったみたいに笑う智。

こんなことで楽しそうな智が、やっぱり可愛いく見えて……。

どうみても、34には見えず……。

本当に世間慣れしてない様子……。

本当の王子だったらどうしよう?

あり得ない想像を、頭を振って、払いのける。



地下鉄は案外空いていて、二人並んで椅子に座った。

電車の中は人が近い。

智は帽子をさらに深くし、俺の肩に寄りかかって寝たふりをする。

俺もそんな智の頭に寄りかかって、寝たふりを決め込む。

上野まで15分位……。

俺より少し温かい智の体温。

右側がじんわり温かくなる。

久しぶりに感じる人肌の温もり……。

前の彼女と別れてから、2年が過ぎようとしてる。

それ以来、そっちは若干ご無沙汰気味。

彼女がいなくても、なんとか処理はできるから。

でも……人の体温は、やっぱり気持ちいい……。



電車の揺れと智の体温が、あんまり気持ちよくて、本当に眠りに入った頃、

寄りかかってた智の頭が動く。

「翔君……着いたよ。」

智が小さな声で囁く。

「ん……。」

寝ぼけ眼で智を見ると、その近さにびっくりする。

まるでキスでもしそうな近さ……。

「あ……降りなくちゃ……。」

俺の気持ちを隠すように、急いで立ち上がる。

智も続いて立ち上がった。










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