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「Deepな冒険」
Deepな冒険(やま) 智Ver.

Deepな冒険 智ver. ③

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「あ、忘れてた!」

智は箸を置いて、おしぼりで手の平をごしごし擦る。

おしぼりを広げ、手を拭く智を見て、今度は俺がクスクス笑う。

「なんだよぉ。」

智がちょっと頬を膨らませる。

「いや……いくつなのかなと思って。」

俺も割り箸を割り、クスクス笑い続けながら、小皿に醤油を差す。

「なんだよ……34…だよ。」

俺は驚いて、味噌汁を掻き回す手がピタリと止まる。

そっぽを向きながら、おしぼりでゴシゴシやる智は、とても30過ぎてるようには見えない。

「うそだろ?俺より年上?」

「翔君、おいらより年下~?」

「うん……俺、33……。」

「1コしか違わないじゃん。」

1コどころか、10コ位年下かと思いましたよ。

それがまさかの上!

「なんか……ちょっとショック……。」

「なんでだよ。」

智がカキフライにタルタルソースをたっぷり乗せる。

大きな口を開けて、がぶりと噛み付く。

これが、俺より年上だって?

信じられるか!

口の周りにタルタルソースを付けて、それを舌でペロッと舐める。

こんな34歳、どこにいる!?

あ……てことは、智って呼んだらまずいよな?

智さん……さんって感じじゃない、絶対。

智殿……時代劇じゃないんだから。

智ちゃん……さらにお子様扱い?

智君……が無難?

それに、年下の可愛い後輩は×。

後輩じゃなかった。

年上の可愛い先輩?

これじゃ女の先輩みたいじゃね?

また智が、俺の顔を見て笑う。

「ほんと、翔君、見てて飽きないね。」

ご飯を口いっぱいに詰め込んで、モグモグと平らげていく。

仕方ない。

年上でも、可愛いと思っちゃったんだから。

人間には性分ってものがあって、可愛い性分の人だっているんだよ。

年上でも。

「智……君(くん)はさ、どんな仕事してるの?」

俺は刺身に醤油を付けながら聞いてみる。

仕事の話なら、年上って感じがするかも。

この辺にはいろんな会社があるから……IT系、法律系、不動産系……。

商売ってのもあるか。

「おいら?」

「うん。」

「………………なんにも。」

「……何も?」

「うん。何もしてない。」

「え……どうやって食べてるの?」

「どうやってって……買ってきたり、食べに行ったり……。」

「そうじゃなくて、お金。」

「え……。」

智が眉を寄せて、困った顔になる。

働かなくても食ってけるって?

「どこのお坊ちゃんだよ。」

俺は呆れたように、ご飯を口へ入れると、智をまじまじと見る。

服は……特に高そうには見えない。

貴金属類、時計も付けてない。

鞄……すら持ってない。

本当に金持ちなのか?

「親が全部出してくれる?それとも宝くじ?」

「違う……そうじゃない……けど……。」

智の顔が急に曇る。

何?聞かれたくないの?

やっぱりどこかの王子様?

どうみても日本人だけど……。

皇族に……こんな顔はいなかったよな……。

いたら大騒ぎだよ。

可愛い~って、女子が。

急に押し黙る智との居心地の悪さに、俺は食べることに集中する。

集中してるけど……チラッと智を見る。

箸に挟んだカキフライが、待ちきれなくて出る舌。

ドキッとする。

柔らかそうな舌が、プルプルの唇の上に乗って、カキフライを迎える。

気持ちよさそうな唇……。

美味しそうな舌……。

な、何を考えてるんだ、俺は。

俺はそれ以降、智を見ないようにして、食べ続けた。

大方たいらげ、最後に一服すると、智も満足そうにお腹を叩いた。

「お腹いっぱいになった?」

「うん。美味しかった。」

智がふにゃりと笑う。

……やっぱり可愛い。

そして、あの笑った顔、どこかで見たことがある……。

う~ん……。

いいや、わかんないものはわかんない。

俺は腕の時計で時刻を確認する。

「うわっ。もうこんな時間?俺、昼休み終わっちゃうから帰るわ。」

「じゃ、おいらも……。」

「もうちょっとゆっくりしてってもいいんだよ?」

「ううん。大丈夫。」

智が立ち上がる。

俺も一緒に階段を下りる。

レジで声を掛け、お会計を済ませようと、智を呼ぶ。

智はまた、帽子を目深に被っている。

「どうする?別々に会計する?」

「うん……。」

「じゃ、別々で……。」

「翔君……おいら、財布持ってない。」

俺と女の子は二人で目を見開き、智を見つめる。

「財布……持ってないの?」

俺が聞くと、智が申し訳なさそうにうなずいた。

「うん……いつも、持ち歩かないから……。」

俺と女の子が顔を見合わせる。

「ったく、どこの王子様だよ。」

俺は仕方なく、二人分の昼を払った。



店から出ると、じゃ、と手を上げて、智に背を向ける。

智はちょっと寂しそうに小さくうなずく。

俺は3歩歩いて立ち止まる。

お金も持たない、誰かに追われてるような男だ。

関わらない方がいい……。

俺は今から仕事だし……。

仕事は山と溜まってるし……。

俺は戸惑いながら振り返る。

智は俺の顔を見て、ホッとしたように笑う。

まるで、置き去りにされる子犬のようで……。

…………………。

…………ええい、ままよ。

俺は智に向かって歩きだし、携帯を取り出す。

「あ、もしもし。櫻井です。

 急に腹痛が……はい、今日は病院に行かせてもらいます。

 ……すみません……はい、ええ、小山に言えばわかります……。」

俺が電話を切ると、智が満面の笑みで笑った。

「お金……ないんでしょ。……何がしたいの?王子様は。」

俺は携帯の電源を切って、ポケットに押し込んだ。










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