イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Sleeping Beauty ~ ⑦

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もうすでに、カーテンの隙間から差し込む陽射しは明るい。

疲れて、スヤスヤと寝息を立てる智。

俺の腕の中で、俺にピッタリ寄り添って。



俺たちは飽きることなく、四重奏を堪能した。

若い智の体は、どこに触れてるも最上の音を奏でる。

その音を一つ一つ繋ぎ合わせて、俺は曲を作る。

智の為に。

智だけの曲を。



俺は眠り続ける智の唇に、そっと唇を重ねる。

俺の眠り姫は、いつになったら俺のキスで目覚めてくれるんだ?

クスッと笑って智を見ていると、智の瞼が動く。

「………何時……?」

空ろな目で俺を見る。

「ん……7時過ぎ……かな?」

俺は枕元の携帯を取り上げ、時間を見る。

「……もうそんな時間……ふあ~。」

智の大きなあくび。

それと同時に、俺に回された腕。

「体……大丈夫?……またする?」

智が俺を見上げてクスクス笑う。

「おっさんだと思って見くびってるな?智相手なら、いくらだって……。」

俺は智の上に覆いかぶさる。

「あはは。見くびってなんかないよ。

 本当にあんなの初めてだったから……ドライってすごいんだね。」

無邪気にそんなことを言って俺を見上げる智。

天然か小悪魔か……。

「今日もレッスンあるんだろ?できる?」

「ん~……今日は夜。……それまで寝る……。」

智が俺の腕を抜け出し、下へ下へと潜っていく。

「いつまででも寝れるんだな……。これじゃ本当に眠り姫だ。」

「おいらは青い鳥。Blue Bird。」

シーツの下から智の声。

ああ、そうだね。俺の青い鳥。

幸せは近くにないとね……。

「智……こっち来て。」

俺は智の腕を掴んで自分の胸に引き寄せる。

「寝るなら……ここで。」

智を体中で包み込む。

細く筋肉質な体が、俺の腕の中でしなる。

「……いいけど……したくなるじゃん?」

「誰が?」

「……おいらが。」

「っんはは。眠いんだろ?」

「眠いよ……眠いけど……したい…し……。」

そう言いながら、目が閉じていく。

「いいよ。レッスンから帰ってからしよう。レッスンまでは……ゆっくり眠って。」

俺は智の耳元で、俺の中に湧き上がるメロディーを口ずさむ。

智がゆっくり眠れるように。



この間の川沿いの遊歩道には、今日も人が少ない。

そこで、智はまた踊っている。

初めて見た時みたいな踊り。

川と空と川向こうのビル群……。

市場の朝。

この間の舞台、智は素晴らしかった。

体から溢れ出す喜びの表現と、跳んだ時の滞空時間。

本当に小さな鳥になって飛んでいってしまいそうなジャンプ。

智の周りだけ、重力が無くなったような軽やかさ。

俺の周りからも溜め息が聞こえ、拍手が沸き起こる。

舞台が終わって、何件かのオファーがあったらしいけど……。

智はどうする気だろう?

踊り終わった智がイヤホンを外す。

「いいね。これ。でも……なんかやらしい……。」

頬を上気させ、俺に向かって歩いてくる。

「いい?」

階段の一番下に座っていた俺は智に向かってタオルを差し出す。

「うん。」

陽に当たって、キラキラしている智の汗を拭いちゃうのは、もったいないけど、

風邪を引かせるわけにいかないから仕方ない。

智はタオルで顔を拭くと、首にタオルを巻く。

「でも、なんかエッチっぽいっていうか、エロい。」

智がクスクス笑いながら、俺の隣に座る。

「智のための楽曲だから……かな?」

俺も笑う。

「しかも、聞いたことあるような……。」

「そう?」

俺はわざと素っ気無く答える。

智との初めての夜にできた曲だなんて、言えないよ。

「……うん。決めた。おいら、これで次、踊るわ。」

「次?」

「うん。コンテンポラリーの人に誘われた。次の公演に出て欲しいって。」

「え……じゃ、クラシック辞めちゃうの?」

「ううん。古典は古典でやっていくけど……ソリストとして……。

 誘ってくれる人がいればね?

 昔から、コンテンポラリーも好きだったから……。ドンキのジプシーとかね?

 翔の音に合わせるんだったら、こっちのがいいし。」

「そっか……。ま、俺はその方が安心だけど。」

「安心?」

「この間も……リフトないって言ったくせに……。」

智が眉を上げて笑う。

「ああ、あれ?持ち上げたりはしてないよ?」

「そうだけど……腰を持ってクルクルしたりとか……。」

「それくらいはするよ。……何?ヤキモチ?」

智がニヤリと意地悪そうに笑う。

俺は顔を背けて小さくつぶやく。

「…………そうだよ。おっさんだってヤキモチくらい……。」

すると、顎を掴まれ、振り向かされる。

そのまま、智の唇が俺の唇を塞ぐ。

柔らかい智の感触に飲み込まれそうになって、ハッとする。

「ばっ、何すんだよ。ここ外!」

「おいらを躍らせることができるのは、翔だけ。

 チャイコフスキーも、ビゼーも、ドビュッシーもおいらを躍らせることはできない。

 翔だけが、おいらを羽ばたかせてくれる……。」

「智……。」

俺が智を見つめると、智がクスクス笑いだす。

「本当…なんだね……。」

「何が?」

「しつこくて、細かくて、独占欲が強い……。」

「そ、それは……。」

俺は前髪に指を入れて、頭を掻く。

「おいら、先が思いやられるな。」

「智~!」

「でも、そんな翔が好きなんだから、しょうがない。」

智がふにゃりと笑う。

「それに、夜は……しつこくて、細かいの……好きだし……。」

智の頬が少し染まる。

「智……。」

俺が智の顔を覗き込もうと顔を傾けると、智が首を振って立ち上がる。

「おっさんにはそれくらいしてもらわないと、おいら若いから、エンドレスだし!」

智は俺に向かってタオルを投げ、遊歩道の定位置まで歩いていく。

「もう一回踊る!」

初めてあった時のように、耳にイヤホンをし、ジーパンにTシャツで、

うずくまって曲が始まるのを待つ。

曲の始まりに合わせて、踊り出す智。

もちろん、イヤホンだから、俺にはわからない。

俺はまた、川を背景に踊る智を見つめる。

軽やかに跳び、しなやかに動く。

俺の音で目覚めた、俺の眠り姫。

……いや違う。

目覚めたのは俺の方だ。

智のおかげで目覚めたのは俺。

智に会う度に湧き上がる音の群れ。

智は俺の青い鳥。

そして俺は、王子のキスで目覚めた眠り姫。

チャイコフスキーには悪いけど、眠り姫は青い鳥と一緒に幸せに暮らすよ。

毎日セレナーデを口ずさみながらね。










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