イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Sleeping Beauty ~ ④

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腰の辺りの背骨を撫で、その背骨に唇を当てる。

唇から伝わる、しっとりとした素肌の感触。

恍惚感と欲情が、一気に俺を満たしていく。

智の肩甲骨が動く。

ハッと我に返り、唇を離す。

俺は今、何をしてるんだ?

この手はこの先、どうしたら……。

離しそびれた指先を、どうしていいか困っていると、智の声が響く。

「終わった?」

「あ、ああ。」

俺は慌てて智から手を離す。

振り返った智が、ニコッと笑って俺を見上げる。

「ありがと。」

俺は智を見ることができなくて、顔を背ける。

「なんで、おいらから目を逸らす?」

「べ、別に……。」

俺は前髪の間に左手を入れて、視線をごまかす。

「おいらを見ろよ。」

智が、俺の左腕を掴んで振り払う。

「見ろよ。」

俺は右手に持ったタオルを握り締める。

ゆっくり、智に視線を合わせていく。

智の頬を伝う汗が目に入る。

汗は輪郭を伝って雫となって落ちる。

思わずタオルを智のこめかみに押し付ける。

その手を智が両手で握る。

「智……。」

智に握られた手は、智の首筋を拭き、鎖骨を撫でる。

「あんた、あの時、なんでおいらを追っかけた?」

窪んだ右側の鎖骨。

「……智の踊りに感動して……。」

薄く盛り上がった胸。

「だから連絡先、聞いたの?」

その、胸の脇についた小さな蕾。

「そ、そうだよ。」

浮き出た腹筋。

「おいらに……気があったんじゃないの?」

円い臍の窪み。

「ち、違うよ。お、男同士で……ないない。」

臍の下に生えたわずかな道筋。

「ないんだ?」

「ないよ。」

「じゃ、俺が欲しがったら?」

「え?」

俺は視線を上げて智の顔を見る。

智はにっこり笑ったまま表情は変わらない。

「欲しいって……。」

「おいらさ……。」

智は俺をまっすぐ見て、その指が……俺の首筋を撫でる。

「……飛びたい。」

指は首筋を上って頬に辿り着く。

「翔の音で、飛ばせてよ。」

智の指がじゃまして、智の言葉が入ってこない。

「飛ばせるって……。」

智の指が止まる。

「あの時みたいに……気持ちのままに……。」

俺はプラットフォームを思い出す。

初めて見た時の感動。

あれ以来、ずっと智から目が離せないでいる俺は、いったい……。

「わかった。……曲、作るよ。」

「曲だけ?」

智の見上げる目が……俺を誘う。

「おいらの背中、舐めたくせに。」

「な、舐めてないよ。」

舐めてない……唇を当てただけ……。

智が一歩後ろに退く。

「イチオクノホシ……かけていい?」

「え……うん。」

智はツカツカと俺から離れていく。

智が離れた瞬間から訪れる、この言い知れない虚無感……。

満たされることのない…………欲求。

智がプレイヤーを弄ると、スタジオの中を俺の曲が満たしていく。

智はゆっくり歩いてくる。

歩くだけでも美しい智。

名誉も若さも美しさも持ち合わせた智。

そんな智に、俺が触れていいわけがない……。

「翔は……何を考えてる?」

「え……何も……。」

智のことしか考えてないよ。

「嘘つけ。おいらのことしか考えてないくせに。」

「…………。」

すぐにわかっちゃうくらい顔に出てるのか……。

俺は前髪の間に指を入れる。

「ははは。ダメだな……俺。」

「何が?」

「もう、それ以上からかうなよ。俺、帰るわ。」

俺がドアの方へ行こうとすると、俺を遮るように、智の足が壁に向かってまっすぐ上がる。

「あんたには、最後までおいらに付き合う義務がある。」

「どうして?」

「……おいらを追いかけて来たのはあんただ。」

「そうだけど……。大丈夫。曲ができたら誰かに届けさせるから。」

俺は智を避けて、ドアに向かう。

「おいらに火を付けたのもあんただ。」

「智……。」

「おいらを飛ばせてくれるのも……あんたなんだろ?」

足を壁から下ろすと、小さく息を吐く。

さっきまで自信満々に見えた智が、小さな子供のような顔でこっちを見てる。

「俺じゃ、智を飛ばせてあげられないよ。」

俺は智の頭を撫でる。

「もっと有名な……売れてる作曲家とか振付師とか……

その方が、智を飛ばせてあげられる。」

俺は無理やり笑顔を作って智に背を向ける。

「あんたじゃなきゃダメだって言ったら?」

「勘違いだよ。」

「こんな曲、作れるのに?」

俺の曲……数少ない、俺の楽曲。

「おいらのこと……好きなのに?」

なんでわかるんだよ。

なんでそんなこと言うんだよ。

俺は智をじっと見る。

「おいらも、翔が好きなのに?」

「智……?」

智は表情を変えずにそう言って、潤んだ瞳を俺に向ける。

俺はどうしていいかわからなくて、ただ、立ち尽くす。










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