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イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Sleeping Beauty ~ ②

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今日は珍しく、仕事で新宿に出てきた。

事務所が新宿にあるからなんだけど、本当に久しぶり。

今月は3回しか来てないかも……。

それでもなんとか食いつなげてるのは、週2回手伝ってるピアノ教室と

同じく週2回やってる塾講師のバイト。

これだけは一流大学出の肩書きが役に立った。

本職じゃ、全く役に立たないからね。

むしろ邪魔。

そんな売れない作曲家の仕事と言えば……携帯アプリの音作り。

アプリは次々作られるから、俺でも仕事を回してもらえる。

昔は学校の校歌なんてのも作ったことあったけど……。

子供が減ってるからね。

もうほとんどない。

今日の仕事も、どう見ても売れそうにないゲームの効果音。

ゲーム音楽もね、壮大なRPGとか、あの二宮カズナリの推理ゲームとかだったら……

いや、仕事があるだけありがたい。

事務所での打ち合わせが終わると、計ったようにメールが入る。

『今日はスタジオが借りられた!高田馬場。』

智からのメールはいつも簡潔。

俺はすぐにメールを打つ。

『30分くらいで行けるかな?高田馬場のどこ?スタジオの名前、わかる?

 終わったら飯、食おう。』

返信が早いのは友達にも褒められる。

俺はスタジオの名前で場所を特定すると、さっそく駅に向かった。



スタジオでのレッスンを見せてくれるのは初めてで、ワクワクする。

スタジオのドアを開けると、明るくリズミカルなクラリネットが耳に響く。

中を見渡すと、宙を舞い汗が飛び散る智が目に入る。

スタジオは片側一面がガラス張りの、ダンススタジオ。

ちゃんとバーもついてる。

俺はゆっくりドアを閉め、バーに背中と肘を付き、体重を預ける。

プラットフォームや川で踊る時とは違って、今日はレッスン着なのか、

グレーのスウェットに、上はいつもと同じ黒いTシャツ。

智が動く度にパンツの擦れる、シャカッという音が響く。

飛ぶ度に、キュッと床を踏みしめる音。

降り立った時のタンという軽やかな音。

これだけの音が流れているのに、俺の耳は智の音を漏らさない。

俺はきっと大野智のファンなんだ。

思わずキスしたくなっちゃうくらいの……。

俺はこの間のキスを思い出し、恥ずかしくなる。

男相手に、しかもまだ子供っぽさも残る智に……。

ふと、罪悪感が頭をよぎる。

ああ、そうだよ。

節度ある大人のすることじゃない。

俺は智の踊りが好きなんだから、そこを勘違いしちゃいけない。

俺はうなずきながら、智に目をやる。

でも……眠り姫は俺のキスでは目覚めてくれなかった……。



曲の終わりに合わせるように、智がトンとポーズを作って動きを止める。

鏡に映る俺に向かってニコッと笑う。

「早かったね。」

智が俺とは逆の、向こうに向かって歩きながら言う。

「ちょうど新宿にいたから。」

俺はそのまま智の後ろ姿を眺める。

歩く度にパンツを引っ張る尻の筋肉……。

ばか、俺、何見てんだよ。

これじゃただのエロ親父だ。

俺は智から視線を逸らし、床を見る。

「翔、いっつもタイミングいい。」

智はプレイヤーを弄って、また曲を流す。

「今度、舞台に立つよ。」

振り返った智が言う。

「舞台?」

「そう、客演。まだ、所属が決まってないから。」

「智ならどこでも引っ張りだこだろ?」

「そんなことないよ……。」

伏し目がちに言う智。

俺は明るく声をかける。

「何を踊るの?」

「ん?今の。」

「今の?」

「そ。青い鳥。」

智が最初のポーズを作る。

言われてみれば鳥のポーズ?

「それ、女の人持ち上げたりすんの?」

俺の知ってるバレエは、女の人がメインで、男はそれを支えるイメージ。

「まさか!今度のフロリナ姫はおいらより重い。」

智が明るく笑う。

「おいらが踊るのは青い鳥のV。ソロだよ。」

智は曲に合わせて踊り始める。

両手を羽のようにゆっくりと揺らし、小刻みなジャンプ。

まるで小鳥が地面近くで遊んでいるよう。

そうかと思うと、空に向かって大きなジャンプ。

どこまでも、飛んでいける軽やかな青い鳥。

「あ……、ダメだ。」

智が踊りを止め、同じ足の動きを何度も鏡で確認する。

俺には違いが全くわからない。

「いつなの。その舞台。」

「え?1週間後かな?」

「1週間後!?それでできるの?」

「うん。演る予定だった人が、膝痛めちゃったんだって。で急遽。」

智は動きを確認しながら答える。

「振りだって、覚えるの大変なのに……。」

俺はそんな智を見ながら唇を撫でる。

なんだか喉が渇く……。

「振りは……わかるから。クラシックは基本、振りは同じ。

 演出によって多少変わるけど。」

「みんな踊れるんだ?」

「うん。昔の人も同じの踊ってる。」

智がクスッと笑う。

「でも、楽譜みたいに残ってるわけじゃないんだろ?」

「楽譜はないけど……舞台観たり、教えてもらったり。」

智は納得できたのか、前後を続けて鏡に映す。

「すごいな……口頭継承で続いていくんだ……。」

「こうとうけいしょう?」

「ん?口伝えってこと。」

「あ、うん。そうだね。」

「今やってたのも?」

「うん。」

智が言いながら踊り始める。

「ジュッテ・アントルシャ・シャッセ、フェルメ……グランジュッテ!

 アッサンブレ、アッサンブレ、アッサンブレ、トゥール・アン・レール。」

俺は必死で智を見る。

動きを止めた智が、ニヤッと笑う。

「ア、アッサンブレしかわからなかった。」

俺の言葉に智が声を上げて笑った。










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