イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ

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めんどくさいな……。

電車の改札を抜けて、階段を下りながら思う。

今日の仕事はすぐに終わるはず……。

いや、終わらせる!

でなきゃ割りに合わないよ。

そんなことを思いながらプラットホームに下りると、

電車を待つ人達が、一つの方向を見ていることに気づく。

俺も釣られてそっちを見る。

びっくりした。

耳にイヤホンを付けて、シャツにジーパン、肩掛けのバッグ。

どこにでもいそうな若者が、羽が生えたみたいに踊ってる。

ジャンプしたと思ったら、すごいスピードで両足を交差させる。

何回だろう?

4回?5回?

バレエ?

俺、そういうのよくわかんないけど、この人がちょっと違うってことはわかる。

手の動き、指先、膝、足先。

全てが物語りを作り出してる。

この人の世界に引き込まれる。

見ている人、みんなが彼の世界に染まっていく。

まるで、このホームが一つの舞台だ。

みんな、電車を待っていたはずなのに、目的も忘れて立ち止まってる。

ただ彼を見るためだけに。

しかも……このリズム。

メロディ?

知ってる……。

絶対、俺、知ってる!

俺のよく知るリズム。

あのイヤホンから流れる音……知りたい。

若者は右足を前に伸ばし、天に向かって左手を伸ばして動きを止める。

しばらくして、パチパチと小さな拍手から、大きな拍手が沸き起こる。

もちろん、こんな時間だから、見ていた人はそう多くはない。

でも、みんなが一斉に手を叩く。

踊り終わった彼は、その拍手にびっくりしてイヤホンをはずす。

「ブラボー!」

誰かが叫んだ。

ああ、俺だって叫びたい!

それくらいの感動がそこにはあった。

恥ずかしそうに顔を隠す若者は、足早にホームを離れようとする。

「ま、待って!」

俺は、思わず彼の腕を掴んだ自分にびっくりする。

見ず知らずの赤の他人に突然腕を掴まれて、彼もびっくりしてる。

「ごめん……あ、でも、ちょっと聞きたいことがあって……。」

彼は困ったように眉を下げ、掴まれた腕を胸の上まであげる。

「あ、ごめん。」

俺はそっと腕を離す。

「何?聞きたいことって……。」

彼はぶっきらぼうにそう言うと、顔を背ける。

「いや……たいしたことじゃないんだけど……。それ、何聞いてんの?」

俺は顎で、イヤホンを指す。

「え……、これ?」

彼はポケットの中からプレイヤーを取り出し、見せてくれる。

画面には『イチオクノホシ』の文字。

「……やっぱり……。」

「なんで?わかったの?」

彼はびっくりしたように俺を見る。

「うん。だって……俺の作った曲だから。」

「え?あんたが作ったの?」

彼は俺を頭の先からつま先まで見つめて、顔で視線を止める。

「本当に?」

「そうだけど……イメージ、違いすぎる?」

俺は頭を掻いて彼を見る。

「そ、そんなことないけど……。」

彼はまた顔を背ける。

「俺の曲をあんな風に踊ってくれるなんて、嬉しいよ。」

俺は正直に、俺の気持ちを言ってみる。

「いや……なんか、聞いてたら踊りたくなって……気づいたら踊り終わってて……。」

感情の赴くままに体を動かしたのか……。

「さっき踊ってたの……バレエ?」

「あ……うん。」

「すごいね。どこかのバレエ団に所属してるの?」

「いや……今は……。」

彼は俯いて言葉を濁す。

今は……所属していない?前は所属してた?

「あんなに踊れるんだもん、どこでも入れるでしょ?」

「そんなことないよ。」

彼はそう言って、歩き出そうとする。

「あ、待って。」

「何?まだ何かある?」

明らかに不機嫌な顔。

「ごめん……。俺、、もう仕事で行かなきゃいけないんだ。

 でも、どうしてももう一度会いたい。連絡先、教えてくれないかな?」

彼は怪訝な顔をして、俺に背を向けて歩き出した。

「ね、君!」

俺の声を無視して歩き続ける彼を、俺はそのままにできなかった。

ここで彼を見失ったら、もう二度と会えない、そう思ったら、

俺は彼の後を追って走りだしていた。

人ごみの中を、少し離れて後を追った。

どこで声をかけよう?

声をかけたら、また逃げられるかな?

俺はそんなことを考えながら、彼を目で追う。

すると、視界から彼の姿が消える。

「え?……あれ?」

俺はキョロキョロと辺りを見回す。

「どこ見てんの?」

声のする方を振り返ると、彼が腕組みして俺を見てる。

「あ……。」

俺はバツが悪くて、下を向く。

いい歳して、後をつけるなんて……。

しかも、可愛い女の子ならまだしも、男……。

「仕方ねぇなぁ。ほれ。」

彼は俺に向かって小さな紙飛行機を飛ばす。

紙飛行機を開いてみると、アドレスと名前。

「……智……さとしでいいのかな?」

彼はにっこり笑ってうなずく。

「うん。……智。大野智。」

「あ、ごめん、俺、櫻井翔。」

俺は智に名詞を差し出す。

それを受け取ると、智はうへっと、口をへの字に曲げた。

「本当に作曲家なんだ。」

「ま、あんまり売れてないけど……。」

俺は頭を掻いて、ははと笑う。



これが、俺と智との、一億の星の中の出会い。

あの時、出会っていなければ、今の俺達はない。

「ね、それ、初めて会った時もやってたよね?なんて言うの?」

俺はスタジオでレッスンする智に声をかける。

「え?これ?」

智は飛び上がって足を交差させる。

「そう、それ。」

「アントルシャ・シス?」

「それ……羽が生えてるのかと思った。」

俺が笑うと、智も俺を見て笑う。

「まさか!生えてたら、もっと楽に踊れる!」

そのまま俺に向かって、足を広げた大きなジャンプをする。

ほら、羽が生えてるじゃん。

俺がそんな智に見蕩れていると、智が俺の隣にやってくる。

「もう踊らないの?」

「休憩。」

俺の脇の、バーにかけてあるタオルを取って、首筋を拭く。

「あの時、智が日本にいなかったら、出会うこともなかったのかな……。」

俺がポツリと言うと、智がニコッと笑う。

「出会ったじゃん。それが運命なんだよ。」

「じゃ、ケンカした振り付けの先生に感謝だな。

いくら俺でも、ロシアと日本で出会えるとは思えない。」

俺は智の額に俺の額を当てて、智の髪を撫でる。

「ふふふ。それでも出会ったかもしれない。」

智は俺の腰に両手を添え、俺を見上げる。

「智は意外とロマンチストだね。」

俺は智の眉間に唇を落とす。

ああ、そうだね。

たとえ生まれかわったとしても、きっとこの広い宇宙の中でだって、君を探すよ。

「イチオクノホシ……かけていい?」

智はスタジオの隅で、プレイヤーを弄る。

「今だから言うけどさ……俺、あんたのファンだったんだよ。」

智は俺に背中を向けながらそう言って、また踊り始めた。



君が君らしく輝けるなら、俺はずっとそばにいるよ。

それが、ロシアだろうと、未来だろうと。







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