ココロチラリ 田舎編 (20) - タイムカプセル side story -

次の日、おいら達は朝から忙しかった。

もちろん素麺の準備。

お昼にはショウ君の親戚が一同に集まる。

もちろん、ショウ君のお父さんとお母さん、妹夫婦、弟君も一緒。

ジュン君とマー君が朝早く、昨日知り合った農家の方にまた野菜をもらいにいった。

もちろん、今度はちゃんとお金を払って。

そしたらおまけに干ししいたけをもらってきた。

おいらはあんまり干ししいたけ使ったことないんだけど、マー君が、

「これで出汁とると、めっちゃ旨い！」

って、ニコニコしながら言うから、大量の干ししいたけを戻してみた。

「すっげぇ、しいたけだらけ！」

ジュン君が楽しそうにしいたけを弄る。

「これ、出汁とるだけじゃもったいないから、煮ちゃう？」

カズが鍋を取り出して言う。

「うん。煮ちゃおう！」

おいらが笑い返すと、カズはしいたけを細切りにし始めた。

包丁の音がリズミカル。

カズは何をやっても器用。

昨日、佳代子さんの手伝いをしたから、物のありかもだいたいわかってる。

昨日いなかったカズとジュン君にも教えてあげた。

もちろん、佳代子さんの話は、5人で聞いた。

夕飯の後で。

「ごめんね。なんだか二人のことを利用するみたいで。」

佳代子さんは申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「そんなことないです。きっとおじいさんもほっとできるはず……。」

おいらが言うと、みんな一斉にうなずいた。

「お袋も知ってるんだろ？」

ショウ君が佳代子さんに無愛想に聞く。

「……ショウちゃんの話を聞いて……話してるうちに……。」

「親父も知ってるんだ？」

「たぶん。」

佳代子さんが困ったように笑う。

「お父さんも？」

おいらが聞くと、ショウ君が、ふんと鼻を鳴らす。

「おかしいと思ったんだ。突然おじいさんとこ行けなんて。

　たしかに結婚する時は、報告に行くのが通例にはなってたけど、

　俺らは結婚するわけじゃないし。

　折を見てサトシを連れて来るでもよかったし。」

「さすが、ショウちゃんのおじさん！演技うまっ！」

マー君が歓声を上げる。

「ショウちゃんのお父さんですからね？

　サトシも浮気して騙されないように気をつけて？」

カズがおいらの肩を叩く。

「誰が浮気なんかするか！」

ショウ君が今にもカズに噛み付きそう。

「わかんないよ？酔っ払ってつい……とか、ほだされてつい……とか。」

ジュン君がおもしろそうに笑いながら言う。

「ありえない！」

ショウ君が大きな声で断言する。

「ショウちゃんが浮気したら、いつでも私のとこに来るんですよ？

　優しく慰めてあげるから。」

カズが、今度はおいらの腰に手を回して、耳元で囁く。

すかさず、ショウ君がおいらを引き寄せる。

「浮気なんかしないし、慰めてくれなくていいから！」

おいらを抱きしめながら、カズを睨むショウ君を見て、佳代子さんがクスクス笑う。

「本当にみんな仲がいいのね。それに、サトシ君、こんなにみんなに慕われて……。」

おいらはちょっと恥ずかしかったけど、大きくうなずく。

「みんなずっと一緒だったから……。」

「これからずっと一緒は俺だけだけどね。」

ショウ君がぎゅっとおいらを抱きしめる。

「ショ、ショウ君！」

「バカですね？この人は。」

カズが鼻を鳴らす。

「独り占めさせると思ってるの？」

ジュン君が口の端を上げて笑う。

「そうだよ！サトシはみんなのサトシ！」

マー君が大きな声で言う。

「ね？サトシ？」

カズが小首を傾げておいらを見る。

「うん。おいらみんな大好きだよ。」

おいらがにっこり笑うと、ショウ君がおいらを抱きしめてる腕にさらに力を込める。

「サトシ～！」

「でも……愛してるのは、ショウ君だけ。」

おいらがショウ君を見上げると、ショウ君の顔がパァーっと明るくなっていく。

ショウ君の潤んだ瞳においらが写ってる。

その大きな瞳が三日月みたいに細くなる。

「サトシ……もちろん俺も……。」

ショウ君の顔が近づいてくる。

もう少し……というところで、カズとジュン君の手がショウ君を引き離す。

「はいはい。そういうのは二人っきりの時にお願いしますよ。」

「そんなこと、俺らの前でさせると思ってるの？」

「ふっが……あぁ～！」

ショウ君が抑えられた二人の手から逃げると、佳代子さんが大きな声で笑った。

「ほんと、みんな仲がいいのね。」

釣られてみんなも笑う。もちろん、ショウ君以外。

「では明日のこと、もう少し話しときますか？」

カズがみんなを見回すと、小さくうなずく。

「……ありがとう。」

佳代子さんはそう言って、明日のことを詳しく教えてくれた。

そんなことを思い出しながら、素麺の準備が進んでいく。

みんな何でもできるから、5人でいればできないことなんかないんじゃないかと

錯覚してしまう。

野菜達も彩りよく皿に並べられている。

薬味もしっかり刻んだ。

しいたけの出汁でめんつゆも作った。

後は素麺をゆでるだけ。

全部で50人分。

寸胴に水をはり、沸騰するのを待つ。