「短編」
短編(いろいろ)

Dance in the dark ~ いちご ~

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繁華街の真ん中で、あんたを見つけた。

あんたはぼんやり月を見上げてる。

行きかう人々は、そんなあんたに目もくれない。

それくらい、あんたは周りに溶け込んで、その辺の石ころみたいに存在感がない。

そんなあんたに俺が目を惹かれたのは偶然?



店から漏れる音楽と、人々のざわめきと、まばゆいばかりのネオンサイン。

そんな中で、あんたはずっと月を見てる。

今夜は満月。

月にかかる雲が、細く広がってる。

通りすがりのサラリーマンが、あんたの肩にぶつかった。

あんたは気にする風もなく、空を見上げ続ける。



今日はあいつにしよう。

男だってかまうもんか。

俺が狙ってなびかないやつなんか、今まで一人もいやしない。



俺は、酔い覚ましに飲んでた缶コーヒーを、側の看板の上に置いて、

あんたに向かって歩き出す。

きれいだなとか、色気があるとか思ったわけじゃない。

ただ、何かが惹かれたんだ。

俺の中のずっと奥深くにある何か。



「何見てんの?」

俺が側に行って話しかけると、あんたは振り返りもせず答える。

「……空。」

「空?」

「うん……。」

「月?」

「うん……月。」

「今夜の月は……輝いてるね。」

「うん……。」

雑踏の中で、心地いい声が、言葉少なに返ってくる。

ネオンと月に照らされたその顔は、優しく穏やか。

こんな繁華街より、広い高原とかが似合いそう。

そう、ネオンと月より、澄んだ空気と太陽とか。

俺がいつも狙う女達より、ずっと健康的。

「月……好きなの?」

そう聞いたら、初めてあんたが顔をこっちに向けた。

「スキ、スキなの……?」

ふにゃりと笑って小首を傾げる。

「違う違う。Moon。月が好きなのかって聞いたの。」

話しながら歩いている男女が、あんたにぶつかりそうになる。

俺はあんたの腕を引いて、脇の小道に誘い出す。

あんたは俺に腕を捕まれても、嫌そうな顔もせずについてくる。

「月、好きなの?」

今度はあんたが俺に聞く。

その唇は柔らかく、月の光を浴びて……美味しそう。

「そりゃぁ……月の時間が俺の活動時間だから。」

「活動時間?」

「そうそう。夜行性なの。」

俺が笑うと、あんたも笑った。

俺の顔を見上げるあんた。

「ハーフ?」

「俺?」

「うん。」

「違うよ。でも、どこかで混じってるかもね。」

俺はハーフと言われた顔でクスッと笑う。

彫りの深い派手な顔立ちは、女達を誘うのにはとても役立つ。

「綺麗な顔。」

あんたが俺の頬に手を伸ばす。

その手は頬を撫で、鼻筋を確認し、眉毛と目の間で留まる。

「すっごい凹んでる。」

あんたが笑う。

「そういうあんたはどうなの?」

俺は悪戯っぽく笑って見せる。

「おいら?」

あんたは自分の顔をなぞっていく。

変なの。

自分の顔を知らないみたい。

「っふふ。おいらはそんなに凹んでない。」

楽しそうに笑うあんたの顔を、月の光が照らす。

ドキッとする。

さっきまであんなに健康的に見えたのに、その顔が逆に俺を誘ってる。

「俺も……確かめていい?」

俺はあんたの腰に手を回す。

女みたいに細い腰。

「いいよ。」

あんたは俺に向かって顔を向け、静かに目をつぶる。

長い睫が月の光で影を作る。

俺は、あんたの眉間に唇を落とす。

唇で鼻筋をなぞり、あんたの様子を伺う。

あんたは全く動かない。

あんたの唇に唇を重ねる。

あんたの体がピクリと跳ねる。

想像通り、柔らかい唇。

「びっくりした?」

俺が聞く。

「ちょっと……。」

「嫌がらないの?」

「どうして?……気持ちいいよ。」

あんたがふにゃりと笑う。

俺もちょっとびっくりする。

こんなこと、したことなさそうに見えるのに……俺のこと受け入れるんだ……。

俺はあんたの体を抱きしめて、耳たぶに唇を当てる。

これは結構期待できるかも……。

柔らかな耳たぶを唇で甘噛みする。

「今夜は……満月だ。」

あんたの声が少し変わる。

艶を含んで、俺の唇に反応してるみたいだ。

俺は確かめるように腰を押し付ける。

「ねぇ、名前……なんていうの?」

俺は耳の輪郭をなぞりながら聞く。

「……智。」

「智?」

「あんたは?」

「俺?俺は潤。」

「潤……。」

「そう。潤。……智……今晩、踊ってくれる?」

「踊る?」

「そうだよ。俺の上で踊ってくれる?」

「いいよ……。潤。」

俺はその声にゾクッとする。

まだ何もしてないのに、体が智を欲してる。

今すぐ欲しいと言ってる。

「ここでも……いい?」

「ここで、踊るの?」

智がクスッと笑う。

「踊れないか。」

俺も笑う。

急いては事を仕損じる。

ちゃんとホテル、行くか。

待てるかな。俺。

でも、ちょっと味見したい……。

俺は智の首筋に唇を当てる。

「おいら……ここがいい。潤?」

「いいの?」

「ん……月が見えるから。」

智の声がまた変わった。

次の瞬間。チクッと首筋に痛みが走る。

「月が……赤いね?潤。」

智のクスクス笑いが聞こえる。

快感が背中を突き抜ける。

「今夜は月の下で踊ろうよ。ね?潤。」

快感と反比例するように、意識がどんどん遠のいていく。

ああ、気持ちいい……。

体の力が抜けるような快感の中、智を見ると、智の目が赤く光った。

「さ…とし……?」

智はまだ笑ってる。

その唇が、一際赤いのは……。

「だから言ったじゃん。今夜は満月だって。」

智の笑い顔を見ながら、俺の意識はなくなった。



それ以来、俺は智と踊らずにはいられない。

もう、他の女はいらない。

智……。

あんただけ。

あんたと踊っていられれば。

そう、満月の夜に。










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