「ココロチラリ」
ココロチラリ(やま)【41~57】

ココロチラリ その後(50) - タイムカプセル side story -

 ←ココロチラリ その後(49) - タイムカプセル side story - →ココロチラリ その後(51) - タイムカプセル side story -


スタッフルームでは、田村さんが忙しそうにレセプションの準備を進めている。

そんな田村さんを捕まえて、父ちゃん達と一緒に回ってもいいか訊ねる。

「うん。もう閉めるから、ゆっくり水入らずで回っておいで。こっちは大丈夫。」

田村さん、きっと、レセプションの準備もまだあるのに……。

「後は業者さんに任せるから大丈夫だって。心配しないで行っておいで。」

おいらの顔を見て、田村さんは笑ってそう言う。

「うん。ごめんね。……ちょっと回ってくる。」

本当にごめん、田村さん。

でも、おいらにはとっても大事なことなんだ。

おいらは振り返ってスタッフルームを後にする。

「がんばっておいで。」

田村さんも、おいらを応援してくれる。

詳しく話したわけじゃないけど、なんとなく気づいてくれたみたい。

ありがとう。

おいらは早足で、お父さん達を追いかけた。



ショウ君は、取引先が近くにあるからと言って、ちょっと外してる。

レセプションまでには戻ると言っていた。

まさかレセプションで親子喧嘩始めることはないと思うけど……。

そんなことを考えて、一つ目のブースを抜けると、お父さん達の姿が見えた。

二つ目のブースは、この間のエレベーター、NYでのポスターが中心のブース。

お父さんと父ちゃんが、エレベーターを模した小さな部屋から出てきた。

二人とも、子供みたいな顔で、ちょっと頬が蒸気して見える。

「父ちゃん!」

おいらは声を掛けながら近づく。

「サトシ。」

父ちゃんが、楽しそうにエレベーターの中をもう一度覗く。

「これ、秘密基地みたいだな。」

「秘密基地?」

「子供の頃を思い出す。」

父ちゃんが、目尻を下げて懐かしそうに眺める。

「うふふ。そう?」

お父さんも小さくうなずき、その奥に展示されてるポスターに目を留める。

NYのポスターはデフォルメされた人物を描いたものが多い。

「これ……。」

お父さんが、目の大きな男の子の絵の前で立ち止る。

「ショウに似てる……。」

「どれどれ?」

父ちゃんもお父さんの隣に並んで、その絵を見る。

「……ちょっと怖いな……。」

父ちゃんが聞こえるか聞こえないかの、小さな声で言う。

NYにいた頃は、まだおいら達、気持ちを伝える前だから……。

鬱屈した気持ちが絵に出ちゃってるんだ。

そんな風に、三人で次々会場を進んでいった。

お父さんも父ちゃんも、ちょっと照れくさそうにしながら、言葉少なに進んでいく。

特に、挿絵のブースの少しエロい絵では……、

おいらも、どんな顔したらいいのかわからなくて……。

たぶん、お父さんも父ちゃんも恥ずかしかったんだと思う。

下を向いて、足早に通り過ぎる。

でもね、挿絵だから、小説に合わせてるんだよ!

おいらの……とかじゃないからね!

さ、参考にはしたけど……ショウ君の動き……。



その後もいくつかブースが続き、大学時代の作品の一番奥、

卒業制作で描いた自画像で、二人の足が止まる。

今見ると恥ずかしくて仕方ない。

技術も、経験もない絵は、今のおいらとはタッチも違う。

しかも、ショウ君を思って一番悶々としてた時期で……。

それが絵から滲み出てる。

絵はうそがつけないね。

黒い背景に黄色と赤の影なんて……。

油で描いたから余計かな?

表情も、笑ってるんだか泣いてるんだか……。

お父さんと父ちゃんが、真剣な表情で絵を見つめる。

おいらは恥ずかしくって顔を上げられない……。



最後のブースには、おいらが初めて賞を取った作品……「Sakura」が展示してある。

カズの写真と一緒に。

おいらが初めてショウ君への想いに気づいた高校時代。

その時の気持ちを描いた「Sakura」。

お父さんと父ちゃんは、黙ってじっと見ている。

ただ、じっと見て……。

おいらは先に出口の方へ向かった。



出口ではお母さんと母ちゃんが、ニコニコしながらお父さん達を待っている。

おいらに気づくと、母ちゃんが近づいて来て抱きしめてくれる。

一頻り、抱きしめておいらを離すと、おいらの顔を見つめて、またにっこり笑う。

「素敵だった。サトシの今までを遡ってるみたいだった。」

そう、今回の展示は、新しいものから古いものへ、

今のおいらから、描き始めた頃のおいらへ、並べてる。

描き始めた頃の気持ちを思い出すように、ショウ君への気持ちを確認するように。

「本当、素敵な作品ばっかりで、涙が出た……。」

お母さんは思い出したのか、目頭を押さえながらそう言う。

「ありがとうございます。」

おいらは二人に向かって頭を下げる。

褒められて嬉しいおいらと、ちょっとこそばゆいおいらが、照れた笑顔を作る。

「お父さん達は?」

母ちゃんが会場を覗き込むように首を伸ばす。

「もうすぐ来ると思うよ。今、最後のとこ。」

時計を見てみると、6時半を回っている。

「時間過ぎてるの、わかってるのかしら。」

お母さんが心配そうに奥を見守る。

「大丈夫。レセプションのお客さんは入り口辺りで待っててもらってるから。」

レセプションは会場の真ん中辺りのブースを二つ使って行われる。

おいら達が通り過ぎるのを見計らって、テーブルが幾つか運び込まれていた。

やっと、お父さんと父ちゃんが最後のブースから出てきた。

ゆっくり、おいら達に近づいてくる。

お父さんの顔は幾分、険しく見える。

どうしたんだろう?

おいら、何かやっちゃったのかな?

おいらは心配になって、お母さんの顔を見ると、お母さんは優しく笑って首を横に振った。

「サトシ君……。」

お父さんの声に振り返る。










関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png WONDER-LOVE
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png Believe
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
【ココロチラリ その後(49) - タイムカプセル side story -】へ  【ココロチラリ その後(51) - タイムカプセル side story -】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【ココロチラリ その後(49) - タイムカプセル side story -】へ
  • 【ココロチラリ その後(51) - タイムカプセル side story -】へ