「ココロチラリ」
ココロチラリ(やま)【41~57】

ココロチラリ その後(47) - タイムカプセル side story -

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次の日。

初日を控えた今日は、もう朝から晩までめまぐるしく過ぎていく。

パーテーションの区切りが、どうしても納得いかなくて、仕切り直しをしたこともあって、

ほぼずっと会場に缶詰になった。

その他にも、展示に当たるライト、流す音、空間を作るものを念入りにチェックしていく。

その場の思いつきで、壁に少し描いたりもした。

そんな中、雑誌の取材も数社入っていて、作業の合間に答える。

展示の前で写真を撮られたりもする。

これは本当に恥ずかしい。

おいら、そういうの、慣れてないから……。

運がよかったのは、レセプションが初日の夜だということ。

通常は前日にやるものらしいけど、わざわざ前日に集まってもらうのも恥ずかしくて……。

その方がゆっくり見てもらえるのかもしれないけど、

おいらの絵を見てくれる人は、みんな、おいらにとっては特別な人。

できるだけ、そこに差をつけたくなかったんだ。

でも、お世話になった関係各位の方々もいるから、やらないわけにもいかず……。

結局、準備が終わったのは、空が薄っすら明るくなり、鳥の鳴き声が響く頃だった。

ショウ君からも何度かメールがあったけど、最初のメールへの返信以外、

全然連絡もできなかった。



田村さんに送ってもらって、一度家に帰る。

寝室へ行くと、ショウ君はベッドを半分空けて眠っていた。

いつも、寝相はあんまりよくないんだけど、今日はおいらの場所を空けて眠ってる。

おいらの頬はどんどん緩んでいく。

個展の準備でちょっと興奮してるのか、おいらは全然眠たくなかった。

でも、鼾と歯軋りで忙しいショウ君が、空けておいてくれた傍らに寝そべってみる。

しばらくじっと顔を眺める。

通った鼻筋、閉じていてもわかる大きな瞼。

息をする度、微かに開く肉厚な唇。

寝そべったまま顔を近づけると、引力で引き付けられるみたいに、唇が唇にくっつく。

乾いた唇はサラッとしていて、いつものショウ君の唇とは違う。

おいらはショウ君の唇を、そっと舌でなぞって、水分を補ってあげる。

リップクリームを塗るように、ゆっくり、唇の端から端まで動かしていくと、

ショウ君の腕が大きく動いて、おいらの体を抱え込んだ。

ショウ君の唇に潤いが戻ると、おいらは唇を少し離して、目で確認する。

「……お帰り。」

ショウ君の掠れた声。

「ん……ただいま。」

「ずいぶんかかったね……。」

言葉の最後で、ショウ君の声が生気を持つ。

「……起こしちゃった?」

「……いや……サトシが帰ってきたら、起きるようにタイマーセットしたから……。」

まだ目をつぶったまま、頬と口で笑う。

「うふふ。ショウ君のうそつき……目が開いてないよ。」

おいらはショウ君の瞼を、指先で撫でる。

背中に回った腕にグッと力が入り、おいらの体とショウ君の体が密着する。

ショウ君は目を閉じたまま、おいらの鼻の脇に唇を這わせる。

「ショ……くすぐったい。」

おいらは背中を反らせて、ショウ君から離れる。

ショウ君の手は背中を辿って、腰の下をもぞもぞする。

「ダメ……今日は初日。」

「……うん……わかってる。」

それでもショウ君の手はもぞもぞし続ける。

「本当にわかってる?」

「わかってる……よ……少し……眠って。」

ショウ君が、おいらの頭を自分に押し付け、髪を撫でる。

ショウ君の匂いと、ショウ君の温もり、ショウ君の心臓の音。

おいらの瞼がだんだん重くなる。

ショウ君が、おいらの髪を梳く指の動きを感じながら、

おいらの意識は遠のいた。



初日。

会場へ着くと、田村さんがおいらを見つけて、手を振った。

「大丈夫?眠れた?」

爽やかな笑顔で、おいらの背中に手を添え、会場へ入っていく。

「うん。少し眠れたから、だいぶ楽。」



10時きっかりに扉が開いた。

お客さんが入ってくるのを、おいらと田村さんは会場の端っこで眺めた。

「す、すごいね……。」

大勢のお客さんを目の前にすることなんか、初めてで、

おいらは嬉しいというより、びっくり。

「そうだよ。大野サトシの絵が好き、世界が好きって人がこんなにいるんだ。」

なぜか得意げに田村さんが笑う。

大勢の人の中、見知った顔を見つけた。

ジュン君だ。

「ジュン君!」

おいらは大きく手を振ってアピールする。

あんまり大きな声はあげられないから。

ジュン君はすぐにおいらに気づいて、駆け寄ってくる。

「すごい人だね……。」

ジュン君は周りをキョロキョロしながら笑う。

「うん。おいらも驚いてる。」

おいらは田村さんにジュン君を紹介し、ジュン君をレセプションへ誘った。

「俺なんかが行っていいの?」

ジュン君はチラチラ田村さんを見ながら言う。

「もちろんだよ。ジュン君の写真だって飾られてるんだから。」

おいらが笑うと、田村さんもにっこり笑ってうなずいた。

「え?俺の写真?」

ジュン君がびっくりしていると、田村さんも笑いながら、

「カッコいいからスカウトが来ちゃうかもよ?」

「え?ええ~っ?」

ジュン君がびっくりした顔をしたから、カズの写真も展示されてることを教えてあげた。

「なんだ。いつの間にか、サトシに撮られたのかと思った。」

笑いながら、おいら達は会場に入っていく人々を眺めた。










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