「ココロチラリ」
ついておいで(やま)
ついておいで 下 - ココロチラリ side story -
2015.07.16 *Edit
「俺の大事な人を傷つけるようなこと、言わないでもらえるかな?」
その時の俺の顔は、一生サトシには見せられない。
女の子が怯えた顔をしたからよくわかる。
「俺は生まれてこのかた、サトシ以外を好きになったことなんか一度もない。
サトシが男だろうが、女だろうが、俺は生涯サトシだけしか好きにならない。
少なくとも、人を傷つけるようなことを平気で言うような、頭の悪い女は、
金輪際ごめんだね。」
女の子が泣きそうな顔になる。
「櫻井さん……。」
「櫻井、ほんと、昔から変わんないな。」
内山が溜め息をついて女の子の肩を叩く。
「君も、自分が嫌な女だなって思ってるだろ?」
「…………。」
女の子は俯いたまま黙っている。
「あいつさ、ずっと好きで、やっと実った初恋なんだよ。」
「ばっ!ばか、何言ってんだよ。知らないだろ?そんなこと!」
俺が内山の方へ行こうとするとヒューとみんなが囃し立てる。
「あはは。お前から直接聞いたことはないけど、
お前知ってて、気づかないやつがいたら見てみたいよ。
それくらい、昔っからだだ漏れ。」
またみんながヒューと囃し立てる。
「ば、ばか言うなよ。そんなはず……。」
俺がチームのみんなを見回すと、みんながニヤニヤしながら俺を見ている。
「ええ、ええ、もちろん知ってますよ。
ニヤニヤしたりヘラヘラしたり、完璧な櫻井さんが崩壊しますからね。」
岡林がニヤニヤを通り越して、声にだして笑う。
「相手は知らなかったけど、どんだけ好きかは……誰でもわかるよね?
どんなに綺麗な女性でも、さらっとかわす櫻井さんなのに!」
佐々木がチームのみんなに同意を求める。
みんなも大きくうなずいて、思い出しているのかクスクス笑う。
ああ、みんなちゃんと見てるんだね。そういうところは。
「なになに?櫻井の最愛の人が現れたんだって?」
そこへ、ニコニコしながら、田渕専務がやってきた。
「田渕さん!」
あ、ウチの会社は上司のことも名前で呼ぶ。
役職で呼ぶことはない。
ちなみに俺も役職で言ったら課長。
田渕さんはツカツカと俺たちのところまで歩いてくる。
「君が櫻井の最愛の人?」
田渕さんがサトシの前に立つと、内山が笑いながら説明する。
「そうなんですよ。櫻井の初恋!」
「ばか、言うなよ、そんなこと!」
俺が内山を二人から引き離す。
「絵を描く人なんだって?ごめんね。僕はそういうの疎くて、
君の絵をちゃんと見たことはないんだけど。」
田渕さんがサトシに笑いかける。
「超有名なんですよ!今度個展もやるんです!」
佐々木が自慢げに言う。
悪いがお前が自慢することじゃないから!
「そうなんだ。僕も行かせてもらおうかな。」
田渕さんは優しい顔でサトシを見つめる。
サトシも恥ずかしそうに笑う。
そんなサトシをじっと見た後、田渕さんが首を傾ける。
「本当に櫻井でいいの?こいつ、見た目はカッコいいし、できる男だけど、
ちょっと疲れない?一人で抱え込むし。目に見える優しさは持ち合わせてないし。」
田渕さんがクスッと笑う。
「田渕さん!止めてください!」
俺が割って入ると、田渕さんが俺をチラッと見て言う。
「なんなら、もっといい人、紹介するよ?」
そんなこと言わないでください!田渕さん!
田渕さんの知り合いなんて、みんなすごい人ばっかりなんだから!
「いえ……おいらはショウ君がいいんです。」
サトシがにっこり笑う。
「ショウ君じゃないとダメなんです。」
ヒューと歓声が上がる。
「そう。……世間にもだいぶ認知されるようになったけど、まだまだ大変だと思う。
がんばってね。」
田渕さんが手を差し出す。
サトシもおずおずと手を出すと、田渕さんがガシッと握る。
「櫻井をよろしくね。」
「はい。」
サトシと田渕さんが顔を見合わせて笑う。
フロア中から、祝福の歓声が上がる。
待て、祝福されてるの、俺じゃないの?
「櫻井!」
突然名前を呼ばれて、背筋が伸びる。
「はい。」
「ま、いろいろ頑張ることがあると思うけど……。」
田渕さんがニヤッと笑う。
「仕事も頑張って。」
「はい。」
田渕さんはニコニコしながら帰っていった。
「ほら、みんな仕事!」
内山が手を叩きながら、フロア中に響く声で言う。
みんながだらだらと席に戻っていくと、内山はずっと黙っていた女の子の背中を押して、
サトシの前に連れて行く。
「君も、言うことがあるでしょ?」
女の子はそろそろと顔を上げてサトシを見る。
また何か言ったら、ただじゃおかないからな!
「……ごめんなさい……。」
消え入りそうな声で女の子が言う。
サトシはそんな様子を見て、にっこり笑う。
「大丈夫。気にしてないよ。
ごめんね。ショウ君のこと、好きなんだよね?でも、ショウ君だけは譲れないんだ。」
サトシは鎖骨の辺りに手を当て、すまなそうに首を傾ける。
女の子はカァーッと頬を染めてサトシを見つめる。
「本当にごめんなさい。」
女の子は大きくお辞儀すると、内山に背中を叩かれ、一緒にフロアを出て行った。
内山が俺に向かってウィンクする。
俺、いい会社に入ったよな。
この自由な雰囲気が気に入って、ここに決めたけど、人がすごくいい。
人財。本当にそうだ。
俺はサトシの肩を両手で掴み、俺の前に立たせる。
「みんな、ありがとう。」
俺がそう言うとサトシが頭を下げた。
俺も頭を下げる。
「櫻井さんが頭を下げるなんて!」
佐々木がまた素っ頓狂な声を上げる。
チームのみんなが一斉に笑う。
「じゃ、俺、サトシを送ってくるから。」
「寄り道せずに帰ってきてくださいね。」
岡林がニヤニヤする。
できるもんなら寄り道したいよ。
「うるせぇ。」
そう言い捨てて、サトシの背中に腕を回し、一緒に出て行く。
エレベーターに乗ると、サトシが眉を八の字にして俺を見上げる。
「ごめんね。おいら、迷惑かけちゃったみたい……。」
「そんなことないよ。」
「でも……。」
サトシが口を尖らせて俯く。
「大丈夫。これでみんなにもサトシのこと紹介できたし。」
「大騒ぎになっちゃったし……えらい人まで来ちゃって……。」
「大丈夫。田渕さんはおもしろがって来ただけだから。
あ、前にちょっと話したカミングアウトしてる取締役、
あれ、田渕さんのことだから。」
「え?そうなの?」
「うん。今日はサトシがいたから、ちょっとそうでもなかったけど、
普段はもっとオネエっぽい。」
俺が笑うと、サトシもやっと笑ってくれる。
ほら、サトシはいつでも笑ってないと。
サトシが笑うと、エレベーターまで春の伊豆高原だ。
1階に着くと、サトシが入館証を受付に返しに行く。
「サトシ……。」
エントランスの真ん中で、サトシを呼んで片手を差し出す。
笑顔で駆け寄ってくるサトシ。
「どこまでも……ついてきてくれる?」
「うん。」
サトシが笑って俺の隣に並ぶ。
俺はサトシの手を握り、指を絡める。
エントランスの時計を見たサトシがハッとする。
「あ、早く行かないと、田村さんが待ってる!」
サトシは俺の手を離し、駆け出した。
「ショウ君、夜ね。」
振り返って笑うサトシ。
「うん。連絡する。」
俺も、どこまでもついていくよ。サトシ!
俺はサトシの後ろ姿を見送った。
そこへ内山と女の子がやってくる。
「これから、二人で飯行くから。」
内山がウィンクする。
「おう。」
悪いな、内山。
「櫻井さん……あの……私……。」
「いいよ、もう気にしなくて。」
「ち、違うんです。あの……大野さんに一目ぼれしちゃったみたいなんです!」
女の子が顔を赤らめて下を向く。
な、なんだと!
「だから……ごめんなさい!」
呆れたように笑う内山と一緒に、女の子は去って行った。
ほらね、みんなサトシの魅力には勝てないんだ……。
サトシ……どこまでもついていくからな!
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