ナイスな心意気(5人)

ナイスな心意気 ⑩-1

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そう、それは俺とサトシとマサキが散歩している時だった。

人間のサトシの家から帰ってきて、いつもの俺達の生活が始まって、

相変わらずっていうか、さらにパワーアップしたカズナリのおしゃべり。

さらに色気が漏れ出す(成長と共に変化する体の色だけではない)ジュン。

騒々しいほど、賑やかなマサキの家。

でも、人間のサトシの家から帰ってきてから、サトシは少し考え込むようになった。

あの夜みたいに、窓辺で月を見ることが多い。

その姿は美しくて、俺はとっても好きだけど、

サトシがどこかに行ってしまいそうな気がして怖くなる。

サトシはかぐや姫か?

俺、どんな宝物をサトシに差し出せばいい?

そんなことを思い出していた散歩中、またしても、あの、やばいやつに会った。

あの大きなトラ猫だ。

「よぉ。この間の集会には行ったのかい?」

またしても、塀の上からえらそうに声を掛ける。

「ふん。そんなの行かないよ。」

マサキの胸から、サトシが答える。

マサキも気づいて立ち止まる。

「あれ?サトシの友達?」

「違う違う。友達なんかじゃないから。」

俺の言葉は案の定、マサキに届かない。

マサキはそっとトラ猫に近づいて顎を撫でる。

「ノラ猫にしては懐いてるね。」

トラ猫はう~んと喉を伸ばして、マサキの手を受け入れる。

「人間てのはわかりやすい生き物だね。」

トラ猫がニヤリと笑う。

「甘い顔をすればすぐ近づいてくる。で、えさをあげようとする。」

マサキはにっこり笑ってサトシ用のおやつをトラ猫に差し出す。

「ほら、食べる?」

トラ猫はそれをパクリと咥え、塀の上で立ち上がる。

「猫も結構わかりやすいね。お前、行きたくてウズウズしてるだろ。」

トラ猫はサトシに向かって言う。

「そ、そんなことないよ。」

「行ってみればいい。きっとお前なら歓迎される。」

「お前ならって……あんたは歓迎されないのかよ。」

「ああ、俺は歓迎されないね。」

「なんで?」

「なんで?」

トラ猫が首を傾げる。

「知識がじゃまして……ってところかな?」

「行きたくないの?」

「俺には友達がいるからね。それに、生きていくのに困ってない。」

トラ猫はゆっくり歩き出す。

「お前も……まぁいい。余計なことは言いっこなしだ。」

トラ猫は俺を見て、ニヤッと笑った。

その顔が、何を言いたいのか、俺にはさっぱりわからない。

「行くなら、次の満月の晩、路地裏の小さな公園だ。わかるだろ?」

そう言って、塀の向こうへ消えて行った。

「え?もう行っちゃうの?俺、昼寝のじゃましちゃったかな?」

マサキが塀の上を名残惜しそうに眺める。

俺はサトシを見上げて心配になる。

サトシは塀の上からすぐに目を逸らし、マサキの胸で丸くなった。



それから数日、俺の中で悶々とした日々が続いた。

サトシが、いつかどこかに行っちゃうんじゃないか。

行ったら帰ってこないんじゃないか。

そんな気持ちがグルグルと渦を描く。

俺の気持ちなんか気づきもしないサトシは、いつものように、

高ぴしゃで、意地悪で、可愛く、俺の腕の中で眠る。

俺の取り越し苦労か?

いやいや、満月の夜にならないとわからない。

俺は前足に頭を乗せて眠るサトシを見ながら、はぁと溜め息をついた。

「ショウちゃん、何、溜め息なんてついてんの。」

カズナリが籠の中から俺を見下ろす。

「ん……別に。」

「サトシのことだろ?」

「ち、違うよ。」

「とうとう、プラトニックから先に進む決心をしたか?」

カズナリはケッケッケと笑う。

「バカ言うなよ。俺とサトシは犬と猫。そんなこと言うの、お前だけだよ。」

「それにしちゃぁ、溺愛じゃん。」

まぁ、そうなんだけど……。

いいんだ俺は。サトシの側にいられれば。

ずぅ~っと、一生、サトシの側に……。

もちろん、俺は血統書付。

お見合いの話もなくはない。

マサキがその気になったら、きっとすぐに結婚させられちゃう。

結婚て言わないか?

繁殖は俺の務めでもある。

意に副(そ)わぬ結婚。

でも、人間と違って一緒に暮らしたりはしない。

だから、サトシとずっと一緒にいられるなら、それも仕方ないと思ってる。

「ショウちゃんがそんな調子じゃ、ジュンにサトシ持ってかれちゃうよ。」

「……ジュンより強敵がいるんだよ。」

「強敵?」

カズナリは首を傾げて目をパチクリする。

「そう。でっかいトラ猫。」

「へぇ~。サトシってそういうのが好みなの。」

カズナリが首をクイックイッと縦に動かす。

いつ見ても、若干、気持ち悪い。

「ばか。そいつもオス。」

「……禁断の愛?」

カズナリがケラケラ笑いだす。

「禁断の愛!禁断の愛!」

羽をバタつかせて、籠の中を飛び回る。

いったい何がそんなに楽しいんだか。

「はぁ。」

俺はまた溜め息をつく。

明日は問題の満月だ。



次の日の夜。

サトシは暗いリビングの窓辺で、また月を見ていた。

黒い毛並みに月の光が反射して、サトシのシルエットを浮かびあがらせる。

長い尻尾は窓辺に垂れ、先だけチョロチョロ動く。

「サトシ。」

俺は思わず声を掛ける。

サトシの目は真っ直ぐ月を見上げ、月明かりがサトシをより美しく輝かせる。

本当に月に帰っていくかぐや姫みたいだ。

「ショウちゃん……。」

サトシはゆっくり振り返って俺を見る。

「おいら……行くね。」

「え?サトシ……行くってどこへ?」

サトシは優しく微笑んで、鍵のかかっていない窓を前足でこじ開ける。

何度か前足を引っ掛けると、窓が15センチほど開く。

「止めろよ。外は危ないよ。」

俺は窓辺に手を掛けてサトシを見上げる。

「うん。でも行ってみたいんだ。」

サトシの俺を見る目は、今まで見たことないくらいに澄んでいて、

俺はそれ以上、何も言えなかった。

「大丈夫。帰ってくるから。その為に行きたいんだ。」

サトシはそっと俺の鼻を舐めると、窓から外へ飛び出した。

「サトシ!」

俺は叫んだ。

マサキの家は4階だ。

いくらサトシでもここから飛び降りたら……。

俺はめいいっぱい背伸びして窓を開けると、そこから見える外の世界に目を馳せる。

下の道路を走っていく影が真っ直ぐに伸びていく。

サトシのしなやかな体はこの高さでも、サトシを守ってくれるらしい。

「サトシ……。」

俺は外に向かって吼えた。

「サトシ!」

サトシに聞こえるかどうかわからない。

俺の遠吠えのような声が、静かな夜に木霊した。










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