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「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the fake (5人)

テ・アゲロ  the fake ② -1-

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休日のホテルのレストラン。

すこぶる眺めのいい窓際の席に、その女は座っていた。

女は白いワンピース姿で、清楚な印象を与える。

女の両脇には親と思(おぼ)しき年配の男女。

年配の女性は着物姿だ。

向かいには彫りの深い顔立ちの青年と年配の男女。

甲斐甲斐しく青年の世話を焼いている年配の女性は、紺のワンピースで、

地味だが、品の良いその装いは、それなりの地位を感じさせる。

男達は全員スーツ姿で、青年のスーツもその年齢で着るのはどうかと思わせるほど

仕立てがいい。

お互いあまり知らない間柄のようで、なかなか話しも弾まない。

そう、これで仲人がいれば、お手本になりそうな『お見合い』である。

両家の父親同士は顔見知りらしく、気さくに談笑を繰り返す中、

若い二人に会話はない。

時折、相槌を打つ程度。

両家の母親達の高い笑い声が耳を突く。

女の母親が、青年に向かって声をかける。

「私達が一緒ではお話もしづらいかしら?うちのしおりは大人しくて……。」

女の母親は口元を手で隠しながら話す。

「可憐で素敵なお嬢さんですわ。ねぇ?翔さん。」

男の母親の言葉に、翔と呼ばれた青年はうなずき、爽やかな笑顔を女に向ける。

「もしよかったら、この後、二人でお話でも……ねぇ?しおりさん。」

女の母親が、有無を言わさぬ笑顔を女に向ける。

「え、ええ。お母様。」

女は無理に作った笑顔を浮かべ、青年の様子を伺う。

「さぁさ。」

女の母親が女を立たせようと背中に手を添えた時、

息せき切って走ってくる一人の男がその席の前で立ち止まった。

「しおり!」

男は迷わず、女に向かって手を差し伸べる。

「お前を他の男に渡すことなんかできない。行こう。」

女は男の顔を見ると、頬を染め、にっこり笑って男の手を取り立ち上がる。

男はチラッと青年を見、親達を見回して、すまなそうに頭を下げたが、

女の手をぎゅっと握ると、顔を見合わせる。

「しおりさん!」

女の母親が慌てふためいて声を掛ける。

「お母様、ごめんなさい。」

女は男と一緒に走り出す。

「しおりさん!」

母親の声に女は一度振り返ったが、ぎゅっと唇を噛み締める。

そして、隣にいる男の顔を見つめ、うなずくと、一緒に走り出した。

残された親と青年は呆然と、二人の後姿を目で追った。

女の両親は申し訳なさそうに頭を下げるしかなかった。



二人は手を繋いだまま、ホテルから出た。

ホテルの前の道路を走って、近くの公園まで行くと、手を離し、向かい合う。

運動不足のせいか、二人の息はなかなか治まらない。

「はぁ、はぁ、これでよかったの?」

大野は膝に手を着き、大きく息を吸う。

「はい。はぁ…はぁ……ありがとうございます。」

しおりは後ろに聳(そび)えるホテルを振り返り、目をつぶる。

意を決したように目を開け、大野を見ると、

「これ、お礼です。」

バッグから封筒を取り出し、大野に手渡す。

大野はすぐに中身を確認し、胸ポケットにしまう。

「確かに。……でも、これじゃ、一時しのぎにしかならないよ。」

「わかってます。……でも、他に思いつかなくて……。」

「親御さんにはちゃんと、本当の気持ちを話すんだよ?」

「はい……。少ししたら家に戻って話をするつもりです。」

「相手の方にも、ちゃんとね。」

「はい。」

大野は近くのベンチに腰掛ける。

「でも、とってもドキドキしました。」

しおりも大野の隣に腰掛ける。

「ドキドキ?」

大野はポケットに手を突っ込み、空を見上げる。

「はい。憧れのシチュエーションです。」

しおりはにっこり笑う。

「そ、そっかぁ?」

大野は照れたように笑う。

「はい。大野さん、とてもカッコよかったです。好きになっちゃいそうです。」

「そりゃ、どうも。」

しおりが大野の方を向くと、大野と目が合う。

思いの外、近い距離感にびっくりして、頬を染め下を向く。

「いやぁ、相手の男もなかなかの好青年だったのに。もったいない。」

「でも…あの方、お母様ととても仲が良くて……。

 しかも、女性とのうわさが結構ある方みたいで……。」

「いいとこのお坊ちゃんなんだろ?」

「はい。父の取引先の息子さんで……誰もが知ってる食品会社の……。」

大野は首を捻った。

最近、どこかで食品会社の息子の話をしなかったか?

「あ、相手の名前は?」

「名前?……櫻井さん。櫻井翔さんですけど……。」

櫻井翔……。

大野は立ち上がると、眉間に皺を寄せ、考え込んだ。

「何かありました?」

しおりも立ち上がり、大野の顔を覗き込む。

「いや、なんでもない。」

大野はしおりに向き直ると、右手を差し出す。

「あなたに幸せが訪れますように。」

大野は人懐こい笑顔を浮かべ、しおりの手を待つ。

しおりが大野の手を握ると、大野はぎゅっと一握りして、じゃ、と手を上げる。

「あの……。」

しおりの言葉を手で遮ると、大野はその場を後にした。

しおりは猫背の後ろ姿を、黙って見送るしかなかった。










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