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「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the client (5人)

テ・アゲロ  the client ① -5-

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「おはよ。」

大野は事務所のドアを開け、だるそうに挨拶した。

「どうしたんですか?」

二宮が、挨拶もせず、後ろを振り返る。

「うるせぇ。黙れ。」

大野はへっぴり腰にがに股で、二宮の前を通って自分のデスクへ向かうと、

ドカッと椅子に体を預けた。

「ぎっくり腰?」

二宮が斜(はす)向かいから大野の顔を覗き込む。

「……そんなようなもん。」

大野は腰をずらして座ると、背もたれに体重を掛け、机の上のメモ類に目を通す。

「一度やると癖になるから、気をつけてくださいよ。」

「わかってるって。心配すんな。」

大野が不機嫌極まりない声で答えた。

「本当にぎっくり腰ならね。」

二宮はニヤリと笑い、デスクの上に視線を戻す。

「うるせぇ。」

大野はメモをくしゃくしゃに丸め、二宮に向かって投げる。

二宮はデスクから視線を離さずそれを避けると、後ろにコロコロと転がっていく。

「ふん!」

大野は鼻息も荒く、デスクの上に足を乗せる。

すると、こんな時間には珍しく、玄関のチャイムが鳴った。

「こんな朝からお客さん?今日は幸先がいいですね。」

二宮は立ち上がると、出入り口に向かった。

一人になった大野は腰を摩る。

あいつ、手加減ってものを知らねぇから……。

昨日のバーの帰り、櫻井に連れて行かれたのは都心にあるホテルのスイートだった。

安ホテルに連れて行かれるものと思っていた大野は、驚いた。

「恋人同士なんだから、それなりのところじゃないとね?」

櫻井は当然という顔で部屋に入っていく。

ビビリながら後に続く大野を、櫻井は意外にも優しくエスコートする。

しかし、ことが始まれば、櫻井は豹変した。

何度ベッドを叩いても、ロープを掴んでも(ベッドにロープはないが)、

逃がしてはくれなかった。

おかげでこの有様だ。

大野は溜め息をついて、自分の膝を閉じてみる。

尻に異物が挟まったような感覚は、まだ無くならない。

おまけに大殿筋も筋肉痛で、真っ直ぐ座ることもできない。

今日一日は無理か……。

「痛て……。」

大野は腰の位置をずらして、椅子に当たる場所を変える。

「大野さん!」

二宮のけたたましい声が事務所中に響き渡る。

「朝っぱらから大声出すなよ。」

大野は腰を摩りながら立ち上がり、

朝、二宮が淹れてくれたコーヒーを、コーヒーメーカーから自分のマグカップへ注ぐ。

「これ、大野さんに。」

二宮は、大野の前に、真っ赤なバラの花束を差し出した。

「何、これ?」

「ほれ、ここ、メッセージ。」

二宮は大野に花束を手渡すと、肩を竦めて自分の席へ戻っていく。

大野は首を傾げながらメッセージを開いた。

『君の声も体もとても情熱的だったよ。my honey』

大野の顔がカァーッと赤くなっていく。

昨日の情事が鮮明に蘇ってくる。

櫻井の筋肉質な腕に抱かれ、何度もイカされる快感。

優しく抱くかと思えば、荒々しく突かれ、仰け反り、腰を振る自分の姿。

思い出しただけで下半身が疼く。

大野はハッとして我に返る。

「お前……見た?このメッセージ。」

大野は二宮に恐る恐る尋ねる。

「人の物、勝手に見たりしませんよ~。」

二宮は心外だなと言いたげに頬を膨らませた。

「そ、それならいいんだ。」

大野はそっとメッセージをポケットにしまう。

「ほんとに失礼な人だなぁ。マイハニーは。」

「見、見てんじゃん!」

大野が勢いよく立ち上がると、尻に激痛が走る。

すぐに腰を曲げ痛がる大野を見て、二宮は声をあげて笑った。

「あはははは。大野さん大丈夫ですか?」

「知るか!」

大野は腰を押さえて、ゆっくり椅子に座る。

「で、誰から何です?」

大野は顔を逸らしたまま口を尖らせた。

「知らん。」

「知らないの?」

「知らん!」

「へぇ~、じゃ、教えてあげよっか?差出人は……櫻井さん。」

大野はまた立ち上がる。

「なんで知って……痛ててて……。」

腰を押さえてそっと椅子に腰掛ける。

「え?ほら、伝票控えがあるから。」

二宮はクスクス笑いながら、控えを両手で持って大野に見せた。

「くっそ~。」

大野が、どこに向けたらいいのかわからない怒りを抑えていると、携帯が鳴る。

チラッと携帯を見るが出ようとしない。

「ほら、携帯、出ないと。」

二宮は顎で携帯を指し示す。

「いい。」

「何?櫻井さんの電話は出たくないの?なら私が……。」

二宮が、自分の席からぬっと手を伸ばして、大野の携帯を取ろうとする。

「やめれ!いいから!」

大野は仕方なく、携帯に出た。

「はい。」

「おはよう。爽やかな朝だね。My honey」

携帯の向こうから、数時間前まで一緒にいた櫻井の声が響いてくる。

「誰がハニーじゃ!」

「おっと、怖いな……my honeyはお好みじゃない?じゃ、my sweet honey。」

「一緒!」

携帯の向こうから、櫻井の大きな笑い声が聞こえてくる。

「なんでこんな花束なんか。女じゃあるまいし。」

「気にしないで。送りたくなったから送っただけだから。

 ほら、昔から、後朝(きぬぎぬ)の文って大事じゃない?」

「き、きぬぎぬ?」

「はは。ま、いいから。……じゃ、また連絡する。」

「もうすんな!」

「なんで?俺たち付き合ってるのに。」

櫻井の、笑い声混じりの言葉に、大野は苛立ちを隠せない。

「じゃ、今日も一日頑張って。ま、今日一日、ケツが痛くて仕事にならないと思うけど。」

「わかってるなら、ちょっとは考えろや!」

大野は大げさな態度で携帯を切る。

「大丈夫ですか?」

二宮がニヤニヤしながら大野を見る。

「ふん!」

大野はしげしげとバラを見つめる。

赤いバラが6本。それに合わせるようにかすみ草など、小さな花が添えられている。

「な?きぬぎぬのふみって何?」

「後朝?昔の貴族が、一夜を共にした相手に次の日の朝送る手紙のことですよ。」

「ふうん。」

大野は、誰もいない隣の席に、無造作に花束を投げる。

「花言葉……知ってます?」

二宮が、おもしろそうに笑う。

大野がムッとしているのがわかって、その口元を両手で隠す。

「なんだよ。」

「ぬはははは。……あなたを愛しています」

二宮は笑いを噛み殺しながら言う。

「ふざけんな!」

大野は言葉とは裏腹に、諦めたように天井を見上げる。

「前途多難……。」

小さくつぶやいて花束を見つめると、優しく笑う櫻井の顔が浮かんだ。

「いかん、いかん。」

大野は頭(かぶり)を振って否定する。

「あ、大野さん、仕事です。」

二宮はパソコンを見ながら、大野を呼んだ。

「おう!」

大野は腰を摩りながら立ち上がる。

「さて、今日の仕事は……。」

バラの花が、大野の後姿を見送っていた。










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