FC2ブログ

「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the client (5人)

テ・アゲロ  the client ① -3-

 ←テ・アゲロ  the client ① -2- →テ・アゲロ  the client ① -4-


男は、背中で押さえられていた腕に力を入れ、ターゲットの手かせを解く。

振り返り、ジーパンを引き上げると、すばやく身なりを整える。

ターゲットは困ったように眉根を寄せ、ジッパーを上げる。

「悪いね。これも仕事なんで。」

男はパンパンと膝頭を払うと、ジーパンのポケットに手を突っ込み、

通りに向かって歩き始めた。

「ああ、そうそう。」

2、3歩歩いて、男が振り返る。

「結構あんた、よかったよ。最後までできなかったのが残念。

 ま、もう会うこともないだろうけどね。」

男はニヤッと笑ってまた歩き出した。

ターゲットはその後ろ姿を見つめながら、一つだけ開いたシャツのボタンを留める。

上着の胸ポケットから煙草を取り出すと、1本、口に咥え、火を点けた。

ふぅーっと煙を吐き出す。

ククッと笑い、人差し指と中指で唇を撫でる。

燻る煙でぼやける男の後ろ姿を、見えなくなるまで見つめ続けた。



「お前、来んのがおせぇよ。」

大野は二宮のデスクをガツンと蹴る。

「しょうがないでしょ?決定的なとこ撮った方がいいんだから。」

「だからって、ヤラせる前で十分……。」

大野が二宮を睨み付けると、大野を遮るように大きな声を出す。

「いやぁ、よく撮れてますよ~。」

二宮は大きな茶封筒を引っくり返し、バラバラと写真をデスクの上に広げる。

「ほら、これなんか、大野さんの恍惚とした表情がまさに芸術的。」

一枚の写真を、電気にかざすように持ち上げる。

「やめれ!」

大野はすかさず写真を奪う。

「それにしても、ウチのキレイどこ、何人送り込んでも、全然相手しなかったのに……。

 あのターゲット、やっぱりゲイなのかな?」

二宮は他の写真を物色しながら言う。

「ゲイはないだろ?彼女がいんだから。」

「……まぁ、そうですよね……。」

二宮は使えそうな写真を数枚ピックアップし、大野の顔を塗りつぶしていく。

大野は手にした写真に目をやる。

ターゲットと大野が大きく映し出された写真。

夜、あんな路地で撮ったにしてはよく撮れている。

ターゲットの顔もしっかり写り、依頼者の希望はばっちり叶えられそうだとうなずく。

しかし、なんて情けない姿……。

大野は自身の乱れた下半身を見て嘆く。

「……依頼者、何時に来るって?」

大野は二宮のデスクの上に座り、他の写真もチェックしていく。

「もう間もなく……。」

二宮が時計を見ながら手帳を開く。

すると、玄関のチャイムが鳴る。

「おっ。来たね。」

大野はデスクから降りると、玄関のドアを開けた。



大野の事務所は所謂、便利屋だ。

頼まれればなんでもする。

猫の家出捜索から、夜逃げの手伝いまで、法に触れなければ受けない依頼はない。

謝礼は多少割高だが、必ず成功させる。

それがこの事務所の謳い文句だ。

そこへ今回の依頼主が現れた。

年のころは24、5。

一見清楚なOL風だが、専務の息子と縁談がまとまりそうで、今の彼と別れたいと言う。

でも、ただ別れたいと言っても納得してくれそうにない。

絶対に納得してくれるよう、確実に別れられるようにして欲しい、というものだった。

そこで、大野達は浮気現場を作り、それを押さえるよう段取りを組んだ。

ところがなかなか手を出してくれない。

モデル並みの女をタイプ別に3人送り込んだが、無駄だった。

そこで、実はゲイなんじゃないかと言う話になり、大野が行くことになったのだ。

もちろん、大野は通常は女を相手することが多い。

稀に男を相手にすることもあるが、相手が男であろうと女であろうと、

その成功率は100%。

この事務所のエースだ。



大野は封筒から数枚の写真を取り出し、依頼主の前に並べる。

「これで、問題なく別れられるはず。もしごちゃごちゃ言ったら

 この写真をばら撒くと言えばいい。必ず別れられるでしょう。」

大野は先ほどの写真を取り出し、ピンと人差し指で弾く。

「あ、ありがとうございます。でも、それではあなたに迷惑がかかるのでは……。」

「大丈夫。ご覧の通り、俺の顔は塗りつぶしてあるから。心配せずに使ってください。」

大野がにこやかに笑う。

その顔を見て、女は一瞬ポーっとするが、すぐに我に返る。

「ありがとうございます。……これはお約束の謝礼です。」

女はバッグから封筒を取り出し、大野に差し出す。

大野はすぐに封筒の中身を確認する。

「……はい。確かに。」

封筒を内ポケットにしまうと、テーブルの上の写真を一つにまとめていく。

ふと、一枚の写真に目が留まる。

「どうかしましたか?」

依頼主が怪訝そうな顔をする。

「あ、いえ、なんでもありません。」

大野はまとめた写真を依頼主に渡し、立ち上がる。

「あなたに幸せが訪れますように。」

大野は右手を差し出し握手を求める。

依頼主も立ち上がり、その手を強く握る。

応接室を出ると、出入り口まで送る。

笑顔で会釈し、帰っていく後姿を見送りながら、大野はさっきの写真のことを考えていた。

大野がドアを閉め、デスクに戻ると、、二宮が椅子をクルッと回転させる。

「お疲れ様~。どうでした?」

またクルッと回して元に戻り、デスクの上で書類の整理を続ける。

「ん……喜んでくれたんじゃないかな?」

大野は首を傾げながら、二宮の斜(はす)向かいの自分の席に座る。

「どうしたんですか?浮かない顔して。」

「ん……。ちょっと写真見せて。」

大野は二宮から写真を受け取ると、中から数枚取り出し、

一枚一枚チェックしていく。

その中の一枚の写真で手が止まる。

「俺、ちょっと行ってくるわ。」

大野は立ち上がると、携帯と写真をジャケットのポケットに突っ込んだ。










関連記事
スポンサーサイト






 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ 3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ 3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ 3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ 3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ 3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ 3kaku_s_L.png season
総もくじ 3kaku_s_L.png Sunshine(やま)
総もくじ 3kaku_s_L.png 五里霧中
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏の名前
総もくじ 3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ 3kaku_s_L.png Deepな冒険
総もくじ 3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ 3kaku_s_L.png 時計じかけのアンブレラ
総もくじ 3kaku_s_L.png 大人の童話
総もくじ 3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
総もくじ  3kaku_s_L.png a Day in Our Life
総もくじ  3kaku_s_L.png Kissからはじめよう
総もくじ  3kaku_s_L.png Step and Go
総もくじ  3kaku_s_L.png 果てない空
総もくじ  3kaku_s_L.png タイムカプセル
総もくじ  3kaku_s_L.png Hello Goodbye
総もくじ  3kaku_s_L.png season
総もくじ  3kaku_s_L.png Sunshine(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 五里霧中
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏の名前
もくじ  3kaku_s_L.png Troublemaker(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png Crazy Moon(5人)
総もくじ  3kaku_s_L.png Welcome to our party
総もくじ  3kaku_s_L.png Deepな冒険
もくじ  3kaku_s_L.png 花火(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png miyabi-night(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png ZERO-G
もくじ  3kaku_s_L.png 復活LOVE(やま)
総もくじ  3kaku_s_L.png 三日月
総もくじ  3kaku_s_L.png 時計じかけのアンブレラ
もくじ  3kaku_s_L.png つなぐ(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 白が舞う
総もくじ  3kaku_s_L.png 大人の童話
もくじ  3kaku_s_L.png Happiness(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png 智君BD
もくじ  3kaku_s_L.png ティータイム
もくじ  3kaku_s_L.png ブログ
総もくじ  3kaku_s_L.png みんなと作ったお話
もくじ  3kaku_s_L.png コスモス(5人)
もくじ  3kaku_s_L.png 夏疾風(やま)
もくじ  3kaku_s_L.png STORY
【テ・アゲロ  the client ① -2-】へ  【テ・アゲロ  the client ① -4-】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【テ・アゲロ  the client ① -2-】へ
  • 【テ・アゲロ  the client ① -4-】へ