「テ・アゲロ」
テ・アゲロ the client (5人)

テ・アゲロ  the client ① -1-

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その男は、じっと動かず出入り口を見つめている。

薄暗いバーのさらに薄暗いボックス席から、

グラスを片手に、カウンター席に座る男女の笑い声に耳を傾けている。

これはこの男の職業病らしい。

紺のシャツにジーパンという地味な服装は、逆にこの店では目立ちすぎる。

それを察し、暗闇に紛れようと猫背の背中を壁にもたれる姿は、

生きているのかと疑いたくなるほど気配がない。

それなのに、捲くった袖から見える腕は、思いの外筋肉質で、

細い体からは想像できないほど、生命力に満ち溢れている。

男はグラスを揺らし、バーボンを口へ運ぶ。



流行のバーは出入りが多い。

男の目は入ってくる客を、次々と見定めていく。

そろそろ来るはず……。

一人の男が入ってきた。

グレーのスーツにストライプのネクタイ。

サラリーマンか。

背格好は似ている……。

男は胸ポケットから写真を軽く持ち上げ、チラッと見る。

違う。あの男じゃない。

サラリーマン風の男は、カウンター席に座る女を見つけ、まっすぐに歩いていく。

男は携帯を取り出し時間を確認する。

もうすぐ12時になろうとしている。

今日は来ないのか……。

仕方なしにグラスを口へ運ぶ。

氷がカランと転がると、また別の男が入ってきた。

紺のストライプのスーツに、薄いブルーのネクタイ。

背格好は先ほどの男と変わらない。

男は、胸ポケットの写真でもう一度確認する。

間違いない。ターゲットだ。

ターゲットは迷うことなく、カウンターの一番端の席に腰掛ける。

胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えたまま、マスターに何か言う。

軽く手を上げ、手の平の中のライターを握りかえると、煙草に火を付け、煙を燻らす。

男は気づかれないよう、写真を尻ポケットに移動させ、立ち上がる。

グラスをテーブルに置いたまま、カウンターに座った男の近くまで行くと、

後ろから声をかけた。

「火を……貸してもらえませんか?」

男がにこやかに笑うと、ターゲットも笑顔を返す。

「ああ、火ね。どうぞ。」

ターゲットがライターを出そうとするのをさえぎって、

ターゲットの煙草の先に、咥えた煙草の先を近づける。

お互いの顔が近づく。

ターゲットのコロンの香りが鼻をくすぐる。

煙草の先が触れると、男は大きく息を吸い込んだ。

煙草の先が赤く光る。

男はふぅーと煙を吐き、またターゲットに笑顔を向ける。

「隣、いいですか?」

「……どうぞ。」

ターゲットはしげしげと男を見つめる。

男は、見られていることを意識しながら、椅子に腰掛ける。

「どこかで、お会いしましたか?」

「さあ?今日が初めてだと思うけど。」

ターゲットは一瞬、訝しそうに男を見たが、男の人懐っこそうな笑顔に

安心したのか、気さくに話し始めた。

「ここには結構来るんですか?」

「いや、今日が初めて。フラッとよっただけなんだけど、

意外ににぎやかでびっくりした。」

男はマスターにバーボンのロックを注文し、煙草を口に咥え、ターゲットを観察する。

遠目ではわからなかったが、スーツは上等、ネクタイもなかなか趣味がいい。

指の根元に挟んだ煙草を、口に運ぶ姿も様になっている。

「静かなバーがお好みなら、お教えしますよ。」

ターゲットは洗練された笑顔を浮かべ、マスターの差し出すグラスを手に取る。

「いや、それより……。」

ターゲットの視線にビクッとする。

視線の先は顔から首、胸へと、舐めるように移動していく。

観察していたはずが、観察されている……。

男は、好きなだけ観察すればいいと、ターゲットの方に体を向ける。

ターゲットの視線が腕で止まる。

腕?

不思議に思いながらも、会話を続ける。

「今日は待ち合わせでは……ないんですか?」

「どうして?」

「あなたみたいなイケメンが、一人というのも不思議な気がして。」

男は笑いながら、目の前に差し出されたグラスに手を添える。

「そうかな?結構一人で飲むの、好きなんだけどな。」

「お邪魔……でしたね。すみません。」

男が席を立とうとすると、ターゲットが腕を掴む。

「ああ、気にしないで。今日は誰かと飲みたい気分だから。」

ターゲットの人好きのする笑顔に、男はホッとして椅子に座り直す。

掴まれた腕がジンジンしている。

見た目通りの優男ではないらしい。



他愛もない会話を続け、男は強か飲んだ。

じゃ、と手を挙げた時には足が縺れるほどだった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫、大丈夫。」

ターゲットは男の腕を掴み、体を支える。

店を出て、大通りに出たが、男の様子は少しもよくならない。

「ちょっとその辺で休めばすぐよくなるから。」

男はそう言って、よろよろと路地の間に入っていく。

ターゲットはそのまま男の後に続いた。

男は縺れる足を起用に運んで、路地の中を進んでいく。

通りの明かりも届かず、微かに月明かりに照らされる程度の明るさの中、

男が缶を踏んでよろける。

「おっ。」

男の腰をターゲットが支える。

「ははぁ。ありがと。」

男は首を反り、空に向かって礼を言う。

ターゲットの手は、男の腰を壁に押し付け、その膝の間に足をねじ込む。

男の体を壁が支えると、男は空を仰いだまま目を閉じる。

ターゲットの目は、男の喉仏を見つめ、手は両脇をなぞっていく。

「いい体だ。」

ターゲットの目が鋭く光る。

「あんたもね。」

男の手がスーツの中に入っていく。










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