ナイスな心意気(5人)

ナイスな心意気 ⑨-9

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全員食事を終えると、ショウはソファーでくつろぎ始めた。

テレビを見ながら、紙の束に目を通し、左手でサトシを撫でる。

サトシも気持ちよさそうで、俺はちょっとおもしろくない。

俺の計画台無しにしたくせに、自分だけ気持ちよさそうなんて!

でも、計画を諦めたわけじゃない。

なんとか人間のサトシと二人の散歩は死守しないと!

今なら人間のサトシと二人で散歩に行けるんじゃないか?

他の犬とかち合う可能性は高いけど……。

そこは俺が強引に散歩を進めてしまえば……。

俺の考えてることがサトシにわかったのか、

キッチンで洗い物をしている人間のサトシをチラッと見て、立ち上がる。

ショウも紙の束からサトシに視線を移したが、すぐに紙の束に視線を戻す。

サトシはしなやかな動きでソファーから飛び降りると、玄関へ行く。

サトシ?

俺が首を傾げていると、しばらくして、自分のリードを口にくわえ、ショウの隣に戻る。

サトシはショウの手をカリカリし、リードを見せる。

「ん?お前も散歩に行きたいの?」

サトシは小さく鳴くと、どこかに消え、戻ってきた時には

口に小さな紙切れを数枚くわえていた。

ショウは首を捻りながら、その紙切れを受け取る。

しばらくそれに見入っていたショウが、するどい声で人間のサトシを呼んだ。

「サトシ!これは何?」

「え?」

人間のサトシはキッチンで手を拭きながら、ショウを見る。

「これ!」

ショウの声にびっくりして、急いでショウの隣にやってくる。

俺も人間のサトシの後ろからついていく。

見ると、アルファベットと数字の羅列。

自慢じゃないけど、俺は数字と平仮名ならわかる。

……いつでも……してね?……ひと…で……きになりました……?

やっぱり平仮名だけじゃわからないことが多い。

「ああ、今日散歩に行ったら、ショウ君のお友達にいっぱい会ってね。

 ドッグランに誘われて、そこでもらったんだ。

 マサキ君がいないのに大変でしょう、わからないことがあったら連絡してって。」

「へぇ~。わからないことがあったら?『ひと目で好きになりました』のどこが?」

「え?そんなこと書いてあった?よく見てないや。」

「『いつでも電話してね。』『明日もこの時間に会いましょう』」

ショウがイライラした口調で読み上げる。

人間のサトシの眉尻がどんどん上がっていく。

「サトシ、散歩は俺が行くから。」

ショウが立ち上がって玄関に向かう。

「翔君!待って!おいらが信用できないの?」

人間のサトシが腰に手を当て、ショウを睨む。

「そんなことないよ……。」

ショウが眉も目も八の字にして、困ったような顔をする。

「だったらおいらも散歩に行く。」

「それは……。」

「それは?」

ショウが困った顔のまま俺のリードを手に取った。

俺にはショウの気持ちがよくわかる。

人間のサトシはピュアすぎる。

世の中にはヨコシマな心を持つ者がたくさんいるということを教えてあげたい。

でも、いつまでもピュアな人間のサトシでいて欲しい……。

ジレンマだ。

サトシの爪の垢でも煎じて飲めば……。

俺がサトシを見ると、サトシがフフンと鼻を鳴らす。

もらったアドレスをショウに見せるなんて、お前は三毛猫ホームズか!

黒猫だけど。

結局、二人と二匹で散歩に行くことになった。



外に出ると、暑くもなく、寒くもない過ごしやすい気候に、

みんな空を見上げる。

空にはまん丸お月様が、優しい光を放っている。

「まだ、怒ってる?」

「怒ってない。」

ショウと人間のサトシはさっきから同じ会話を繰り返す。

ショウの胸で、サトシがおもしろそうに二人を見て、小さく鳴いた。

「楽しいね~♪」

ショウは人間のサトシにぴったりくっついて、俺を間に入れてくれない。

俺は人間のサトシの隣に寄り添う。

リードがショウの手から、グルッと人間のサトシの背中を回る。

この時間なら、他の犬の散歩は少ないはず。

二人と二匹はのんびり歩く。

いや、サトシは歩かず、ショウの胸にくついてるけど。

少し歩くと、ブロック塀の上が光ってびっくりする。

俺としたことが、キャンっと小さく鳴いて、人間のサトシもびっくりする。

「どうしたの?」

俺の視線を辿って、人間のサトシも塀の上に気づく。

チェシャ猫のように笑う光。

「見かけねぇ顔だな。」

光の主はそう言ってさらに笑う。

大きなトラ猫で、その体の半分は塀から落ちている。

この辺はいつもの散歩コースには入っていない。

だから、俺が会うのも初めて。

でも、トラ猫が声を掛けたのはサトシにだった。

「そういうお前だって、見たことないよ。」

サトシが強気で答える。

「ふうん。ずいぶんな跳ねっ返りだねぇ。お前、なんて言うんだ?」

「人に名前を聞く時は自分から名乗るもんだろ。」

サトシはショウの胸から睨みつける。

サトシ、大丈夫なのか?

猫の社会については詳しくないけど、縄張りとか、あるんじゃないの?

「ははは。そりゃそうだ。だが、俺の名前はいっぱいあってな……。」

「イッパイアッテナ?」

違うだろ、サトシ!

それは名前じゃない!

サトシはショウの胸から飛び降りると、トラ猫を見上げ、尻尾をピンと立てる。

「おいらはサトシ。」

「ふうん。サトシか、いい名だな。」

トラ猫は意外にも優しく笑う。

「今日は、猫の集会があるらしい。暇だったらお前も行ってみればいい。

 ま、俺はめったに行かないけど。」

トラ猫は塀の上にムクっと立ち上がると、スタスタと軽やかに歩いて行ってしまった。

黙ってみていたショウと人間のサトシも、トラ猫の後ろ姿を見送る。

「何話してたんだ?」

ショウがサトシに話しかける。

「猫の集会……。」

サトシはトラ猫の後ろ姿を見つめながらつぶやく。

「サトシ、行きたいの?」

俺はサトシの頭を鼻で擦る。

「ん?別に……。」

サトシは俺の鼻を頭で払うと、俺の背中を踏み台にして、ショウの胸に戻っていった。










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