「短編」
忘れられない(やま)

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翔君に酔っ払ってキスされた日から、翔君はまたおいらを「智君」と呼ぶようになった。

「智君、次、俺と一緒だから。」

「うん。」

翔君はあのキスを忘れたみたいに、親しげに肩に腕を回す。

触れられて、顔が近くて、おいらはドキドキして仕方ない。

翔君は全然気にならないのか?

それとも本当に忘れちゃった?

おいらには忘れられないキスなのに。

でも、心なしかあれ以来、翔君のおいらを見る目が違うような……。

ダメダメ。そうやって自分に都合よく考えると、後でろくなことがない。

「智君さぁ、この後って用事ある?」

翔君が肩に腕を回したまま、耳元でささやく。

そういうの、止めてよ。

翔君の声、響くんだから。

それにその目、いたずらっ子みたいにおいらを見るの。

こんなに近いんだよ?心臓の音が聞こえちゃうよ。

「ない……けど?」

おいらは下を向いて、唇を尖らせる。

「じゃぁさ、飲みに行かない?この間のお礼もしたいし。」

翔君と二人で……。

ダメだ。今まで何度も期待して、何度もがっかりして……。

おいらはあれで十分。

あのキスで……。

期待しちゃダメなんだ!

「う~ん、なんか、今日はそんな気分じゃないから……。」

おいらは下を向いたまま答える。

「え……そうなの?」

翔君をチラッと見上げると、残念そうに眉を下げ、口をへの字に結んでる。

「うん……ごめん。今度、また誘って。」

おいらは笑顔を作って翔君を見る。

「うん……じゃ、また今度。」

翔君はそう言いながら、おいらの肩から腕を外した。

外された肩が寒くって、でも、気づかない振りして、翔君と一緒に楽屋を出た。



おいらは家に帰っても、やっぱり悶々としてた。

せっかく誘ってくれたのに……。

断らなければよかった?

でも、二人で会ったら期待しちゃう。

またあのキスが欲しくなる。

うん。やっぱり断ってよかったんだ。

おいらは自分に言い聞かせるようにうなずく。

変なこと考えないように、一杯飲んで寝ちゃおう。

おいらは冷蔵庫からビールを取り出す。

プシュッと開けて一口飲むと、珍しくインターフォンが鳴る。

「こんな時間に?」

友達も、マネージャーも来る時には必ずメールをくれる。

おいらは携帯のメールをチェックする。

新しいメールはない。

誰だろ?

インターフォンを覗くと、一番会いたい、一番会いたくない、

翔君がそこに映ってた。

え?なんで?

おいらん家、知らないはずなのに……。

「あ………翔……君?」

「ごめん、どうしても会って話したいことがあって……。」

画面の中の翔君は、頭を掻きながらおいらを見てる。

「どんな話?」

「え……あの……ここじゃちょっと……。

 この間の俺と智君が撮られたらしくって……そのことで……。」

この間って、翔君が酔っ払った時の?

撮られても困るようなことはなかったと思うけど……。

「撮られた角度が悪くって、俺と智君がキスしてるみたいに写ってるんだって。

 それで、その、先に話をしておきたくて……。」

おいらは考える。

外で……ってわけにはいかない内容だよな。

翔君、ここまで来てくれてるし……。

おいらがちゃんと自分を抑えられれば大丈夫。

でも、それ、おいらにできる?

「ごめん……。こんな時間だもんね……帰るよ。」

あ、翔君が帰っちゃう。

「待って。」

おいらは思わず叫んでた。

自分の気持ちに蓋をして、翔君と仕事の話をすればいい。

そうだよ。どんなになったって、おいらと翔君はメンバーなんだから。

「開けるから……。」

おいらは解錠ボタンを押した。



少しして、翔君がウチにやってきた。

玄関を開けると、申し訳なさそうに俯く翔君が、いつもと違ってちょっと可愛い。

おいらは笑って招き入れる。

「どうぞ。」

翔君をリビングへ案内して、コーヒーを淹れる。

おいらん家にはコーヒーメーカーとかないから、インスタント。

「ごめん……。こんな時間に……。」

「いいよ。……ウチ、知ってた?」

「いや……マネージャーに聞いた。急いで話したいことあるからって。」

翔君が所在無げに辺りを見回す。

「あ、ソファーに座ってて。」

「う、うん。」

翔君はうなずいたものの、ソファーには座らず、おいらの竿だとか、

フィギュアだとかを物珍しげに見てる。

「これ、FREESTYLEの?」

フィギュアを一つ摘んで、持ち上げる。

「そう。気に入ったのだけ並べてんだ。」

おいらはマグカップを二つ持って、翔君の隣に行く。

「ふぅん、気に入ったの……。」

「全部は並べられないから。」

おいらはにっこり笑って、顎でソファーへ促す。

翔君も手にしていたフィギュアを元に戻すと、おいらと一緒にソファーに座る。

マグカップを一つ翔君に手渡し、翔君が飲んだのを確かめて話を切り出す。

「で、写真の話だけど……。」

おいらがそう言うと、翔君は間髪いれずに、苦っ、と顔をしかめた。

「え?嘘?苦かった?」

おいらは自分のマグを口に運ぶ。

いつもと変わらない、インスタントの味。

「苦くないじゃん!」

おいらが翔君を見ると、翔君はクスクス笑って、またコーヒーを口に運ぶ。

「翔君!」

翔君はクスクス笑い続け、おかしそうに、額に手を当てる。

「ごめん、ごめん。うん。……ふふ、苦くないよ。」

笑いながらそう言って、おいらを見つめる。

おいらはドキッとして、翔君から視線を逸らしてコーヒーを飲んだ。










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