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「短編」
Sakura(やま)

Sakura Ⅰ

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桜の樹の下に君は立っていた。

いつもの、ふにゃりと笑う顔は、君にしか見えない。

「翔君……。」

君の透き通った声も、僕の知っている君のまま。

「違う……智君であるはずがない……。」

「翔君、おいらだよ。忘れちゃった?」

君は僕に向かってその手を伸ばした。

僕は自分の目を疑った。

嘘だ。そんなはずはない……。

桜の花の向こうで、月がその姿を変え始めていた。



僕が君と初めて会ったのも、この桜の樹の下だったね。

君はこの樹に寄りかかって空を眺めていた。

それがあまりに綺麗で、儚くて。

薄い水色をさらに薄くしたような空と、淡いピンクの桜の花。

髪を風が撫でる度に、少し目を細める君は、

時折、髪を掻きあげて、空を仰ぐように喉を伸ばす。

細い顎から長く伸びた首筋に、なだらかな喉仏。

唯一、君の性別を知らせる印。

ただ、桜を見つめ……。

いや、君が見ていたのは桜ではないんだろうね。

どこか遠くに思いを馳せる君の、揺れる瞳は何を見ていたのだろう。

君の横顔に、花びらが舞い落ちる。

僕はね、その花びらがとっても羨ましかったんだ。

僕が花びらになって、君に触れることができたらって思って。

おかしいよね?

僕は初めて会った君に、もう触れることを考えていたんだ。

君が男だとわかっていても……。

その美しさに捕らわれてしまったんだね。

少しして、僕に気づいた君は、僕に向かって笑いかけた。

けれどその顔は、次の瞬間固まって、眉根を寄せて悲しそうに顔を歪ませる。

「……どうして……泣いてるの?」

僕はその時、初めて気づいた。

自分が涙を流していることに。

君と桜と空が、あまりにも似合っていて、溶けてしまいそうで、

僕の手が震えていることにも、全然気づかなかった。

「悲しいことがあったの?」

君は小首を傾げ、僕を心配そうに見つめる。

「大丈夫……悲しいわけじゃない。ただ……。」

「ただ?」

首に手をやり、首筋を隠す君に、桜の花びらがひらひらと落ちる。

「……美しいな……と思って。」

君の顔がほころぶ。

「ああ、桜?」

君は顔を上げ、満開の桜の空を仰ぎ見る。

「ほんと……綺麗だよね……。」

違うよ……。

僕が美しいと思ったのは桜じゃない。

君だよ。



僕が……中学2年生。

一つ上の君が中学3年生の春。



僕は一瞬で君に恋したんだ。





それから僕らは序々に親しくなったね。

ゆるやかな、大海に続く川の流れのように、穏やかで優しい時間だった。

会話を交わすようになって、約束して会うようになって。

一緒に映画を観にいった時、僕は初めて君に触れたね。

男同士にかこつけて、肩に腕を回し、君の肩をバシバシ叩いた。

本当は優しく撫でて、抱き寄せたかったのに、その時の僕にはそれが精一杯だった。

そんな触れ方でさえ、僕の鼓動を早くしたんだよ。

でも、親しくなればなるほど、僕の胸は苦しくなる。

苦しくて、苦しくて、自分で胸をぎゅっと握って耐える。

それだけで耐えられるわけもなく、僕は一人で苦しみを逃がす術(すべ)を覚えていったよ。



そんな日が続いた高校2年生の春。

桜が咲き始め、二人で月明かりの桜を眺めていた時だった。

俯きがちな君が、顔を上げ、僕をじっと見つめる。

僕はドキリとして、まっすぐ君を見ることができない。

「おいらを……見て。」

君の透き通る声が、桜の枝を揺する。

僕はゆっくり君に視線を移す。

月明かりに照らし出された君の姿は、光の輪郭を纏って桜の精のよう。

「おいら……翔君が……好き……。」

突然の君の告白に、身動きできない僕は、ただ君を見つめていた。

君はおもむろに僕の頬に両手を添え、その唇をそっと僕の唇に重ねる。

冷たい君の唇に、僕の心臓は沸騰しそうだったよ。

「僕も……。」

震える声でそう言って、僕の頬に添えられた君の両手を握り締める。

離れていく君の唇を追って、僕の唇を重ねる。

花びらが舞う中での口付け。

僕たちが、初めて心を通わせたのも、この桜の樹の下だったよね。



その後の僕たちは、堰き止めるもののない川のように、

欲望のまま、お互いを求め合った。

どこまでも堕ちていく自分達に、酔っていたのかもしれない。

まるで、この時間が永遠に続くかのように、

僕たちの愛が永久に続くと信じて疑わなかった。



あの日も、僕たちは君の部屋で互いを求めて、甘い時間を過ごしていた。

君のクスクスと笑う声。

誘うような瞳。

熱い肌……。

僕はすぐに夢中になった。

君の手も、僕を求めて体中をさまよっていた。

「あ……はぁ……んっ……。」

君の吐息に包まれる幸せ。

僕たちはもう、それ以外考えられなくなっていた。

けれど、君の滑らかな肌を僕の唇が滑っている時、急にドアが開いた。

驚いた僕たちが振り返ると、そこにはいるはずのない、君のお母さんが立っていたんだ。

「智……何してるの!」

お母さんの悲鳴にも似た声が響き渡る。

それ以来、僕たちは会うことができなくなった。










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