Ｋｉｓｓからはじめよう -4-

翔はずっと、さっきのピアスが忘れられなかった。

もうすぐ通りが終わろうとする頃、

「う～ん、やっぱりあのピアス買ってもいい？」

翔が言うと、大野はちょっと困った顔をする。

「えっ？いいけど…。」

「今ならまだ戻れるよね？」

翔は走り出さんばかりの勢いだ。

「俺、ちょっと行ってくる。」

慌てて大野も追いかける。

「おいらも行くよ～。」

翔は急いであの店に戻ると、アクセサリーコーナーに向かった。

「あっ……。」

さっきあった場所にあのピアスがない。

「すみません。ここにあったピアス…。」

近くの店員を呼び止める。

「申し訳ありません。先ほど売れてしまって…。」

「翔君早いよ～。」

大野がやっと追いついた。

「同じものはありませんか？」

「あいにく、あれ一つしかなくて。申し訳ありません。」

翔はがっかりして肩を落とした。

今日の記念にどうしても欲しかったのに。

「他のじゃダメなの？」

大野が慰める。

「ん……、いいや。」

記念だから、一番気に入ったのじゃなきゃ。

翔は諦めて店を出た。

翔が明らかにがっかりしているので、

大野はわざと明るく声をかける。

「翔君、ほらっ！」

通りの最後は大きなお寺だった。

終わりを迎えようとしている桜の、最後の乱舞。

風が吹くたびに舞う花びらが、朱色の屋根を隠していく。

春の空は淡く、桜の花びらは儚く、陽差しのみ眩い。

二人は息を飲んで見つめる。

「きれいだね…。」

翔は大野の袖をぎゅっと握る。

「うん。」

大野はただ、見上げたまま…。