果てない空 -49-

ファミレスの一番奥で、松本とJrの子が向い合わせに座っている。

二人とも下を向いたまま、お絞りを弄ったり、ストローを弄んだり。

店員が持ってきたパスタを黙々と頬張っていると、

溜まりかねたJrの子が口を開いた。



「俺……後悔なんてしてません。」



松本は黙ってパスタを頬張り続ける。



「俺の気持ちは変わらない……たとえ、松本さんが他の誰かを好きでも。」



パスタを綺麗に平らげた松本はお絞りで口を拭うと、

真っ直ぐに正面を向いた。



「本当にごめん。どんなに謝っても足りないのはわかってる。

　俺がお前を弄んだ。それが事実だ。

　俺はお前の体の温もりが欲しかった。

　唯それだけなんだ。どんな罵倒も受けるよ。

　舞台が終わったら……なぐってくれてもかまわない。」



松本は深々と頭を下げた。



「……ひどい…い……。」



目を潤ませ、声が震える。



「ひどいよ……松本さん……。」



松本は頭を下げ続ける。



「俺にはもう、どうにもできないの？

　松本さんの近くにいることはできないの？」



涙を流しながら、言うその子に、松本は言葉がみつからなかった。



「……もう、わかった……。さよなら。松本さん。」



席を立ち、頭を下げ続ける松本を一瞥すると、振り返らずに店を出て行った。

松本はゆっくりと顔をあげ、椅子の背もたれにだらりと体を預けた。



「あの子、幾つだったんだっけな……。」



天井を見上げ、額に右手を当てると、ゆっくり目をつぶった。






今日の舞台も無事終わり、東京での公演は残すところ、あと2日になった。

これが終わったら、大阪公演が待っている。

1週間の大阪公演が終わると、すべての公演が終了する。

もう少しで、トニーとも、リフともお別れだと思うと、

翔は寂しさを感じずにはいられない。

大野漬けの毎日とも、あと少しでさようならだ。






楽屋に戻った二人が並んでダラダラとメイクを落としていると、

松本が楽屋に入ってきた。



「ちーっす。」



二人は松本を見て、元気そうなのにホッとした。



「お疲れ～。」

そう言いながら、大野はまた鏡を覗き込み、クレンジングを塗っていく。



「お疲れ。もうメイク落としたの？」

翔がクレンジングを拭き取りながら松本に笑いかける。



「二人が遅いんだよ。もうみんな帰ってるよ。」

「え～、みんな早っ！」



松本は笑って、テーブルに腰掛けた。

鏡越しに二人の顔が見える。



「ご心配、おかけしました。」



二人は一瞬動きを止めて、松本を見る。



「心配って……？」

大野が首を傾げる。



「ん、まぁ……あれさ、全員に謝った。」

「全員って……。」

「うん。だいたい共演者だしね。誠心誠意、頭下げました。」

「わかってくれた？」

翔が振り向いて微笑む。



「うん。女の人は……遊んであげた…くらいの人が多かったから。」

松本が恥ずかしそうに頭をかいた。



「女は強いね。」

翔が感心したようにうなずいた。

大野も鏡越しにうなずく。



「あの子は？」

翔が、一番気になっていたことを口にした。



「うん。わかってくれたと思う。……二人が話してくれたんでしょ？」



大野と翔は顔を見合わせて笑った。



「違うよ。俺達は何もしてない。」

「したのは私達ですから。」



入り口のドアが開き、二宮と相葉が顔を出した。



「ニノ、いっつもタイミングばっちりだね。」

大野は感心して何度もうなずいた。