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「短編」
にのあい

愛を歌おう ①

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「お前、最近曲作ってる?」

「え?ぼちぼち。それよりここ釣りも……」

雑誌を持って話し続ける俺を見て、大野さんが喰い気味に言ってきた。

「別れよう、ニノ。」

「え……。」

晴天の霹靂とはまさにこのこと。

昨日だって俺を見て笑ってたじゃん。

今朝だって一緒に起きて……。

何がどーなってるのかわからない俺に背を向けて、大野さんが部屋を出て行く。

「大野さ……。」

俺の声は無常にもドアが閉まる音に掻き消される。

ガタン。

俺の手から、青い海を描いた島の風景がこぼれ落ちる。

呼び留めることも、泣き叫ぶこともできず、こうして人生最大の恋愛が終わった。



「二宮さん、今回もすごい売れ行きですね。」

「そんなことないよ。」

「失恋ソングの神様って言われてますよ?」

俺は顔見知りの記者のリップサービスに苦笑いする。

なりたくてなってるわけじゃない。

失恋ソングしか売れないんだから、しょうがない。

「そーなの?知らない。」

俺は手を挙げ、タクシーを止める。

「ところで女優のマユミとは……。」

ほらきた。

本当はそれが聞きたいんでしょ?

「さぁね?あっちに聞いたら?」

タクシーに乗り込むと、すぐにドアが閉まる。

記者はまだ何か言ってたけど……知るか。

「○×町の交差点まで。」

運転手はチラッと俺を見て、ハンドルを切る。

俺はシートに深く腰掛け、ふぅと溜め息をつく。

はいはい。

ご想像通り、別れましたよ、マユミとは。

だから曲が売れたんでしょ?

なんたって失恋ソングの神様なんだから。

大野さんと別れて……俺は失恋ソングの神様と呼ばれるようになった。

その時の気持ちをどう扱っていいかわかんなくて。

俺には曲を作ることしかできなくて。

持って行き場のない思いを、曲に注ぎ込んだ。

もちろん、それくらいで失恋の痛手から立ち直れたわけじゃないけど、

ちょっとは整理できたって言うか……昇華できたって言うか……。

まぁ、そんな感じだったんだけど。

その曲が大当りした。

みんなが俺の曲を聞いて、泣いてるのを見たのは初めてだった。

それから、恋人と別れる度に曲を作った。

大野さんの時ほどじゃなかったけど、どの曲もヒットした。

で、付いたあだ名が『失恋ソングの神様』。

で、もう一つ、週刊誌の見出しによくなるやつが『恋多き男』。

笑っちゃうよね。

普通、こういうのって女につくもんでしょ?

しょうがないじゃない。

別れないと書けないんだから。

誰かと付き合わなきゃ別れられないんだから。

周りもみんな、それを望んでるんだから。

女だって、それをちょっとは期待して近づいてくるんじゃないの?

男は……もういいや。

最大最高の恋だと思ってたよ、大野さんとは。

大野さんは日本でも屈指のダンサーで、憧れる人は多かった。

男も女も。

でも、決まった人はなかなか作らないことで有名で。

駆け出しのシンガーソングライターなんて、鼻にも掛けないと思ってた。

なのに、噂とはちょっと違ってて、くったくなく笑う顔にドキッとして。

意外なことにウマが合って。

何度かの偶然の末、自分の気持ちに気付いて。

そりゃ、ハードル高いよ。

男同士ってだけでハードル高いのに、あっちは売れっ子。

格差もありあり。

下手したら、売名目的って思われても仕方ない。

それでも、大野さんが欲しいと思った。

これはもう運命なんだって。

上手くいった時は有頂天で!

大野さんのこと以外、何も考えられないくらいで。

なのに……。

そんな大野さんを忘れたくて、忘れなきゃいけなくて、

すぐに女作ってみたけど、長くは続かなかった。

仕方ないから次々女作って……。

別れる度に曲作って。

それがなぜか売れて。

駆け出しだった俺が、中堅くらいになった。

記者が追っかけてくる程度に名前も知れて。

タクシーが停まって、ドアが開く。

出ようとしたその時、スマホが震える。

見て見ると姉ちゃんで。

「何?」

スマホを耳に当てながら、カードで支払う。

「ちょっとあんた、今どこにいんの?」

「え?家だけど。」

正確には家の近くだけど。

「悪いんだけど、涼介迎えに行ってくれない?」

「なんで?」

タクシーを降り、目の前のビルを見上げる。

俺のマンションはもうちょっと先。

「あたしの仕事が長引いてんのよ。

「そんなのダンナに頼めよ。」

歩きながらどこかに時計がないか探す。

コンビニの時計が目に入って……5時50分。

「旦那は出張中なの!お願い!」

「そんなこと言われたって。」

「お願い!あんたが一番暇なんだから!」

「暇じゃねぇし。」

「時間の融通が利くのはあんたが一番でしょ?お願い!」

ここから涼介の幼稚園までは歩いて7、8分。

「一生のお願い!」

姉ちゃんの一生のお願い、何回目?

「今度掃除しに行ってあげるから!」

それ、むしろ迷惑なんですけど。

「あ、夕飯もつけたげる!」

どうせ、姉ちゃんの手抜き料理でしょ?

「この間遅れたばっかなの!お願い!」

仕方ねぇなぁ。

「今回だけだよ?」

「ありがと!恩に着る!」

そう言って切れたスマホをポケットに落とし、赤になりかけの信号を小走りで渡る。

実家の近くになんか住むもんじゃない。










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