WONDER-LOVE Ever -114-

「お迎えが来たのなら、送ってもらわなくても大丈夫だね？」

店長がそう言って割って入ると、サトシが小さくうなずき、前に出る。

「すみません。ショウ君の失礼……申し訳ありません。」

「いえいえ、あなたが謝ることはないでしょう。」

「おいらのせいですから……。」

強気な言葉を発していたイケメンをサトシが睨む。

睨まれたイケメンは、困ったように眉を下げる。

サトシはキャリーケースを受け取り、もう一度礼を言うと、セレブに向き直る。

「あの……もしかしたら……おいらと会ったことありませんか？」

セレブがニヤッと笑い、チラッとイケメンを見る。

セレブの顔を見て、確信を持ったサトシが続ける。

「駅で……。」

「寂しいなぁ。俺はすぐに気づいたのに。」

セレブがサトシの顔に手を伸ばそうとしたのを、イケメンが跳ね退ける。

空に浮いた手を、困ったようにちょっと上げ、セレブは唇を撫で、クスッと笑う。

「ウチのhoneyに似てるからね？忘れるわけない。」

honeyと呼ばれた猫背が、ムスッとした顔でセレブを睨む。

「払ったら行くぞ。」

「いいじゃない、もう少し。」

「そっちの番犬の縦ジワ、見えないのか？

　そのうち、噛みつかれんぞ。」

「それも楽しいじゃない。最近、刺激が少ないから、暇つぶしにはちょうどいい。」

イケメンが、今にも牙を剥きそうな顔でセレブを睨む。

「ショウ君！」

サトシがイケメンの腕を掴み、首を横に振る。

「ほら、行くぞ。」

猫背が扉を開けると、さりげなくセレブが後ろから扉を押さえる。

「もうちょっと付き合ってくれてもいいのに。」

「俺はそんなに暇じゃねぇんだ。ニノにバレると大変なんだぞ。

　今日だって……。」

「はいはい。すぐ車出すから。

　心配だったんでしょ？しょうがないじゃない。」

「ば、ばか、心配なんかしてねぇよ。」

セレブがサトシに向かって、ふふっと笑う。

「白い猫が、家に帰れるか見届けたかったんだって。

　honeyは優しいよね。」

セレブがサトシにウィンクする。

イケメンがそれを遮るように智の前で手を振る。

そんなイケメンを見て、サトシもふふっと笑う。

「またね。可愛い子ちゃん。子猫ちゃんと仲良くね？」

セレブが芸能人さながらの笑顔でサトシに笑い掛ける。

戸惑ったサトシが目をパチクリし、イケメンが後ろからサトシを抱き締める。

セレブは声を上げて笑い、猫背と共に店を出て行く。

扉がパタンと音を立てて閉まるのと同時に、店内からふっと笑いが起きる。

籠の中のノアとブランも顔を見合わせて目をパチパチさせる。

「すごかったね～。なんか、ガブリエル様みたい！」

「ミカエル様でもあそこまではしない！」

「帝王様とママンはあんな感じの時あるよ？」

「あんな感じって？」

「可愛い子ちゃんとか、子猫ちゃんとか！」

「子猫ちゃんは僕たちでしょ？」

「そうだけど～。」

「honeyなんて、ミカエル様が天使口説く時しか聞いたことない！」

「僕が聞いたのはガブリエル様だった！」

「え？あの人、天界の人？」

「そうかも！だって、ママンに似た猫背の人がいるのに、サトシにウインクしてた！」

「してたしてた！帝王様だって、ママンいしかしないのに！」

「優しい帝王様もママン一筋みたいよ？ほら見て……。」

ノアとブランが籠の隙間から外を覗きみると、

サトシを抱きしめたままのイケメンが、今にも牙を剥きそうな顔で店内を牽制している。

店員がサトシに近づくのを体で避けると同時に、

ガタンと大きな音がして、店内が慌ただしくなる。

何が起こったのか気になったノアとブランが、

押しのけ合って外を見ようと籠の中を動き回る。

「ノア邪魔！」

「ブランこそ！」

カウンターの方に人が集まり出したのがチラッと見える。

「誰か倒れた？」

「血の匂い？」

さらに気になるブランとノアを気にしながら、サトシがキャリーケースを背負い直す。

「さ、おいら達も帰ろ？」