WONDER-LOVE Ever -49-

喫茶店に戻ったが、男はまだ仕事中で、キャンディを舐めた様子はない。

二人は落胆して溜め息をつく。

「まだだね。」

「うん、まだ。」

ブランは片方の羽を広げ、一房歪んだ羽を直す。

「僕、思ってたんだけど。」

不器用そうに羽を直すブランの手を避け、ノアが羽の流れを直す。

「ん～？」

「帝王様の弱み見つけてもさ。」

「んふふ、ノア、くすぐったい！」

羽を弄られてくすぐったがるブランが、体を捩る。

「もうちょっとだから動かないで。」

「ん～、無理！くすぐったくてダメ！」

ブランが羽を閉じようとするのをノアが遮る。

「ほら、このままじゃくしゃくしゃ。」

ノアが強引に羽を直すと、ブランが笑い転げる。

「ダメ！もう触んないで！ふふふっ、ノア！」

「もう終わるから。」

ノアがササッと最後まで飛び出ていた羽を直す。

「ほら、これで大丈夫。」

直ったと同時に、ブランがパサッと羽を閉じる。

「綺麗な羽なんだから。」

「ノアの羽の方がカッコいいよ。」

「そお？」

「帝王様とお揃いなのは……ビミョーだけど。」

「ブランはママンとお揃い。いいなぁ。」

「帝王様だって、ああ見えてイケメンだし……カッコいいよ？」

「そうなんだけどさ……白いブランが羨ましい。」

「ノアの角もきっと帝王様みたいに大きくのびるよ？」

ノアは自分の角を撫でる。

「そうかな？大きくかっこよく……なる？」

「絶対！」

ブランは力強くうなずき、まだ小さなノアの角を撫でる。

「んふふっ、くすぐったい！」

「ノアの角はキラキラしてるね？帝王様のはいかにも強そうなマッドなのに。」

撫で続けるブランの手を掴み、自分で角を撫でる。

「子供だからかな？それともママンのせい？」

「じゃ、ノアもおそろいだね！三人でおそろ！」

「んふふっ。」

ノアが笑ったのを見て、ブランも笑う。

「あ……さっき何言い掛けたの？」

「さっき……？ああ！帝王様の弱み見つけてもね、無駄……じゃない？」

「なんで？」

ブランがあからさまにムッとする。

「だってさ、帝王様の弱みなんて、過去にいかなくてもママンじゃない？」

「うっ、……そ、そうだけど……。」

「ママンにお願いするのが一番手っ取り早くない？」

「ううっ……それはそうなんだけど……。」

「ブラン……人間界に来たかっただけ？」

ギクッとするブランに、追い打ちをかけるようにノアが言う。

「実験……してみたかっただけ？」

ギクギクッとブランの首がすくんでいく。

「で……帝王様の過去の恥ずかしいとことか見つけて……

怒られた時に使おうと思ったりなんかした？」

もう何も言えないブランが、空笑いして天空を見つめる。

「図星だ。」

ノアが首を竦めて溜め息をついた。



「い、痛っ！や、やめっ！ブルっ！」

帝王様の鼻に足を掛け、角を掴もうとしたブルの尻がズルズルと落ちて行く。

「ブルッ！」

慌てて帝王様がブルの腰を掴む。

腰の辺りをよじ登っていたヴェールとジョーンヌが帝王様の声にビクッとする。

「「ぅっ、うっ、ふぅっ、うわぁ～～ん！」」

一緒に泣き出した二人に、帝王様はどうしていいかわからない。

「ウ、ウリエル、なんとかしろっ！」

ウリエルも泣いているルーを抱いてあやしているが、一向に泣き止まない。

「しろとおっしゃる前に、ご自分でなんとかしてください。」

「なんとかしろだと？」

帝王様はブルを片手にジョーンヌの背を叩き、片足を揺らしてヴェールをあやす。

「これ以上、どうしろと言うんだ！」

帝王様の声の大きさに、ビクッとした三人が一斉に泣き出す。

「あ、ああ～、よしよし、怖くない、怖くないからな？」

また両手片足であやしても、子供たちが泣き止む様子はない。

「悪魔ども！お前らどこへ行った～～っ！」

帝王様の声が、地獄中に響き渡る。