果てない空 -47-

パンッと楽屋のドアが開く。

翔は入ってく来るなり、メイクを落としている大野に向った。


「た、大変…。」

「翔君、どうしたの？」


大野は鏡を見ながらのんびり聞き返す。


「潤が…。」

「松潤が？どうしたの？」

「社長に呼び出された。」

「社長？なんで？」


目の周りのメイクがなかなか落ちないのか、大野は鏡をグッと覗き込む。


「あいつの…おイタがばれた。」


翔はテーブルの上のミネラルウォーターを一気に喉に流し込む。


「おイタって？」

「俺達も見たじゃない？男でも女でも……お遊びが過ぎた…あれ。」

「あ…。」


大野は翔に向き直る。


「週刊誌が嗅ぎつけたらしいけど、社長が止めたって。」

「じゃ、載らないんだね。」

「うん、舞台に迷惑がかかるからって。」


翔はやっと荒い息遣いが治まり、穏やかないつもの口調に戻る。


「自業自得なんだけど…。なんだか俺のせいでもある気がして。」

「それを言うなら、おいらだって…。」


二人は黙り込んで相手の顔色を伺う。


「潤とこ…行く？」

「うん。」


翔の言葉に大野はうなずくと、すぐさま手を引いて、楽屋を飛び出した。



松本の楽屋は少し離れたところにある。

対立する二つのグループなので、楽屋も離してあった。

楽屋の入り口は開けっ放しの状態で、入り口には暖簾がかけてある。

楽屋の前まで来ると、言い争う声が聞こえてきた。


「だから、どうしてダメだなんて言うんだよ。」


声の主はこの間、松本と一緒にいたＪｒの子？


大野は暖簾の前で立ち止まった。


「悪い。……俺がやりすぎた…。

　でも、お前にはちゃんとして欲しいんだよ。」

「ちゃんとってなんだよ！」

「もう、俺の近くに来るな。」

「意味がわかんないよ！」


楽屋の中から少年が勢いよく出てきた。

翔と大野の間を、目に涙を溜めながら走っていくのは、

やはり、この間の子だった。

大野は眉間に皺を寄せ、走っていく後ろ姿を見つめた。

二人は顔を見合わせ、暖簾をくぐる。


「松潤。」


メイク台で、メイクを落とし終えた松本が二人に気づくと、

ちょっとバツが悪そうに頭をかいた。


「潤、社長に呼ばれたんだって？」

翔も続けて楽屋に入る。


「もう聞いたの？……ま、身から出た錆って言うの……？」

松本が自嘲気味に笑う。


「今は大丈夫なんだろ？」

「もちろん……あれからはないよ。

　でも、……やりすぎたよね。我ながら。」


松本の乾いた笑いが、翔の心を締め付けた。


「おいらがもっとちゃんと……。」

「ああ、それは違うからね。翔さんもリーダーも自分のせいなんて

　思わないでよ？俺、そんなに子供？全部、俺が招いたことなんだから。」

「潤……。」


大野は松本の肩を力強く掴んだ。


「松潤一人のせいじゃない。」

「違う。俺一人のせいだから。」

「そんなわけないだろ？」

「そうなんだって！」


言い終わらぬうちに、松本はメイク台を拳で叩いた。


「さっきの……見たんでしょ？」

「え？……あ…うん。」


大野は小さくうなずく。


「あいつ、俺が好きだって言うんだよ？一緒にいたいって……。

　俺は寂しさを埋める道具にしただけなのに…。」

「そんなことないよ……。」


翔は松本の隣の椅子に腰掛ける。


「いや、そうなんだよ。」


松本はメイク台に肘をつき、組んだ両手を額にあてた。


「あいつは全然そんなやつじゃなかったのに…、

　俺があいつを……。」


松本は溜め息をついて、顔を伏せた。