果てない空 -45-

「智君、さすがだね。」

「んふふ。何それ。」


楽屋に戻りながら、翔は大野の肩を抱く。


「いや、だって、2番から歌っちゃうんだよ？」

「もう、言わないで。」

大野が顔を両手で隠す。


「智君でも間違えるんだなって嬉しくなった。」

「嬉しいかぁ？」


楽屋のドアを開けると、翔はそのままソファーに飛び込む。


「ふふふ。っていうか、その後だよ。」


大野は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、

ゴクリと一口飲む。


「2番から歌ったから、どうするのかなって思ったら…。」


翔は頬を上気させて続ける。


「そのまま2番歌っちゃうんだよ。？しかもすっごい感情込めて！」

「だから！もう言わないで～。」

「だって、普通そんなことできる？パニクるでしょ。普通。」

「いいから～！」


大野は翔の隣に来ると、翔の口を手で塞いだ。

その手を払いのけようとして、二人はもつれ合い、

ソファーの上に折り重なって倒れこむ。


「痛っ！智君…！」

「ああ～、ごめんっ！」


翔の上に倒れこんだ大野は急いで上半身を起こし、翔の様子を確認する。


「大丈夫？」

「ん……っつ……顔が……。」


大野は慌てて翔の顔を覗き込む。

「顔？顔ぶつけた？痛い？」


大野はそっと翔の顔を両手で挟み、いろんな角度から

怪我がないか確認する。


「イケメンに傷がついたらどうしよう……。」

大野は眉間に皺を寄せて、心配そうに翔を見る。

その顔を見て、翔はおかしそうに笑い出す。


「何？だました？」


大野は頬を膨らませ、口を尖らせる。


「本気で心配したのに！」

「ごめん、ごめん。」


翔はまだ笑い続けてる。


「もう、いいよ。翔君なんか。」

「ごめんって。智君があんまり可愛いからさ。」


翔は大野の腕を引いて、自分の胸の上で抱きしめる。


「すごいね。智君は…ほんと。」


上半身を少し起こすと、大野の額に唇を当てる。


「翔君……、ほんとにどこも痛くない？」


心配そうに見つめる大野を見て、

「…大丈夫。痛くないよ……。」

そう言うと、翔は大野の手を握り、手の甲に口付ける。


「櫻井さん！明日の…っ……！」


突然、共演しているJrの後輩が楽屋に入ってきた。

後輩はびっくりして言葉につまる。

翔と大野もビクッとして、入り口を見たまま、動けない。

大野の上半身は翔の上に乗っかり、

翔の口元には、大野の手の甲がそのままくっついている。


後輩の顔が見る間に赤くなっていった。