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イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Swan Lake ~ ⑩

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久しぶりの母さんの手料理。

特別手が込んでるわけでもなく、珍しい食材を入れるわけでもない。

シンプルに鶏肉と人参、玉ねぎのなんの変てつもないマカロニグラタン。

櫻井家特製の……なんて、言える代物じゃないけど、

それでも子供の頃から好きだった。

仕事もしてて、料理ベタな母さんが作る、ちょっと手の込んだ料理。

俺が好きだからって、作ってくれるのが嬉しかったのかな。

今食べても好きだなって思う。

「うまっ。」

思わず出た言葉に、母さんが嬉しそうに笑う。

「このパンも美味しいの。最近、近所にできた店でね……。」

母さんも楽しそうだ。

これからはたまには顔出してみようかな。

そうやって二人で楽しく食事していたら、父さんも帰って来た。

何年ぶりかの親子団欒。

ウチの親の良い所は、こんな不甲斐ない息子に、それでも好きにさせてくれるとこ。

結構いい大学に入ったのに、音楽への夢が捨てきれなかった息子を黙って見ててくれる。

親孝行は全部妹たちに任せっぱなしの俺は……少し反省。

「じゃ、俺、そろそろ帰るわ。」

気付けば11時を回ってる。

智は遅くなるだろうけど、帰るのに1時間近くかかるから。

「なんだ、もう帰るのか?」

「明日、打ち合わせが早いんだ。」

時計を見て、泊まってけばいいじゃないかと言いたげな父さん。

「そう……。」

「また来るよ。」

少し寂しそうな母さんの肩を叩いて、実家を後にした。



家を出て、駅に向かいながらスマホを開く。

メールと着信が数件。

まずはメールを開く。

『今から飲みに行ってきます!』

文字を見て、クスッと笑う。

続いて変顔の智の写真。

わざわざするメールでもないのに。

リハから飲みまで時間があったのかな。

次のメールは、

『遅くなりそうだから、泊まってくかも。』

泊まる……?

どこに?

時刻を見ると、送信は11時半を過ぎた頃。

一緒に住み始めて、外泊なんて初めてだ。

久しぶりの友達に、飲み過ぎたか?

こういう時、どうするのが一番いいんだろう。

心配だから帰って来いと言うべきか、

寛大さを発揮してわかったと受け入れるべきなのか。

今日は渋谷で飲むって言ってたな。

渋谷……。

すぐに脳裏をよぎったのは渋谷のラブホ街。

ここから渋谷までなら30分。

商店街の先に見えて来た駅に向かって早足になりながら、着信を確認する。

智からのが2件。

すぐに電話を掛ける。

プルルルル……。

飲んでて気づかない?

飲み屋は大抵うるさいからな。

泊まるかもって言うくらいだから、相当飲んでる?

飲み過ぎた智は……。

家呑みの智を思い出して……顔が青くなる。

大丈夫か?

あんな調子でしなだれかかって、上目遣いで誘われたら……。

男も女もみんなイチコロじゃないか!

い、いや、あれは俺の前だったから……。

そうだよ、俺の前だったからだ。

誰彼かまわずあんな状態になるわけない!

でも、アルコールが入って潤んだ瞳で見上げられたら?

ちょっと寄りかかったのを誤解されたら?

昔の仲間だ。

気心もしれてる。

ふにゃふにゃの笑顔で、舌っ足らずに甘えてきたら?

智のことが好きだったやつがいてもおかしくない。

智がトイレに行ったところを見計らって、二人きりになって……。

まずいまずいまずい。

あ~、早く出てくれ智!

電話は何度コールしても出ず、機械アナウンスに変わる。

こんな風に、連絡が取れないことなんか、しょっちゅうある。

大したことじゃない。

智も大人なんだから、そんなに心配しなくても……。

いや、そうじゃない。

大人だから心配なんだ。

智が大人の色気で溢れてるから心配なんだ!

再度携帯を鳴らす。

知らなかった。

俺がこんなに束縛の激しい男だなんて。

ちょっと連絡が取れないくらいで、こんなに不安になるなんて!

駅の階段を上りながら電話をかけ続ける。

三度目に電話を掛けた時、2コールで電話が繋がった。

「……もひもひ?しょお?」

「智っ。」

やばい、相当酔っぱらってる。

「んふふ、いまどこぉ~?」

「あ、実家の近く。智は?渋谷?」

「ぅん、まだみんなでのんでるよぉ~。」

階段を上り切り、通路を小走りで改札に向かう。

「まだかかるの?」

「んふふふふ、ダメだって……。」

「何?何がダメなの?」

「ん~、ちが、しょおじゃないよぉ、ケントがでんわぁ、とろうとする~。」

「ケント?誰?」

「あんとるらっせのうまいやつ~。」

あんと……バレエ仲間だな。

しかも、智に馴れ馴れしいやつ!

「とりあえず、そいつから離れて!」

「ん~、もぉはなれたにょ。」

「今日、泊まるの?」

「やめろってぇ……ついてくんなっ……ひゃはははは……。」

「智っ。」

やばい。酔った上に、智にちょっかい出すやつまでいる!

「ん~?なにぃ?」

「迎えに行くから!」

「……おむかえ~?」

「そう、迎えに行くから!」

「わかったぁ。」

「じゃ、そこ教えて。」

「ここ……?ここどこぉ?」

智の声が小さくなって、誰かに何か聞いている。

できればそんな状態で他のやつと話して欲しくない。

ないが……智にそこがわかるわけもなく……。

「ん~っとねぇ、しぶやくぅどうげんざかぁ……。」

智は誰かに言われるまま住所を口にし、電話が切れた。

俺は猛ダッシュで改札を抜け、ホームへ急いだ。

電車なんか来てなかったけど、走らずにはいられない。

智、羽目、外し過ぎだろ!?










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