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イチオクノホシ(やま)

イチオクノホシ ~ Swan Lake ~ ⑨

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「痛っ。」

肌の引っ張られた肉を見て、智が笑う。

「皮だけ引っ張られるのな。」

胸の上で、面白そうに2本の毛を弄る智の手を掴む。

「智の中には黒鳥と白鳥とどっちも存在するんだね。」

「どっちも?」

「意地悪智と可愛い智。」

智の髪をもう一方の指に絡め、その髪にキスする。

智の笑う声がする。

「お好みに合わせて、どっちにでもなってあげるよ?

 今はどっちがいい?」

智が顔を上げ、俺の手から髪がスルリと逃げていく。

「……可愛い智。」

ニコッと笑った智が、俺の唇に唇を当てる。

「了解。じゃ……もっかいしよ?」

可愛い顔が可愛くおねだり……。

その手はそっと俺のに添えられて……。

これって逆に小悪魔じゃね?

俺、イッたばっかりなのに!

……智もだけど。

そこはそれ!俺と智の年の差!

「大丈夫。おいらが元気にしてあげる!」

「ば、ばかっ!やめっ!」

蒲団に潜って行く智を引き留めようとしたら、俺のが生温かいもので包まれた。

「うっ……。」

蒲団の中から、ニコッと笑う智の片目が見える。

智の中じゃ、白鳥も黒鳥も混ざり合って、どっちも顔を覗かせる。

三全音……増4度の不協和音みたいなもんだ。

やっぱり……小悪魔だ!



その日はリハの後、みんなで飲みに行くからと、智は昼頃出かけて行った。

昔所属していた団のみんなと久しぶりに会うらしい。

智は、自分から昔の友達に連絡するようなタイプじゃない。

あの後輩の計らいか?

きっと、本当に智が大好きで、ただ智だけを追っているだけなんだろうな。

それが智にとっては脅威になってる……。

追い掛ける者と追われる者。

トップを目指せば、どうしたって現れる構図。

追う立場だった智が初めて足元を見たってことなんだろうけど……。

俺には一生味わうことのできない怖さ。

トップを目指す者だから、トップにいる者だから味わうことのできる怖さ。

ちょっと羨ましい気がするのは、凡才だからか?

もちろん、プライドが傷つくことなんかいくらでも味わった。

俺よりいい曲を書くやつはいっぱいいて。

すげぇなと思う反面、何くそと思って、やたらめったら作ったこともあったけど……。

こればっかりはね。

音楽に点数は付けられない。

バレエも同じだと思うけど、多くの人が指示するものがいいもので。

コンクールなんかだと選ぶ人の好み?

基礎点をクリアしてれば、その先は……未知の世界。

誰が何をいいと言うかはその時々で変わってもくる。

はっきり勝負がつくことなんかほとんどない。

そんな世界で認められ続ける智はすごい。

形の決まったバレエと言う世界で、

智の、智にしかできないバレエを踊り続けてる。

俺も……俺にしかできない音楽を作っているのか?

少し考えて、俺も出かける準備をする。

久しぶりに……ピアノが弾きたくなった。

このアパートにあるような機械的なやつじゃなくて。

実家にあるグランドピアノを。



久しぶりに実家に帰ると、昔は文句ばっかり言ってた母さんが、

優しく迎え入れてくれてびっくりした。

さらにびっくりしたのは、リビングのCDラックに並んで置いてあった俺の曲。

イチオクノホシと智の為に書いた曲。

この間、CMに使われた曲もあった。

何も言わないけど……応援してくれてるんだな。

なんだか胸にジンとくる。

こんな歳になっても、まだうだつの上がらない俺。

最近はやっと食べていけるようになったけど……。

心配……してるんだろうな。

目頭が熱くなる。

申し訳ないのと、母さんのあったかさに。

何か手土産持ってくればよかった。

そう言ったら、「いいわよ、そんなの」と笑われた。

母さんと少し話をし、ピアノを弾きに行く。

ピアノの置いてある部屋に入ると懐かしい匂いがする。

変わらない部屋。

変わらない俺のピアノ。

蓋を開け、キーを叩く。

ポーン。

響くのはAの音。

音の余韻を耳で確かめる。

狂ってはいないようだ。

調律も……してくれてるらしい。

椅子を引き、腰かける。

この部屋にはピアノしかない。

世間の雑音も、しがらみも、何もないこの部屋で、鍵盤に手を添える。

思い浮かんだのはイチオクノホシ。

右手を滑らせ、指に力を入れる。

智が踊るように、俺も、俺のピアノを弾き始めた。



弾き始めたら、夢中になっていて……。

携帯が鳴っていることにも気づかず、夢中で引き続けた。

ふぅと息を着いたら、窓の外はすっかり暗くなっていて、びっくりする。

今、何時だ?

携帯で確認しようと鞄を引き寄せた拍子にドアが開く。

音の止んだのを見計らってか、母さんが入って来る。

「ご飯、食べてくでしょ?」

「あ、うん……。」

「翔ちゃんの好きなマカロニグラタン、作ったから。」

いつでも行けると思うと足が遠くなるもの。

久しぶりに帰って来た息子に、嬉しそうな母さんの顔を見て、

断る気にはなれなかった。










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