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STORY

STORY scene#10

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「それで?やっぱりそういう関係になっちゃったんですか?」

菊池君がやや興奮気味に身を乗り出してくる。

「いや……それはどうかわからない。私が知ってるのはここまでだから。」

私はそう嘯(うそぶ)いてお冷を掴む。

これだけしゃべれば喉も乾く。

「そんな……。気になるじゃないですか。」

「二人が触れ合ったかどうか?」

私は笑ってお冷を流し込む。

氷も融け切って、ほんのり冷たい水が心地いい。

「もちろんそれも気になりますけど……二人の気持ちは……通じ合ったんですか?」

少し湿った唇を舌先でペロッと舐める。

「そうだね……君はどう思う?」

「もちろん!通じ合ったと思います。いや、思いたい!」

「ははは。素直な感想だ。」

お冷のグラスをテーブルに置くと、店員がやってきて私と菊池君の前に

ガラスの器に乗ったプリンを置く。

プルプル震えるプリンはいかにも柔らかそうだ。

「僕の相談の答え……つまりはこういうことですね?

 人が心を奪われるのに、どんな理由も必要ない!」

菊池君はスプーンを私に翳しながら断言する。

私も笑ってスプーンを手にする。

「君は優秀だ。」

さっそくスプーンでプリンを掬おうとしたのに、菊池君は話を続ける。

ここのプリンは黙って味わいたいのだが……仕方ない。

「男が大野さんに惹かれたのも、大野さんが男に惹かれたのも、

 何をきっかけにし、何に惹かれたのかは……わかりません。

 ただ、声に惹かれたにしろ、見た目に惹かれたにしろ、

 惹かれることが真実で、惹かれたが故に行動に起こす。」

私は話を聞きながら、プリンを口に頬張る。

うん、旨い。

「大野さんは被写体ならぬモデルに惹かれ、恋をした。」

菊池君はスプーンを使って、ドラマティックに話し続ける。

「恋だったのかどうかはわからないよ。

 私は男からしか話を聞いていないからね。」

「いや、きっとそうです。恋に落ちたんです!」

私は笑って、またプリンを頬張る。

「男も……もしかしたら、電話の時点から恋してたのかもしれない。」

ああ、そうかもしれないね。

男は、その時から惹かれてたのかもしれない。

だとすると、大野さんも……。

「大野さんも掲載したいと言ったってことはその時点から……?」

「奇遇だね。私も同じことを考えていたよ。」

私達は顔を見合わせ、笑ってプリンをスプーンで掬う。

同時に口へ運び、私が美味しさに笑顔になると、菊池君はびっくりしたように目を見開く。

「旨い!」

「そうだろ?ここのプリンは絶品なんだ。隠れた銘品だ。」

甘い舌越しと、キャラメルの焦げた香を楽しみつつ、喉に送り込む。

「大野さんは……。」

菊池君は次のプリンをスプーンで掬って私を見つめる。

「男が思ったより若かったんですか?」

「いや、出会った当時、40代半ばだった。男から見れば、父親のような歳だね。」

「大野さんの生活費は?絵を描くだけでは食ってはいけないでしょう?」

「絵を売っていたらしいよ。ポツポツ買う人がいたらしくってね。

 高く売れるわけではないらしいけど、展覧会に出すと、

 一人二人欲しいと言う人が現れたらしい。

 それで画材を買ったり生活費にあてたり……なんとかなっていたみたいだね。」

「へぇ~。それで生活できるならすごいですね。僕なんて、借金ばかり増えるのに。」

菊池君が肩を竦めてプリンを口に押し込む。

「先生、この話、撮ってもいいですか?」

「撮る?映画?」

「来年のコンテスト用に。ショートムービーで。」

私は、少し首を傾げて考える。

「二人に聞いてみないと……。」

「お願いします!」

菊池君がテーブルに頭が付きそうなほど頭を下げる。

「許可を出すのは私じゃないよ?」

菊池君が縋るように私を見上げる。

「できるだけのことはするけど……。」

「ありがとうございます!」

菊池君の顔が、パッと明るくなって、最後のプリンを頬張った。

「君の顔が明るくなってよかった。」

私も最後のプリンを掬う。

「僕が……心を奪われたのも男性なんです。」

掬ったプリンを口に入れ、最後の甘さを味わう。

「そう……。」

「なんとなく、いけないことのような気がしてたんですけど……。

 先生の話を聞いて、二人の関係が崇高なもののようにも感じて……。

 間違ってるわけじゃないんだなって思えました。」

私は笑って両手を組む。

「いい映画を楽しみにしているよ。」

「はい。」

「おっと、そろそろ行かないと。」

私は壁にかかった時計を目にし、さらに腕時計で確認する。

「お時間作って頂き、ありがとうございました。」

「いやいや、私も楽しかったよ。」

伝票を持って立ち上がると、菊池君の手が私の手首を掴む。

「いいです。先生のお祝いに僕が払いたいくらいなのに。」

「気にしなくていいよ。言っただろ?順番だって。

 君はもう少しゆっくりしていくかい?」

「はい。」

私はうなずき、伝票を掴んでレジに向かう。

少し遅くなったか?

手早くレジを済ませ、まだ席に残っている菊池君を振り返って見る。

「櫻井先生!シナリオ書いたら見てください!

 ごちそうさまでした!」

私は大きくうなずいて、店を後にする。

小雨のぱらつく中を、早足で駅に向かう。

駅まではほんの5、6分。

濡れるほどではない。










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